クロスボンバー
アンゼリカが空中に火矢の魔法陣を大量展開させた。
それとほぼ同時に忍も天井まで辿り着き、そのまま速度を落とさずアンゼリカの真上まで回り込んでいく。
『ひぇ……っ!?』
忍の挙動にはアンゼリカも本気で嫌悪感を覚えたようだ。魔法陣を消してまで忍から距離を取ろうと移動していく。
「待てコラーッ!!」
『き、気持ち悪い真似しないでよ!! ああ、もう! やり難い男ね、本当に!!』
「そりゃこっちのセリフだ! ブンブンブンブン飛び回りやがって、トカゲのクセに!!」
『ハエでもトカゲでもなーーーい!!』
忍を吹き飛ばそうと、炎のビームブレスが放たれる。
カサカサ移動して直撃を避けたものの、破壊された天井が崩落し、巻き込まれた忍も結局落下した。
……かと思いきや。なんと忍は落石を足場にして次々と飛び移り、果敢にもアンゼリカへ向かって行った。
『化け物かよ!?』
「お前に言われちゃおしめーだぜ!!」
空中で身を翻し、遠心力を加えたトゥーキックで相手の鼻先を狙う。
しかしアンゼリカは敢えて受けるような真似はせず、壁際付近まで飛んで後退し、アッサリ逃げてしまった。
「あ」
攻撃が空振りに終わった忍は、すでに足場となる落石も無いので自由落下で地面に向かう。
しかし、アンゼリカからはその程度で死ぬとは思われていなかった。落ちていく背中にブレスの狙いを付けていた。
「やっべ」
『これで、今度こそ!!』
「ところがどっこい!」
しかし、ブレスビームが放たれることはなかった。
地上ではディランが壁に手を添えて巨大な魔法陣を展開していたのだ。アイスブルーの輝きが壁の表面を上方へ這い上がり、アンゼリカの死角から放電を浴びせる。
『あああぁぁぁぁぁッ!?』
突然、壁から放射された電撃を受けたアンゼリカが、空中にて動きを止めて巨体をグラリと傾かせた。頭を下にして墜落していく。
「よし! シノブーッ!!」
即座にディランは忍の落下予想地点へ先回り。腰を落として両手を組み、バレーボールのレシーブの態勢を取った。
ディランの考えを読み取った忍は、空中で姿勢を整え、組まれた手の上に両足を揃えて着地する。
金属のハンマーを叩きつけたような激震が、ディランの全身を駆け巡った。
「重た……ぬぬぬぬっ!! 〈金術〉トールハンマー……!! 持ってけクソ野郎ぉぉぉぉーっ!!」
腕全体が軋み、プチプチと嫌な音を聞きながらも、ディランは腰を踏ん張って忍の体重を受け止める。組まれた両手には魔法陣が展開され、青藍の稲光が忍の足元から全身を覆った。
稲妻とともに、未知の力が忍に沸き上がる。
「おりゃあーっ!!」
ディランによる助力を得て跳躍した忍は、翼を広げて急制動を試みたアンゼリカへと一直線に射出された。
『しまっ――』
「どっせぇーい!!」
アンゼリカの胴体に、忍が脳天から着弾。巨体が空中で一瞬静止するほどの衝撃力が炸裂した。
『が……っ、ぐはァ!?』
一撃でグロッキー状態になったアンゼリカの体を踏み台に、忍はもう一段階跳躍。まだディランの雷が残っているうちに、全身を独楽のように一回転させる。
「シューーーーーット!!」
忍の怪力と魔力に、ディランの雷が乗った渾身の跳び回し蹴りが、アンゼリカの長い首に炸裂した。
『ガアァァァァァーーーーーッ!!』
血反吐と苦悶の咆哮を吐き出し、アンゼリカは猛スピードで地面に激突、さらに二〜三度跳ね回って岸壁に衝突する。凄まじい地鳴りを巻き起こし、そのまま崩れてきた落盤と土砂に押し潰されてしまった。
立ち込めた土煙が晴れると、痙攣する尻尾以外の全身が完全に埋没してしまっていた。引っ張り出すには重機が必要そうだ。
もう相手が動かないのを確認した忍は、地上に降りると拳を突き上げて勝どきを上げた。
「へっへっへ! やっり〜! 勝ち――ぃぃぃいいいいっ!?」
が、ディランから受け取った雷の魔力が消失したのと同時に、頭の天辺からつま先までを突き抜ける強烈な痺れが襲ってきた。長時間正座した後のアレが全身を駆け抜け、呂律まで回らなくなってくる。
「あばばばば! な、なんなんらこれは〜〜〜っ!?」
「すまない。説明する時間が無かったけど、さっき君に使った術は強化とかエンチャントじゃなくって、超高圧電流を帯電させる攻撃術法だったんだ。ある程度調節したけど、体の痺れは反動が出たんだろう」
「あ・ん・ら・とぉ〜っ!? ……て、お、お、お前も大丈夫か!?」
なんだかディランもしんどそうだったので、忍も思わず悪態を引っ込めてしまった。
ディランは血を流す両手をだらんと放り出し、真っ青な顔に脂汗まで浮かべて膝をついていた。呼吸も荒く、今にもその場で倒れてしまいそうだ。
「ふっ……長期戦は不利そうだったからね。今の一発にほとんどの魔力を込めた。お陰で……クタクタだ。もう静電気だって起こせそうもないよ」
「む、む、む、む、無茶をする、な、な、なっ!」
「勝てばいいんだ、勝てば」
ディランはかく言うが、息も絶え絶えで歩くことにも難儀している。忍も辛いが、まだ無理をすれば動ける程度で済んでいるだけマシなようだ。
だが、ゆっくりしている余裕は無さそうだ。派手に暴れまわったせいで周囲はあちこち崩落しつつあり、出口らしき道も見当たらない。
長期的に見たら、遭難死により自分達の敗北ではなかろうか。忍は少しでも体を解すべくストレッチをして、嫌な考えを振り払った。
ディランも危機感を抱いたようで、ローブの下から取り出した魔力回復用の薬缶をこじ開けようと焦っていた。普段なら電撃で焼き切るところだが、今これ以上の魔力を使えば卒倒しかねない。震える手でナイフを抜き、切り開こうと試みた。
「あ、あ、開けてやろうかかか?」
「誰がお前の力なんて借りるかよ! ていうか、腕の傷はお前が重すぎたせいだからな!! 何キロあるんだ、体重!?」
「ひ、ひ、133キロだったかな? この前は、は、計った時はっ」
「133んん!? どういう体の構造してるんだ!?」
ディランは、まるでUMAでも見つけたような顔で忍の全身を上から下まで睨めつけた。胸以外は比較的細く視える体型だが、実際の体重はそれより遥かに重いらしい。
しかしすぐ「理解不能だ」と匙を投げ、ナイフで溶接されている缶の蓋をこじ開ける作業に戻った、まさにその時だ。
アンゼリカが埋もれていた土砂の山が爆発し、収まりかけていた土煙が再び地下空間に広がった。
「な、な、な、なんだぁあ!?」
まだ痺れが残っているものの、忍は即座に爆発の方向に拳を構えた。例によって心底嬉しそうな笑顔で、体を引きずるように向かって行く。
一方のディランは、予期せぬ衝撃に落としそうになったナイフを慌てて掴み、誤って刃を持ってしまって悲鳴を上げた。
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