第3話
応援に駆けつけてくれた掲示板の有志一同。
「何やら新しい企画を考えたらしいな。私も手を貸そう」
ジャッカルの獣人、ジャスミンが開口一番協力的だ。
「俺は暇潰しだな。ああ、アキカゼさんから伝言だ『君達の可能性の前には飛び越えられない壁はない』との事だ」
アキカゼ・ハヤテ陣営の回し者、パスカルことロウガが口頭で言伝を添える。
全く、言われる側が飛び越えるハードルの高さを考えちゃいねぇお有難い言葉に涙がちょちょぎれるぜ。
村正は目をキラキラさせてるが、俺はそうかよ、と短く答えた。
「俺はこいつをぶっ飛ばせればなんでもいいぞ!」
相変わらずの凶科学者っぷりを見せるオメガキャノン。
陣営に与してさらに凶悪にグレードアップしたこいつは、最早獲物を探す狩人の如く。
そのうち実験と称して俺たちに照準を向けそうでいまだに信用出来ないでいる。
こいつは誘えば来ると思ったから人数合わせで呼んだ。来ても来なくても迷惑なやつなのだ。
「僕の力が必要ならば頼ってくれていいよ」
ようやくきちんと聴こえる声量で話すことができるようになった陸ルートがより対人に特化した武装を携えてそう答えた。
こいつ、ボリュームを調整できるレムリアに行ったのか。
魔法使いなのにビームガンとビームソードまで物にしてより近接に尖らせている。魔法使いの概念が崩れる……
オメガキャノンが何か仕掛けてきたらこいつに壁になってもらおう、そうしよう。
「モーバ殿? 久しぶりの旧メンバー復活で心も躍っているのであるか?」
「そうかもな?」
俺はそれらしい返事をしたが、実際このピーキーなメンツの手綱を握らされると思うと荷が重くて仕方がない。
「それでモーバ、私達はどこに向かうのだ?」
「地下ルートって言ったことなかったじゃん?」
「うはwwwwよりによってそこかよ!」
どんな攻略が待っているのか聞いてきたジャスミンに、俺は攻略記事として情報の少ない地下ルート開拓を決めてみんなに話す。
すると予想通りオメガキャノンが食いついた。
「言っとくが、アキカゼさんやどざえもん氏は陣営解放前にそこをクリアしてるんだぞ? 情報こそ出てるが、攻略配信はまだどこも出しちゃいねぇ! これは手をつけるしかないっしょ!」
「モーバ殿、流石にこれは……拙者達ハーフビーストには荷が勝ちすぎるのでは無いか?」
地下ルート攻略配信が全くない懸念はそこだ。
入れる種族が限定されすぎていること。
だがそれっぽっちのことで諦めて誰を越えようというのか。
「いいか、村正。仮にも打倒アキカゼさんを掲げてる俺らがだよ? その程度の障害一つ乗り越えられずにいてどうする? そもそも地下ルートの運搬はお前の親父のクランも関わってるんじゃねーか。かつては精巧超人達が取り締まって居ようが、今は誰のモノでもねぇ。違うか!?」
「そう、ではあるが」
いつもうるさいくらいに元気な村正だが、種族特性には抗えないのか少し消極的だ。
火に弱いったって、そんなん俺だって弱いわ。
だが、ヒューマンで空を飛んで地下も渡ったアキカゼさんにやれて俺たちにやれないはずがねぇ!
「策はあるのか?」
「お前、熱気を吹っ飛ばせねぇかオメガキャノン? ほんの一瞬でいい。その隙に俺はこいつらを水の膜で包む。こう見えて俺は魔法を使えるんだぜ?」
「焼け石に水じゃ?」
「火だるまになるのと茹で上がるのどっちがいい?」
「僕は熱に耐性がある。耐熱魔法は僕が受け持つよ。こう見えて魔法使いの端くれだ」
「陸ルート、近接特化すぎてお前が同じ魔法使いだってことをすっかり忘れてたぜ」
「えー」
不本意そうな声をあげるな。
今のお前の見た目、どこからどうみたって機械兵士なんだよ。
魔法が使えることの方が疑問だわ。
「俺、クランの方針で空ルートの称号はあらかた持ってるぞ。氷製作ぐらいで良ければ協力しよう」
「ナイスパスカル。あとジャスミン氏はナビゲートフェアリー要員で頼めるか?」
「それくらいならば引き受けよう。しかし6人中、3人がハーフビーストで地下に挑むだなんて無謀もいいところでは?」
「だから盛り上がるんじゃねぇか! もしこれで攻略成功してみろ。掲示板でも注目の的だぜ? 俺たちの目標はアキカゼさんだが、今はその足元にすら辿り着いてない。実績云々以前の問題だ。だからみんな、力を貸してくれ! 鼻を明かしてやろうだなんか思っちゃいない。ただ、俺たちだって力を合わせればこれくらいできるんだって見せつけてやりたいよなぁ?」
俺の檄に、メンバー全員がその気になった。
ヨシ、あとはその場その場で対応だ。
答えが分かりきってる配信よりも、どっちに転ぶかわかんない配信の方が見ててワクワクするもんな。
イエスマンなんていらないぜ。
俺たちはあくまで一般人代表。
手持ちの札はないに等しいが、この無謀さが掲示板連合ならではの特権てな!?
早速カメラを回して撮影開始。
伝説の始まりだぜ!
なお、配信直後に燃え尽続ける6人の姿が写り続ける放送事故になったのは言うまでもない。
流石の難易度に乾いた笑みしか浮かび上がらないのは初めてだぜ!
こりゃ、誰も手をつけないはずだ。
一人燃え残った陸ルートが詫びのテロップを流し、時間稼ぎをしてる間に再ログイン。
そのドタバタ具合にコメントは爆増!
ある意味で幸先のいいスタートは切れたのかもしれないな。
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