第9話 擬態
「|◉〻◉)さて、お手並み拝見ですね」
何処からか取り出したコタツに座り、みかんの皮を剥く魚類。
その水かきのついた手で器用なことだ。
いつものことなので俺たちはスルー。
左手で脇に村正ロケットを構えて、上空へ。
地の精霊、大地の精霊は序盤自身攻撃がデフォ。
先制攻撃のオメガキャノンの大砲と、陸ルートのレムリアの器が祭壇を撃ち抜いた。
震えるフィールド。
そして祭壇の中から大きな手。
掴まれたのは戦闘フィールドで一人優雅にお茶してる魚類だった。
「|◎〻◎)あーれー」
【囮作戦成功ですね】
【次は?】
【助けてやれや!】
「シッ、雷遁。先駆け!」
俺の左脇からレールガンの如く飛び出した村正がつかもうと伸ばした腕に一撃を叩き込む。
砕け散る岩でできたては崩れ、土砂に生き埋めになる寸前のリリーに手を伸ばす。
「ほら、リリー殿」
「|◉〻◉)村正さん、僕がそっちに入って行っても良いんですかぁ?」
「今度モーバ殿に迷惑かけたら泣かす」
「|◉〻◉)頑張りまぁす!」
迷惑はかけないとは一切言わないリリー。
しかし戦闘中に問答する余裕はない。
今度は岩が巨大な足になってスタンプ攻撃だ。
「モーバ殿!」
「今迎えに行く! パスカル、道を開け!」
「ったく、今の俺は戦闘系じゃないってーのに」
ズレたメガネの位置を直して、踏み潰されそうになるリリー、村正の両名に向けて拳を握って構えを取る。
「霊装──銀鎧の騎士」
かつてアキカゼさんが使っていた瞬間移動に特化した霊装を展開し、窮地を脱する。
そんな裏技隠し持っていたのかよ。
やはり戦えないというのは嘘だな。
あの場所は俺も挑んだがアホみたいなスコアが総なめしてて試練を乗り越えられる気がしなかった。
もしかしてスコアが変わる前に取得した可能性もあるが、流石は戦闘系クランに参加していただけはあるか。
「門が開いたぞ、オメガキャノン!」
「食いやがれ、滅びの光を!」
「僕のスキルも持っていくといい。照射!」
「リーダー、左右からナビゲートフェアリー感知特大!」
周囲に獲物が居なくなったのを確認してか、今度は両脇のフィールドが俺たちに向けて押し寄せてくる。
きっちりと天井の幅まで合わせる徹底ぶりだ。
こんなの力押しでぶち抜くしかない。
「そのままブチ抜けぇ!」
オメガキャノン、陸ルートのビーム兵器が押し寄せる壁よりも先に祭壇に着弾する。
押し寄せる壁は止まり、なんとか状況を脱したかと思ったが、
「リーダー、今度は真上から反応が複数!」
ジャスミンが真上に向かって叫んだ。
左右を乗り越えたら上からの全画面攻撃とか、やはり俺たちが張り合うには早すぎたんじゃ?
そう思わなくもない。
【精霊戦ってこんなエグいの】
【フィールド全体が敵だぞ?】
【これが人類向けとか頭おかしいです】
【陣営開放前に来る場所じゃないやん】
【これ、クリア報酬が陣営なんだぞ?】
【空の試練だって陣営ありきでいくと緩いけど、なしだと思うと頭おかしいからどっこい】
「|◉〻◉)ここは僕に任せてください。そいやー」
魚類が天に向かって自分ごと水の柱を作り、氷作成で氷結化する。天井は押し潰そうと勢いを増すが、リリーごと凍った柱が天井を食い止めてる間に俺たちは一斉攻撃をした。
「やったか!?」
「だから死亡フラグやめろって! お前いっつもボソボソ何言ってるかと思ったら毎度死亡フラグ立ててたのか!?」
「僕はお約束を忘れない男だ」
そう言って真正面から射出された石飛礫により昏倒する陸ルート。やっぱり生きてんじゃねぇか。
「陸ルート殿!」
「そいつは放っておけ。村正、スタミナは回復したか?」
「3割程」
「ならば俺の射掛けた場所への攻撃に移れる様待機しとけ」
「合点!」
「リーダー、今度は前から壁が!」
「諸共叩き潰そうってか! そうはさせるか。妖精誘引!」
俺は早駆けでフィールドを疾走し、動き出す祭壇に妖精誘引を仕掛けた。
精霊の攻撃は、前段階にナビゲートフェアリーの判定が必ずと言っていいほど入る。
だったらその妖精を全く別の場所に集める、散らせば不発に誘えるんじゃないか?
