日ノ本高校のミツナリ君

GOAT

転校編

第1話 日ノ本高校

 兄様はよく「お前はとても明るくなった。良い事だ」と僕の頭をなでていた。僕はずっとこの性格なのに。

 うたは僕の妹なのに何故か「妹である」ことに違和感を感じていた。その度にうたと「もしかしたら前世で恋人か友達だったのかも」と笑いあった。


 ずっと不思議に思っていたことの答えはあっさり出た。


 そうだ、僕は、あの人の小姓で、家臣だったはずなのに。

 僕は、もっと無口だったはずなのに。


 僕は、あの時、首を斬られて死んだはずなのに。


 こう言うのって何だっけ?


 嗚呼、確か、仏の教えにあった輪廻転生ってヤツだ。




 石田治部少輔三成、数百年後の未来に転生しました






――




 転生を自覚したからといって周りの対応も僕自身もそんなに変わらなかった。

 まあ、そうだよね。転生していきなり激変して無双するとか何処のラノベだよ。それに、今の日ノ本は僕以外にも転生者で溢れているらしい。

 ただ、変わったのは髪型と学校だ。


 今までうたと一緒にのばしていた髪を肩で切りそろえた――失敗してガタガタになったのは仕方のない事だ。素人だし――


 学校は僕みたいな転生者の集まる「日ノ本高校」に行くことになった。――今の学校は非転生者向けだし、もしかしたら、あの人にもう一度会えるかもしれないと思ったから――


 そして今日は登校初日。気合いを入れていかないとです!




――



 その学校は正しくカオスだった。


 まず、駐輪場に馬がいた。何だよ、馬って。何でなんだ。「駐輪場」って書いてんじゃん。自転車かバイクだろ普通。


 校舎からはいろんな騒ぎ声が聞こえてきた。「道長覚悟ぉ!」とか、「板垣死すとも!」とか言ってるけど、現代って殺し殺されってダメなんじゃなかったっけ……?



 いけない。初日から心が折れそうだ。僕はあの人とまた会うって決めたのに。



――



 前世と性格も口調もかなり変わった石田治部少輔三成です。

 前世と今世でギャップがあると困ることが一つ。


 現在、前世の同僚に本当に石田三成なのかを疑われています……


「だぁーかぁーらぁ! 僕は! 本当に石田三成なんですって!」

「はぁ〜〜ん? 石田三成? オマエが? ウッソだろ!? 三成はもっと、こう、根暗野郎だったじゃにゃーか!」


 コイツには言われたくない。今、一番僕のことを疑っている目の前の男は、何があったのか転生してから頭には猫耳が付いて語尾も「にゃ」に変化していたのだから。


「はぁ!? お前には言われたくねーですよ小西行長! なんです、その取ってつけたようなネコミミと語尾は! まさかお前、そんな趣味だったとか……? うわやだ。そんなヤツと同僚だったとか思いたくねーです」

「やっぱオマエ三成だ! いっつも一言余計なんだにゃブァーーーカ!」


 それでも、見た目や口調が変わっても、小西は小西だった。あの時の感覚が思い出されて、懐かしくて、口調が乱れてしまう。

「ハッ! まったく言い返せてねーですよ! ざまぁないですね!」


「……三成……覚えてるか……」


 ふと、後ろから声をかけられる。振り返って見るとあの時よりも幾分か感情の消えた、あの時、血反吐を吐くほど憎んだ顔があった。

「えっ!? 貴方、まさか……」

「……家康……」

「いっ家康!? 何でまた、そんな根暗になってんです!? 貴方、もっと陽キャだったでしょう!?」

 おっといけない。また口調が乱れてしまった。


「……うん」

「うーーん、何でこうなったのか……まるで前世の僕のよ、う……ハッ……! まさか……!」

 そう、僕が家康のような陽キャになったのも、家康が僕みたいな根暗になったのも、あの現象なら納得がいく。

「……?」

「もしかして僕ら、性格が入れ替わって転生したのでは? それなら僕の口数が増えたのも、貴方が根暗になったのも納得がいきます」

 うたが持っている小説や漫画で何度も見た。「入れ替わり転生」だ。

「……なるほど……」


「……佐吉? 佐吉かい?」


 またしても後ろから声をかけられた。僕がずっと焦がれていた敬愛する主君の声。嬉しさのあまり言葉がつっかえるし声がうわずってしまう。

「……っ! 秀吉様! はい、佐吉です! 石田三成です! 再び、貴方に出会うことができて、その、とても、嬉しく思います……!」

 秀吉様は僕の事をどう思うのだろうか? 結局、僕はあの時、豊臣を守ることができなかったのだから。恨まれている可能性すらある。


「うんうん、ワッシも嬉しいよ。っていうか君、そんなにおしゃべりだったっけ?」

 ああ、秀吉様は生まれ変わっても寛大なお方だ。僕みたいな愚か者にも出会えて嬉しいと言ってくださる……!

 それはそれとして、あまり触れられたくない事にも触れられたけど。

「うぅっそうなんですよ……生まれ変わって口調も性格も変わったんです……」


「……ヒデ……三成……部活……」

 家康が秀吉様のそばで囁く。って言うかもっと文章でしゃべりましょうよ。前世の僕でも文章で話してましてからね?


「んん? あっそうだった。佐吉、君、入る部活は決めた? うちの学校、部活は絶対に入んないといけんからねぇ」

 そう、日ノ本高校は行事を行う際にクラスで行動するのではなく部活で行動をする。例えば、体育祭は部活対抗戦になるそうだ。そのため、全校生徒が部活動参加を義務付けられているのだ。


「えっと、まだ、決まってないです」

 当然、転校したばかりの僕は入りたい部活が決まっていない。一週間の猶予があるものの、時間的にはかなり厳しい。

 できれば秀吉様について行きたいが僕は得意不得意が激しいため、部活によっては足手まといになりかねない。


「それならウチの部活に入ってくんない?そこそこ大きくなったけど会計係が居なくて困ってたんだよねぇ」

 秀吉様からまさかの嬉しいお誘い。会計なら力になれる。むしろ得意分野だ。答えはもちろん、笑顔で、大きな声で――


「ハイ、喜んで!」




 部室に行った時に今の返事を後悔したのはまた別の話……



――


今回の初出人物


 石田三成

主人公。五奉行の一人で関ヶ原の戦いで斬首された西軍の人。

転生したら家康と人格が入れ替わっていた。秀吉のことが(主従的な意味で)好き。


 石田正澄

石田三成の兄。

転生したらブラコンかつシスコンになった。


 石田うた

三成の前世の嫁で今世の双子の妹。皎月院の名前で知られている。

体重と髪型以外は三成に瓜二つ。


 小西行長

五奉行の一人で関ヶ原の戦いの時に斬首された西軍の人。

転生したら猫っぽくなった。


 徳川家康

五大老の一人で東軍の総大将。

転生したら三成と人格が入れ替わっていた。三成のことが(友達になりたい的な意味で)好き。


 豊臣秀吉

三成の主君の天下人。

普段はかなり無気力な人。三成のことは昔も今も気に入っている。

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