合流

 ルーディは右手に炎の剣を出したまま、逆手でアンゼリカの頭をポンポンと跳ね上げる。


「ひぇっ!! きっ、君は……!?」


 その状態でもアンゼリカは意外と元気だ。恐怖で言葉を失いながらもそれだけで、切断面からの出血もない。

 うるさい生首を一睨みで黙らせたルーディは、身動きできない忍に歩み寄った。無表情なのに呆れているのがハッキリ分かり、本人の得意属性とは真逆の凍えた視線が恐ろしい。


「まったく……無事で良かったけど、何やってるのよ」

「――……!! ……――――! ――――!?」

「喋れないの? ……ちょっと待ってて」


 ルーディは炎の剣を躊躇なく逆袈裟斬りに斬り上げた。忍ごと切断しかねない勢いだったが、炎の剣がレーザーに触れた瞬間、慣性を無視したようにビタっと停止してしまった。

 そのまま押しても引いてもビクともしなくなり、仕方なく剣を手放して消滅させる。


「へぇ」


 ほんの少しだけ口許を釣り上げたルーディは、次に持っていたアンゼリカの頭をレーザーに投げつけた。


「ひえぇっ!?」


 レーザーに触れた途端、アンゼリカの生首が空中で固定される。耳を支点に吊り下げられ、逆さまで揺れる姿は完璧にホラー映画の1シーンだ。

 この場で一番恐怖に引きつっているのは、他でもないアンゼリカであるのだが。


「うぎゃぁぁぁっ!! 揺れる、目が回るぅぅぅ〜っ!?」

「うるさいですね。早いとこ解除しないと、あなたも延々と宙吊りですよ。ほらほら」

「やめてぇぇ〜〜!! つつかないで! 揺らさないで! 〈ディスコード〉ジェイルロックぅぅぅ〜っ!!」


 あっさり音を上げたアンゼリカは、悲鳴の合間に言霊を飛ばした。たったそれだけで、全てのレーザーが一斉に消失する。

 脱力して寄りかかっていた忍が、前のめりに床へ倒れ込んで思いっきり顔面をぶつけた。

 アンゼリカも床に落下して、すぐさま髪の毛を使ってそそくさ逃げようと試みた。残念ながらその髪を忍に鷲掴みにされ、逃れることは叶わなかったが。


「残念だったな〜、おい」

「ひぃぃぃぃぃぃーーーっ!!」

「ちょっと、忍? わたしに何か言う事は無いワケ?」

「おお、悪い悪い。助かったぜ、ルーディ。ありがとな」

「よろしい。それで、その首だけで生きてるロベールは一体なんなのかしら? 悪魔なのよね。その気配から察するに」

「おお。話すと長くなるけど、聞くか?」


 当然でしょう? と頷くルーディに、忍はアンゼリカの頭を弄びながら火山洞窟で逸れてからの経緯を伝えた。

 別に長くなるような内容ではないが、忍にとっては三行にまとめきれない内容は全て長文だ。忍耐力に難のある主人公である。


「つまり、最初の調査隊が壊滅したのも、あの骨型の魔物も、元凶は全てロベール……いえ、このアンゼリカという悪魔だった、と」

「みたいだぜ。んで、ここはこいつのヤサって話だ。ルーディこそ、なんだってこんなところに?」

「あなたを探してたら、たまたま見つけてね。寒かったし、暖を取るついでに調査してたの。そこにあなたの声がして」

「ぐええぇぇぇ〜〜〜……」


 忍とルーディは、話している間中ずっと生首でのキャッチボールを続けていた。

 哀れにもアンゼリカの顔色は青ざめて、目を回してグロッキー状態である。首から下が無いので吐くものも吐けない。

 散々に痛めつけ、ある程度の溜飲を下げたところで、忍は生首を両手で掴んで自分の正面に持ってきた。


「それじゃーアンゼリカ。さっきの話の続きといこうか? 命を助ける代わりに溜め込んでるお宝をくれるって話だったっけ?」

「なんですって?」


 お宝、という単語に反応したのか、ルーディが無表情のクセに目に見えて喜色ばむ。しかし、それ以上は敢えて口を挟まず忍に話しの続きを促した。

 至近距離で睨まれたアンゼリカは、物理的にも手も足も出ない状態故か、これまで以上にしおらしく口を開いた。


「そ、そうだよ!? 千年前に放棄されてった人類の異物とか、ボクら一族の秘法とか、好きなもの何でも持っていっていいよ!?」

「その中に、オレが男に戻る手掛かりになりそうなものってある?」

「……多分、無い」

「あっそ。じゃあもう死んでいいぜ」

「ひゃ、あひゃ――」

「ストップ、忍」


 左右から生首を押し潰そうとした忍の手元から、ルーディがアンゼリカをひょいと取り上げた。


「わたしの質問にも答えてもらいます。返答次第では、生きて再び陽の下に出ることも可能でしょう」

「ひえ……わ、分かったよ! いいさ、なんでも聞いてくれ」

「腹を括ったようで結構。ではまず、この基地の動力室へ案内していただけますか?」

「構わないけど、何も無いよ? この基地が放棄された時に、ちゅーすーゆにっと? だかが持ち逃げされちゃったから。今はサブ電源だけで稼働中さ」

「でしょうね。その持ち出された中枢ユニットは、ベルガーラ城の地下で大魔王の封印に使われているのですから」

「え、うそ!?」


 声の裏返るアンゼリカを、ルーディはさらに問い詰めた。


「ここにならあるハズなのです。テッセラクトに干渉し、持ち運ぶためのツール……ガントレットが。保管されているのでしょう? それを寄越しなさい」


 淡々と、感情を見せない口調にも関わらず、傍らの忍ですら息を呑むほどの情念が、ルーディからは発せられていた。

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