そう思った。
「ナビゲートフェアリーの感知消失!」
「ビンゴ! やはり精霊の攻撃は威力がでかい分トリックがあったか!」
【どういう事だ?】
【不可視の全画面攻撃じゃないのか?】
「馬鹿だな、その為の妖精誘引だ。あれは精霊が攻撃する際に扱う妖精を無理矢理持ってくる効果を持つ。いかに精霊といえど、攻撃するのに妖精の数は不可欠なんだろ」
【つまり?】
「見た目と派手さに騙されるなってこった。村正、全力攻撃だ!」
矢を射掛ける。
そこは祭壇の中心部。
さっきから俺の低いナビゲートフェアリーがビンビンその場所に警鐘を鳴らしている。
全く姿を表さないのも逆に場所を教えてるようなもんだぜ?
「そこの祭壇にある鏡を叩き斬れ!」
「斬!」
何故かビームも大砲も無効化した大地の精霊は、祭壇に設置された鏡の中にいたのだ。
鏡に映る風景、つまり俺たちをしっかり認識し攻撃を仕掛けてきた。
もし今までの攻撃が物理攻撃だったら、こうまでこちらに被害が及ばなかっただろう。
では何故そうなったか?
もしかしなくてもこの精霊、アトランティスとレムリアに対してメタ張ってきてるのではないかという考えからくる帰結。
だとしたらビーム兵器の類は逆にエネルギーを吸収されかねない。
なんつー厄介な奴らだ。
「今度こそ始末したっぽいな。よもやビーム攻撃を吸収してくるとか思わんかったわ」
【ビームを吸収? どういう事?】
「これは俺の勘だが、ビーム攻撃をした際の切り返しがやたら早かった。まるでビーム攻撃が一切通用してないかの様な切り返し。だが焦るあまり俺たちは出だしと速度の速いビーム攻撃を多用した」
【確かに見てる限りは押してる様に見えたが、実際は違った?】
【精霊って時点で物理無効だと思い込んでた。そこを突かれた?】
「実際にこいつは実態のある場所に潜んでた。それがこの祭壇だ。祭壇の中にいる限りは物理が有効じゃないのか?」
【あー、そういうギミックか!】
【完全に騙されてたわ】
【それよりさっき前方からの攻撃を回避したのは?】
「あれは妖精誘引によって攻撃そのものを不発にしただけだ。EPの回復手段がない今は……」
【あれ? リリーちゃん持ってなかったっけ?】
「村正が嫌な顔するからさ、無理だろ。この企画は俺とこいつの企画だぞ? こいつが拗ねたら企画倒れするんだ」
【モーバも苦労してるんだな】
【末長く爆発してもろて】
【それよりリリーちゃんフリーズしたまま?】
【フリーズ(物理)だがな】
「仕方ねー、みんなでくっついて温めんぞ。そしてEP回復アイテムをがっぽりせしめる。その作戦で行こう」
【草】
【ハグはハグだしな】
「しかしこの氷、このマグマ地帯でも溶けないとか、どれだけ頑丈に作ったんでござろうな?」
確かに、マグマの海に投げたら溶けるんじゃないかという気持ちもなくはない。
正直マグマの中で泳げるリリーの事だ。
10分経過したら投げてみるのもいいかもしれない。
そう思って9分が過ぎた頃、コタツの残骸がもぞもぞ動いて、アイドルの方のリリーが現れた。
「あ、お疲れ様でーす。さっき急にアキカゼさんに呼ばれちゃって離席してました。所でそれは、何をしてるんです?」
キョトン、とした顔で頬に人差し指を置いて疑問符を頭に浮かべている。
もしかしてこの氷のオブジェって、抜け殻だったのか?
「なんでもない。暑いから涼を取っていたんだ。中身出てきて大丈夫なのか?」
「あっちの方が良かったです?」
アイドル衣装のポーチからズルズルと魚類の着ぐるみを取り出して広げるリリー。
正直今の状況の方が美味しいのは確か。
が、村正の為に涙を飲んでそっちに戻ってくれとお願いした。
「|◉〻◉)あ、これアキカゼさんからの差し入れです。どぞー」
それはケースに3本一組で入ってる魚肉ソーセージチーズ入りだった。
なんだよ、貰えるんならあんな真似しなくても良かったな。
俺たちはEPに応じて回復するかどうか確かめた後、回復する。
これでEPの上限は70%になった。
地(視覚+) _3
水(妖精吸引) _1
火(マグマ耐性)_3
風(スキル+) _0
音(聴覚+) _0
さて、次はいよいよ風に向かうか、それとも今になって重要視されてきた水に向かうか。非常に迷う所だった。
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