リセット
第47話
「うへぇ、まだあちぃ」
シバは寮周りの草抜きを終えていた。九月も半ばなのに残暑、汗だくで上着には扇風機みたいなのが付いている空調機付きの服。
しかしうまく起動してなかったのかほぼサウナスーツ状態だった。
「おつかれ、シバ」
「おう、サンキュー」
そんなシバのところにやってきたのはジュリだった。ジュリも同じ空調服を着て大きな日焼けのついた帽子をかぶって涼しそうな顔をして一緒に作業していた。
「すごい汗だくなんだけど……」
「なんでお前はそんな涼しい顔をしているんだよ」
「ああ、それ私のお古だからうまく動かないかしら。まだ使えて結構快適だと思ったけど」
「使えねぇよ、ボケ!」
「ふふ、まずは飲みなさい」
相変わらず仲の良いのかそうでないかわからないが……。
とりあえずシバは用務員としての仕事は続けて、寮にも住み続けている。そこだけはホッとしている。
しかし剣道部の顧問を解任され剣道部員たちが隣の高校の剣道部に移ってしまったため会うこともなくなり剣道をする機会を失ってしまい、今はその憂さ晴らしを用務員の仕事とジュリとの生活で……と思っていたのだが。
「てかこんな時間まで作業してていいのかよ」
「……最後ぐらい一緒にいたいのよ」
「ジュリ。なに昨日の夜に朝にずっと一緒にいたのにさ」
「そうよね、バカよね」
シバはその場を明るくしようとしたジュリは今にでも泣きそうだった。
「早く着替えてこい。俺も片付けるから」
「わかった。あそこら辺はもうまとめておいたから」
と指差す方にはこんもりとふくろの山。意外な量である。
「すげー」
「こう見えて力には自信があるから」
とちからこぶを見せてなんとか笑うジュリ。
あの事件以降、夏休みに入ってしまい湊音も塞ぎ込んでしまった。家まで行ったが会うことは叶わなかった。
シバもなんだかんだで落ち込んでしまいモチベーションが上がらなかった。
そんな時にそばにいたのはジュリだったのだ。シバもできれば湊音に寄り添いたかったのだがそんな気力もなく、そばにいてくれたジュリに頼り切ってしまった、というのが今の状態なわけで。
だがそんな時間もあっという間に終わるとは思わなかったようだ。
「にしてもこんな中途半端な時期に理事長交代とかないだろ」
「しょうがないわ、兄の帰国が遅れてしまったから。それにもう受験受付も始まってるし早急にしないとダメなのよ、引き継ぎ」
そう、ジュリが理事長を降ろされ彼の兄が継ぐことになった。それだけではない。
「いくらなんでも兄と交代かのように海外行きだなんてさ……しかも奥さんと離婚して。バッタバタだな」
「島流しのようなもんだわ……なんて嘘。うちの経営してるアジアの学校の運営を任されちゃったから大変なのよ」
「まだお前はいくところがあるから羨ましいや」
シバは空調服を脱ぐとジュリはそれをゴミ袋におもむろに捨てた。やはりいらないものであったようだ。
「兄にはあなたのことをいい用務員さんって言ってるからすぐクビにすることはないけども変なことをやらかさないようにね。ちなみに彼はゲイでないから。用務員を続行できるかどうかは兄の采配次第だから」
「変なことって。前会ったけどいい顔しなかったなぁ」
「まぁ、あの事件あったから心象は悪いけども……ああーわたしはこの高校で何を残せたんだろう」
外観をおしゃれにしたり、校内の管理システムの構築、または高校生クイズや数学オリンピックなどの実績を作ったのはある。
あとはシバは言えなかったが、もし剣道部が約束通りに優勝して存続でもしたら尚更よかったのだろう。
「まぁあとはお前の兄、新しい理事長に委ねるよ。俺はどうにでもなる、多分」
ここに来るまでは女のところに入り浸ったり転々としていたりしてた人間だったはずなのだが。
シバはもう覚悟はしていた。
子供の頃に両親が死に、児童養護施設で育ち、里親に育てられ、二人巣立ったのちに兄が死んだ。
もう先に生みの親が死んだ時点でまともには生きていられない、常にそう思っていた。
女癖悪いのはまぁそれは彼の性格上なのだが……。
「どうせ私がいなくなっても替えが効くじゃない。女性にはモテモテだし、なにせあなたには湊音先生も」
「……替えって」
と思うとジュリはシバの過去の1番の恋人だったあの李仁の面影に似ていた……替わりでもあったのかもしれない。
だがジュリはジュリで李仁は李仁。替わりでもない。
それと湊音は……とその時だった。
「理事長!」
「あら、湊音先生。噂をしてたら」
「噂?」
湊音が現れた。シバとまともに会うのは久しぶりであった。
「……湊音」
「シバ……。あ、その……ご報告がありまして。理事長が先だったけど」
湊音はシバを見ていた。シバはなんとなく感じとった。改まった報告という言い方に。
「僕、結婚することになりました」
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