十八話 覚醒の鼓動
十八話 覚醒の鼓動
「師……匠……?」
僕は目の前で起きている出来事を、ぼんやりと見つめることしかできなかった。
あの男がアンジェさんを押しつつあり、そして少しずつその綺麗な身体に傷をつけていく光景を。
(アンジェさんが負けるわけない。信じたいのに)
規格外の魔術を持つ師匠だが、ヴェルドはその全てを無に返す。まさに魔術師を殺すための技。攻撃面においても防御面においても、今師匠はなす術がないように見えてしまう。
そしてそんなただでさえ緊迫している状況に追い討ちをかけているのが、僕の存在だ。
時折僕はあの男と目があった。その度に不適な笑みを浮かべられ、同時にアンジェさんに隙が生まれる。これだけ離れていても、僕は″人質″にされているのだ。
足手まといになっている。分かっているのに、何も力になれない。二人の戦いは異次元の世界で、目で追うのがやっとだというのに。
こんな僕が近づいたら、間違いなく利用されて更に足を引っ張ってしまう。
「強くなるんじゃ……なかったのかよ……」
この一年半、必死にもがいた。もがいて、もがいて、やっと欠片を掴み取った。
でも、それは本当に小さな小粒でしかなくて。僕が一生をかけても追いつけないような相手が今、目の前にはいる。
誓ったんだ。死んでいったみんながあの世で胸を張れるような男になると。だったら僕は、どうしてこんなところで恩人が傷ついていくところを眺めているんだ。
脳内を書き換えろ。負けを考えながら組み立てるな。
常に勝利だけを見据えて、そのための戦略を練る。
「強い人に……なるんだろ!!」
僕が一人で倒すことを考えるな。一瞬でも隙を作り出せば、師匠はきっとコイツを倒してくれる。
だから────!
「何が、過去のトラウマだ。勝手な決めつけと甘えで、いつまでもアンジェさんに押し付けるな。少しでも……役に立て!!」
手元に集めた空気を瞬間冷却。融点を下回った水分を固定し、氷を生み出して形を増大させていく。
ただの魔術を打ち込んだところで、何も変わらない。今僕が現状を変えられる方法は、一つだけだ。
「擬似、氷慧魔術!」
作り出された氷はやがて、頭の中で描いた設計図の通りに変化する。僕が外の世界で半年間、毎日汗水を流して降り続けた、剣の形へと。
「っ……!」
刹那、脳内を記憶が巡る。
何度も何度も僕を苦しめた、あの日の記憶。それはやがて剣を介して僕の脳を突き刺し、心を抉る。
怖い。苦しい。でもそれ以上に────もう絶対に、同じことを繰り返したくない。
死んだみんなはもう戻らない。だけど目の前にいる命の恩人は、まだ助けられる。僕の助けなんて必要ないかもしれない。ただの足手まといになるかもしれない。それでも僕は、この切っ先をあの男に向ける。
それが、僕なりの″強い人になること″への答えだ。
「大……丈夫だ。震えるな。アンジェさんを、助けろ!!」
あまりに小さく、大きな一歩。一人の″剣士″としての道が繋がった瞬間。僕の足は、真っ直ぐに向かうべき場所へと、走り出していた。
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