第11話 鎌鼬

 俺たちは残り二人のメンバーの属性スキルを安定させるための作業へと入る。

 まずは陸ルートの風。

 三つ目まで上げられるのは陸ルートの特権だが、俺たちは最低2まで契れる。

 だからって初っ端から上位精霊の場所に連れて来なくたっていいんだぞ、パスカル?



【見慣れたアトラクション定期】

【もう奥にいる個体が上位種だって確定してんじゃねーか!】

【10歳見えるからって倒せるもんなの?】


「ビーム攻撃が苦手なやつは妖精誘引でサポートだ。攻撃さえ塞げばビームもよく当たるだろ」


【それはそうとアトラクションの難易度が上がってるんですが】



 コメントで言われてる通り。やたらと殺意高めの場所を通ることになった俺たち。

 眼前には一本道。

 しかし横穴から排水溝みたいなものがあり、そこからマグマがドバッと定期的に噴出するギミック付きだ。

 さっき魚類が意気揚々と渡り、何度かこんがり焼かれていた。

 いくら耐性があるとはいえ、マグマの海で泳げるほどの耐性はない。

 そもそも息継ぎだってままならない。

 マグマと水は性質から違うもんだからな。



「オメガキャノン、冷凍ビームだ」


「弾切れだ」


「弾数制だったのか?」


「ろくにドロップしない上、ここで取れる品に冷気を纏った性質の素材があるとでも?」


「リリー! ちょっと一回戻ってこい」


「|◉〻◉)えー、せっかく渡ったのに」



 渋々戻ってくる最中、今回は三度マグマを浴びていたがピンピンしているあたりマグマ無効なのだろう。

それともヌルヌルした体表のおかげだろうか?



【リリーちゃん可哀想】

【魚類使い荒いな】


「オメガキャノンが冷凍ビームに使う素材が必要らしいんだ。お前そう言う素材持ってねーか? アキカゼさんに頼んでもいいから」


【おいwww】

【他力本願】


「うるせー、こっちはぶっつけ本番でやってるんだよ。使えるものならなんでも使ったるわ!」


【キレんなし】

【かつてここまで正々堂々と逆ギレした配信者がいただろうか?】


「そこに痺れる憧れるー、でござるな?」


「別に無理して俺にあわせなくたっていいぞ村正」


「モーバ殿がいじめるでござる」


【あーあ村正ちゃんいじけちゃった】

【これだからエルフは】

【ケモナー多いもんなこのゲーム】



 むしろ庇ってやったのにこの仕打ち。

 リリーはエラに手を突っ込んで何やらゴソゴソやった後、口を開いて本体をぬっと出すとオメガキャノンにて渡してた。

 唾液に塗れてか本体はヌルヌルだった。

 さっきエラに突っ込んで手を動かしたのはなんだったの?



「|ー〻ー)こんなのでいい?」


「上等」



 手渡されたのは何やら見慣れぬ鉱石だ。

 オメガキャノンは懐にしまうとすぐに立ちあがり、あたり一帯に冷凍ビームをばら撒いた。

 おい、弾切れとか嘘じゃねーか!



【おい!】

【ビームが残弾型とか聞いたことねーぞって思ったら】

【やっぱりブラフだよこいつ】

【いつものアイテムクレクレだったw】

【ブレねーなこいつ】

【なまじ自分が役に立ってるって自覚あるからタチ悪いわ】


「失礼なことを言うな、モチベーションの問題だ。俺もタダ働きは嫌だからな」


「ああそうだな、お前はそういうやつだったよ」



 肩ポンしてくるジャスミンの手を払う。

 やめろ、同情した瞳で見るな。

 お前は責任逃れできていいな。

 俺は今後こいつの催促に付き合う羽目になるんだぞ?

 お前は助けてくれるのか?


 じろりと睨み返せばジャスミンはそっと視線を逸らした。

 いよいよ持って味方が居ないぜ。

 まぁリリーがいる限り俺の懐は痛まないがな!



 風の精霊は天井に逆さドームのようなものを展開しており、ドームの中に侵入した物を風のヤイバで八つ裂きにする。

 そんなトリックを仕掛けていた。


 なお、これは喧嘩ふっかける前のトリックだ。

 魚類が氷作成で巨大な氷を作ると、それでかき氷を作ってシロップをかけて食べていた。

 ちなみに秒で解けたのは見てて笑えた。

 そりゃマグマがそこらでボコボコいってる場所でかき氷なんて繊細な食いもん食えるわけねーじゃん。

 綿飴だって秒だぞ?

