第20話 纏衣
ソナークリーの猛攻は俺たちに軽い絶望を与えた。
【この精霊だけやたら強くね?】
【ホンマそれ】
【今までの精霊が何だったのかってくらいの強さ】
【しかも可愛い女の子型】
【モーバ女難か?】
「違うでござる」
「|◉〻◉)違いますよ」
【真っ先に否定してる二名】
「うるせーーー! 今それどころじゃないんだ。戦闘に集中しろ! くるぞ!!」
振動を纏った岩を纏った剣戟が地に落とされると、それは大地に伝わって大きな地響きを巻き起こす。
触れた場所をなんでも振動させるってのかよ!
音って試練化したらこんな厄介なのかよ!
契りで得られる能力が微妙すぎてこうくるかって考えに至らなかった。
地面が抉れ、割れれば当然マグマが噴き出してくる。
だが全員がマグマそのものに耐性持ち。
すぐにどうこうする必要はなく、だがしかしマグマすらも操ってみせるソナークリー。
そりゃそうか。ノーマルの精霊ですら操ってみせた。
精霊姫なら当然できるってな。
「アクアボム+掌握領域!」
アクアボムは目視で座標を絞って、中心点に大規模の爆発を起こす属性魔法。そこへ掌握領域を纏った矢を射れば爆発した状態で水だけが停止する。
【なんだ!? 爆発途中の魔法が固定化された?】
【何をしたらそうなる?】
リスナーに俺が何をしてるか理解が及ばない様だ。
それは仕方ない。なんせこの試練は俺専用。
本来はソロで乗り越えなきゃいけないが、俺の能力が微妙すぎて……いや、本当に微妙か?
属性の停止。俺は何かを見誤ってないか?
だが空間に水の結界を張ったことに多少の効果はあった。
それがただの水魔法であるならば、ソナークリーはあやつっていただろう。
が、そうしない。否、出来ないのは俺が属性を停止させたからだ。
[おのれ、小癪な真似を!]
苛立ち震えるソナークリー。
もしやこれ、属性を停止させたら相手を無力化できるんじゃないか?
今俺が支配できてる属性は地水火風の四属性。
振動させることによって浮いた岩も属性を停止させたらただの剣になるのでは?
物は試しだと周囲に掌握領域の矢を放つ。
もちろん雨の様に降らせる霧雨矢でお見舞いしてやった。
結果、岩でできた巨大な剣が崩壊した。
ざまあ!
俺の目論見はまんまと成功し、周囲の属性を停止させられて中心地には震えるだけのソナークリーが残された。
最強! の所以は相手の属性を纏う事だったのだ。
そりゃ他の四名は勝てないだろう。
なんせ自分の属性を操られるんだから。
しかし能力を使いまくった弊害が俺をダイレクトに襲ってくる。
『|◉〻◉)キュピーン。親密度が50に上がって能力が解放されました。マスター、聞きたいですか?』
『後でな』
『|>〻<)聞いて聞いて聞いて聞いて』
『だーーーー、うるせーー!!』
リリーの奴が構って欲しくて身をくねらせて突進してきたのだ。そのまま抱きつかれて、俺の掌握していた領域が維持できずに霧散。
ソナークリーが今までの鬱憤を晴らすかの様に先程までの力は小手調べ。ここからは本気で行くと音の属性を最大限に研ぎ澄ませた能力を発揮してきた。
「リリー殿! 某に断りもなくモーバ殿とイチャつくとはどういう了見でござろうか!?」
勘違いした村正までが飛びついてくる。
そして、リリーの力が解放された。
俺の体が眩しく光って、見慣れぬ刀が手元に握られていた。
「あん? リリーと村正はどこに?」
先程まで鬱陶しく付き纏っていたリリーと村正がどこにも居ない。だが、心の中に忙しなく呼びかけてくる。
『|◉〻◉)聞こえますか、マスター。ちょっと合体事故が起きました』
『なんだよ事故って』
『|◉〻◉)僕の能力の一つ目は僕と精神合体する事であらゆる耐性を得るというものでした』
『おう。それで事故って?』
『|◎〻◎)村正さんが巻き込まれました』
『モーバ殿ー? 聞こえるでござるか? どうやら某が一振りの刀になった様でござる!』
『ああ、どうりで静かになったと思ったらそういう……って解除はどうやるんだ?』
『|⌒〻⌒)制限時間は10分です』
『意外と短いな』
『でも性格とか無視して酷使できるので便利ですよ!』
ああ……そう言う。
リスクは?
『|◉〻◉)僕との親密度が今まで以上に上がりやすくなります。あとちょっと正気も失います』
流石に便利だからって乱用はできねーな。
だが、性格に問題ある地雷プレイヤーを活用できるのはありがたい。人権を丸っと無視した能力だが物は使いようって奴だな。
『モーバ殿、来るでござるぞ? ここは某を使うでござる』
『|◉〻◉)ダメですー。僕が受け止めるんですー』
『どっちでも良いだろう。受け止めてから切れば問題ない』
『|◉〻◉)うふふ。マスターは僕を一番と見てくれてるんですね』
『は???』
武器・防具化しても俺を悩ませることだけは天下一品か、こいつら。
ガチトーンでキレた村正を正気に戻す為、俺は返す刀でソナークリーの攻撃を受け止め、貫通し、諸共叩き斬った。
いや、強すぎんだろこの武器。流石村正の名前に恥じぬ攻撃力。
『見たでござるかリリー殿? モーバ殿は某を一番と見てくれているでござるぞ?』
『|>〻<)ムキーー』
内側で牽制を取り合う二人を見据えながら、一切動かなくなったソナークリーをじっと待つ。
「やったか!?」
そう零した陸ルートの首が胴体と泣き別れしたのは同時だった。
本当にこいつはタンクの鏡だよ。自ら率先してフラグを立てに行くからな。そして折られるまでがお約束だ。
上半身と下半身が分離しても死ぬが、首が落とされても死ぬからな? 普通。
生きてられるのはこいつがレムリアに所属してるからだ。
遠隔操作でそこにいるボディを媒体に精神を依存させてるんだ。
『リリー、陸ルートも拾えるか?』
『|◉〻◉)合体という意味ですか?』
『そうだ』
『|◉〻◉)可能ですけど、正気度は減りますよ』
『それでも良い。アイツがヘイト取ればお前の出番も増えるだろ?』
『|⌒〻⌒)オッケーです。正気度はおまけしておきますね!』
ん? こいつの口ぶりだと、正気度の減退はこいつの気分次第ってことか?
じゃあ褒めまくってればそこまで減らないんじゃ?
俺はとても良い笑顔で陸ルートの頭を取り込んだ。
ゴリッと正気度が減った。
98%だった正気度が一気に70%まで落ちたのだ。
嘘じゃねーか、てめーー!
『|◉〻◉)減らすなんて一言もいってませんからね。勘違いしたマスターがいけないんですよ。フフフ』
くそ、こんな奴らと仲良くできるなんてアキカゼさんはマゾか何かか?
早々に見切りをつけたくなってきた俺は、復活したソナークリーを見据えて第二形態を迎え撃つことになった。
陸ルートが追加されたことで俺は圧倒的機動力を得ていた。
そう、今の俺ならソナークリーの背後に回り込むことすら自在。
テレポート能力を手にした俺は、手にした村正でその胴体をもろとも斬り伏せ用と刀を振るった。
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