攻勢

 ダイダリスの使う衝撃波の正体は、音の塊だ。

 セミやトンボに近い形状の羽を高速で振動させ、発した音を爆発的に増大させて放つ。

 威力は人間相手に使うには些か過剰で、例えば城門などを破壊するのに用いる強力な術法だ。

 それを生身でニ回も受けて生きてる時点で、忍は本当に人類かも疑わしい耐久性を示した訳だが、三発目に至っては無傷で受けきってしまった。


「おっ? おおお〜〜〜〜っ!! 痛くねえ!? ど〜なってんだ、おい!!」


 咄嗟に身構える程度には防御行動を行ったが、それでトラックの追突かそれ以上の衝撃を堪えてしまった。これには本人が一番驚いている。


「魔力で体を覆った影響です。悪魔は魔力の塊故に触れた物質を破壊しますが、全身を高出力の魔力で覆うことで擬似的にそれを再現できます。攻防ともに、生身の時とは比較になりません」

「マジかよ!?」

「もっとも、そんな全身ムラなく覆うような出力で展開すれば、すぐにガス欠でしょうけど。ホムラ殿下だってそんな使い方はしていなかったでしょう?」


 つまり、そうとう無茶な魔力の使い方をしているのだろう。うかうかしてると本当に失神しかねないと判断して、忍はダイダリスへ速攻を仕掛けた。


『キシャ!?』


 ルーディとの会話からノータイムで戦闘モードへスイッチした忍は、床石を踏み砕きながらダイダリスの懐へと一足で踏み込んだ。


「そらよっ!!」


 鋭くコンパクトに打ち出した右ストレートが、人型の胸部を叩く。

 鉄骨をハンマーで殴りつけたような爽快な手応えとともに、ダイダリスの巨体が地面と平行にぶっ飛んだ。


『ギャアアアアアアアア!?』


 床を一回転しながら横滑りしていくダイダリス。そこに走って追いつき、忍はこれまでの鬱憤を晴らすように滅多打ちに殴りつける。

 一撃入れるごとにあるのか無いのか分からない肉が爆ぜ、骨が砕ける。


「オラオラオラオラァーッ!! さっきまでの余裕はどーした、悪魔ちゃんよォ!!」

『グギ、ギャ……!?』

「もっとアソボウぜ? でりゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 左右の大鎌を同時に掴み取り、間髪入れずに両足を揃えたドロップキックを敵の顔面に放った。頭部の甲殻を蹴り潰し、両腕を付け根からもぎ取ってしまった。

 両腕さえも失ったダイダリスは、最後の反抗に背面の羽を高速で振動させる。


『〈金術〉ナイト――!?』

 

 しかし四度目の衝撃波は不発に終わる。

 忍の姿が瞬時に掻き消え、ダイダリスの背面に取り付いた。無造作に羽の根本を掴むと、力任せに捩じ切った。


『グギャギャギャギャギャ!! ぎゃギャーっ!!』


 激痛に悶えたのか、それとも最後の抵抗か。ダイダリスは四本の蜘蛛の脚をバタつかせ、忍を振り落とそうとロデオさながらに暴れ回る。

 地響きが唸り、床石が砕けるものの、忍は振り落とされることなく背後からの裸絞を仕掛けた。

 一切の容赦もなく、一息に首の骨をへし折った。


「これで――うわっ!?」


 それがトドメになったかと思いきや、ダイダリスは止まらない。仕留めたと油断した忍を払い落とし、首を直角に曲げたまま跳躍した。

 足先に鉤爪を生やし、忍を目掛けて急降下していく。


『クラ、エ!!』


 渾身の力と全体重の籠もった一撃。空間を断つかのような一刀。

 しかし忍には届かず、真正面から掴んで受け止めた。


「甘いんだっつうのっ!!」


 忍は掴み取った蜘蛛の脚を腰だめに抱えて踏ん張った。迸る魔力の放出によって強化された怪力で、ダイダリスの巨体を振り回す。

 瞬く間にトップスピードに達した竜巻のようなジャイアントスイングに、ダイダリスはもう声を上げることもない。


「どっせぇぇぇぇぇぇーいっ!!」


 ド派手にぶん投げられたダイダリスは、一直線に射出されてテッセラクトに激突。哀れ文字通りのバラバラになってしまった。

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