 マシュマロに至ってはマッハだ。



「|◉〻◉)ああーん、また溶けたー」


【シロップを氷作るときに混ぜて頭突っ込めばいけるんじゃね?】


「|◉〻◉)それだ!」



 いつものコントが始まった。

 だが、氷を散らしてくれるおかげで周囲の温度が下がっていくのを感じる。

 これがただのギャグか計算かは分からんが、リリーなりに俺たちに気を使ってくれてるんだろうって言うのはわかった。



「ほら、遊んでないで行くぞ」


「|◉〻◉)あぁーん、僕のかき氷ー」



 案の定、謎の仕掛けは適当な場所に妖精誘引を仕掛けたら解けた。

 結構EPは持っていかれちまったが、まだ魚肉ソーセージはある。


 風の精霊は村正くらいのサイズの少女型だった。

 全身から近づくだけで斬り殺されそうな圧を発し、そして問いかけてくる。

 ちなみに何を言ってるのか聞こえない。



「音の契り必須だったりしないか、これ?」



 ジャスミンの指摘に、俺は頷くしかない。

 多分何か挨拶的な告知だと思うんだが、俺たちがその場に居残り続けたことで説得は無理かと腰に提げた剣を抜いた。

 全てが風でできた剣だ。

 精霊の肉体も風ならば武器も風である。


 それはただハエでも払うかのように、鬱陶しそうに払われた。

 ただそれだけで周囲のオブジェが上下に泣き別れする。



「早え! 今までの精霊と違うぞこいつ!」



 ただの素振りで岩をバターでも切るように寸断しやがる。

 今までの精霊ならば大技の前に妖精が集められる隙がある。

 だと言うのにこいつにはない。



「けど動きが目で追えないと言うことはないよね?」



 陸ルートはビームソードで切り結んでいた。

 が、レムリアの器に因縁があったのだろう、風の大精霊が激昂する。



「リーダー、全方位から陸ルートに向けてナビゲートフェアリー感知大!」


「耐えられるか、陸ルート!」


「忘れましたか? 僕のジョブを」



 得意満面のリクルート。

 お前俺にジョブの紹介したっけ? レムリアのビーム兵器使いとしか聞いてねーんだけど? 相変わらず肝心なことは話さないやつだよ。



「全員、退避ーー!!」



 俺の号令で全員が陸ルートを見捨てて逃げた。

 同時、鎌鼬が陸ルートに殺到する



「|◉〻◉)陸ルートさぁん!!」



 特に親しいわけでもない魚類が叫んだ。

 まるで悲しい別れかのようだが、道中でこれといったイベントを重ねた記憶はない。

 

 が、陸ルートの身体がブレた。

 同時に風精霊の胸をビームソードが貫いた。

 ブゥウン、と赤熱したブレードが振われ膝を突く風精霊。



「僕のジョブは、ブラスターです」



 まるでガンマンのようにウェスタン帽をクイッと銃で上げる動作をする。

 なお、帽子もなければ銃もおもちゃみたいな物なので格好はつかない。

 レムリアの義体はそれなりに精巧にできてるが人とはかけ離れてるからな。

 あとこいつは一応魔法使いだ。

 近接に特化しすぎて忘れそうになるが。



「やったか?」


【それフラグー!】



 だが真横から突然放たれた鎌鼬によって陸ルートは両断される。上半身がごとりと重い音を上げて地面に落ちた。



「ジャスミン、今の反応あったか?」


「私は察知できなかった」



 風が巻き起こる。

 膝をついた精霊の肉体が再構築するように突風が舞う。

 小さな肉体は大人の女性の肉体へと変化し、

 武器が二刀流になっていた。

 


「二刀流は某の専売特許でござるのにーー!」



 おい、突っかかるな。

 村正を嗜め、死んだふりをしている陸ルートを蹴っ飛ばす。



「お前もいい加減起きろ。死んでねーのは知ってるんだぞ?」


「油断させる作戦だったが、仕方ない」



 パーティメンバーのネームがグレーになってねーんだから誰も気に留めてない。

 唯一魚類が親しくもないのに声をあげたくらいか。



「さて、こんからが本番か?」


「で、ござるな」



 チャキン。鯉口を切り、村正が抜刀の構えを取る。

 最速の抜刀術を誇る侍兎と風の精霊の勝負だ。

 俺は一人で立ち上がれない陸ルートを起こしながらその大一番を見守った。

 ジャスミンやパスカルはいつでも大技を解除すべく妖精誘引の準備をしてもらってる。


 俺? 俺は村正の回収係だ。

 あいつに何かあったら怒られるのは俺だからな!

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