閑話休題

 不完全燃焼に終わった忍は、晩餐会の誘いも蹴って城下町のアパートへさっさと引き上げてしまった。代わりにルーディが事後処理の為に城に残り、グレンとゼノビアとの秘密会議に面倒臭さを隠さず参加している。

 自室にて他者を締め出し、三人だけになったところで、グレンが早速ゼノビアに尋ねた。


「テッセラクトの補充状況は?」

「腹八分ってとこね。でも前回と今回を比べると、明らかに前回の方が増加量が多いわ。多分、戦闘時間の関係だと思うけど」


 応接用のソファに腰掛けたゼノビアは、背後に立っているメイド服のクールビューティに上目遣いで可愛らしくお茶のおねだりをする。

 ゼノビアの態度に気を良くしたのか、ルーディは部屋にあったティーセットの元へ向かって茶の準備を始めた。


「ま、どっちにしても後二回か三回以内にはお腹いっぱいになるわ。そしたら晴れてあいつはお役御免、野に放つなりお好きにってね」

「姫様、外来生物を不用意に放逐するのは生態系を破壊する危険性がございます。彼の保護観察はわたくしめにお任せください」

「すっかり保護者ね〜、あなた。もしかしてデキてたりする? な〜んかアイツにだけ口調も砕けてるし」


 呆れ半分なゼノビアに、ルーディは特に答えず手を動かし続けた。

 人間というより獣扱いだが、ゼノビアにとって忍はもう、危険視するような相手ではない。話も通じるし、報酬を提示すれば言うことも聞く。冒険者ギルドからの報告に目を通す限り、危害を加えられない限り無秩序に暴れる真似もしていない。

 しかし一方のグレンは違う意見だ。火術でポットを温めるルーディの背中に、厳しい顔で問い掛ける。


「一ヶ月前とは段違いの強さだったぞ。魔力を用いた格闘戦にも慣れているようだ。荒削りだが、もはやホムラですら相手にならんぞ」

「でしょうね。この一ヶ月、魔物や盗賊を相手に実戦経験を積んだことで目を見張る成長をなさっています。ですが根本的に弱いものイジメを嫌いますので、カルディナ側から敵対しない限りは襲ってきません」

「言い切ったな。だが気紛れで凶行に走らない保証がどこにある。狂人の類だぞ、あれは」

「あははは〜。お兄ちゃんってばビビリ過ぎ」


 些か臆病過ぎる意見には、ゼノビアも堪えきれずに噴き出してしまった。

 グレンが笑い事ではないと顔をしかめるも、ルーディは温め忘れていたカップを火術で炙りながら、振り返りもせず断言する。


「問題ありません。わたしの方が戦闘力において上ですので、鎮圧は可能です」


 煮えたぎったポットの湯を、素手で持つには危険な温度のカップに注いでいく。かなり雑なうえに非常識なまでの高温で淹れたので、相当渋いお茶が完成するだろう。

 もっとも、ゼノビアはその渋い緑茶が好みなので、この淹れ方で理に適っているのだ、きっと。


「万が一、彼が凶行に走っても、わたしが力づくで止めましょう。もっとも、グレン殿下にはそっちの方が都合がよろしかったりしませんか?」

「……どういう意味だ?」


 ルーディは、さぁ? と煙に巻きながら、グツグツと沸騰したお茶を配膳していく。

 飲み頃になるまでには、しばらく時間が必要だった。

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