四十話 魔導零剣
四十話 魔導零剣
「凄い、あれがユイさんの奥の手……」
生命操作魔術。あれは師匠があの地下空間に芝生を敷く時に使ったと言っていたけれど、自分を媒介として放つ、もしくは自分の身体に向けて放つ通常的な魔術と違い、付与術に当たるそれは難易度が格段に高いと言っていたのを覚えている。
しかもそれを、あの量。きっと長くは持たないのだろうけど、とてつもない力量だ。
「僕も、負けてられないな」
宙に浮かぶ数字が、四十を示す。
泣いても笑っても、あと四十秒。それで、全てが決定する。
「グガァァッ!!」
元々八体いた魔獣のうち、一体は僕が無力化。二体はユイさんが縛り上げている。
つまり残るは五体。今、僕以外の全員が均衡状態で戦っている中、当然それらを操るあの人は全てを僕に消しかける。
無力化するための武器はあと三本。それを打ち込み、かつ残り二体を相手し、最後には旗の前に居座る三人の撃破。それを四十秒以内に行なって旗を獲得すれば僕達の勝ちだ。
決して楽な道じゃない。でも────
「託されたんだ。僕が、このチームを勝たせる!」
全速力で地を駆ける。
途端に牙を剥く二体に刃を払い、すかさず迎撃。前足二本を切断し目玉に鉄槍を抉り込ませる。
「ギィ、ギャアィィッ!!」
「あと五体!」
グジュッ、と肉が再生しようとする音を聞きながらその横を素通りし、僕を捕食せんとばかりの勢いをつけた三体に囲まれる。
ジリジリとにじり寄る巨体。それをいちいち相手している時間は、無い。
(イメージしろ。一撃で、殲滅する未来を)
身体強化魔術、灼炎魔術、氷慧魔術。
僕が主流とする三つの魔術の中の剣技のうち、より合理的なものを弾き出す。そして魔術発動の段階をキャンセルし、純粋な一撃としてぶつける。
剣技を、一つの型として捉える。当然それは魔術ありきのもので、それが無ければ数段威力は落ちてしまうけれど。
────鈍重なコイツら相手なら、充分だ。
「魔導、零剣────」
左に流した刀身と共に、身を捻り三体が同時に間合いに入る瞬間を待つ。目を閉じ、少量の空気を肺に入れて爆発的に全身に力を込め、振り抜く。
「解刃!!」
刹那、宙に一本の線として打ち出された刀身は大きく輪を描き、全方位に平等な一閃を繰り出した。
高さは腰のわずか上。巨体を持つ魔獣の膝の第一関節を的確に切り落とし、すかさず回復の隙を与えないよう残りの三本を全て目玉に打ち込んでその場に伏させる。
ミリアさんと戦うレグルスに対人間用の剣を渡したのは正解だった。おかげでこの真剣を手にし、およそ十秒にして魔獣の制圧がほとんど完了した。
残るは、三人と二体。ここからあと三十秒で、全てを決める。
「っ────」
僕は、″また″仲間に恵まれた。
でも、だからこそ。前と同じようにそこに甘えていては何も変わらない。
三人を喰らうほどの実力をつける。糧とし、超えてみせる。
この数十秒は、そのための第一歩だ。
「お前ら、命に変えてでも止めるぞ!」
「「おぉ!!」」
ユベリア•アグ、アミア•レインズ、ラグナーフ•エインズウォル。
(圧倒しろ。ぶち抜け────!!)
「魔導零剣ッ!!」
全てを一太刀に込める。コイツらさえ倒してしまえば、残りの魔獣二体との戦闘はほとんど無視して旗まで一直線。
決めろ。強い騎士になるために。そして……大好きな人を、救うために。道は、自分で切り開く。
「乱舞!!!」
キィッ。甲高い金属音が支配する。
一瞬にして刃が宙を舞い、驚愕の表情と共に三人の男が手先から消えた真剣の行く先を目で追う。
その瞬間に、地面を蹴った。
「アアアアアッッッ!!!!」
伸ばした手は、ほんの手のひらほどの大きさのゴールへと近づく。
五メートル、四メートル、三メートル、二メートル。そして、指の先がそれに触れようかとしたその時。
「っ────え?」
下半身の感覚が、消えた。
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