合宿という名の小旅行?
第37話
合宿当日。大きい荷物を持ち部員たちは剣道室に集まった。そこには彼ら以外に保護者、シバや湊音、顧問だけでなくジュリや教師一同、O Bの姿も。
そして大島の妻、三葉もやってきた。あいも変わらず全身黒の服装であったがシバは以前あった時よりかは彼女の表情が明るくなったというのを感じた。
「あんな形で主人を轢いた犯人が見つかるだなんて思いもしませんでした。部員の皆さん、OBの皆さん、湊音先生……主人の事故でとても大変お辛かったかと思いますが今季の全国大会で前のように優勝できるようまずは今回の合宿、ぜひ頑張ってきてください。無理だけはせず。主人も天国から見守っています」
「はい!」
部員たちは三葉が一番複雑で辛い気持ちであろうに、こう言葉をかけてくれたことに目を潤ませる。
「この件を一区切りにしてみんな、前に進んでほしい。今は大島の一番弟子である湊音先生、そして強力な助っ人であるシバ先生に倣い大きく心身ともに成長していくことを祈ってるわ」
「はい!!」
湊音は自分が大島の一番弟子、シバは強力な助っ人と言われ少し照れくさいところもある。若干湊音は気持ちがなかなか持ち上がらないままだったようだがそこまで言われたのならと頭を深くさげた。そして顔を上げた。
「一年前の試合前日に大島先生が事故に遭い……皆心を乱し日頃の成果が出なかった。その後も良い結果は出なかった……大島先生が死んで尚更……いやこれは言い訳にしかすぎない。もっと早く僕が気持ちを切り替えて進まなきゃいけなかったんだ。みんなを引っ張るはずの僕がしっかりしてなかったから……」
湊音は涙がこぼれたが眼鏡を外してすぐ手で拭った。シバが軽く肩を叩いてくれた。部員たちも目を潤ませる。
「あぁ、だからダメなんだ。……もっとしっかりしなきゃ」
「しっかりしすぎなくてもいい。俺もいるから、なっ」
「……すいません」
拭っても拭っても止まらない涙。少し呼吸も乱れてきたがシバが背中をさすってやった。
前日の空き時間も湊音がずっと不安そうにシバの胸元に顔を埋めて抱きついてきたのを思い出したシバ。多分みんなの前でこう話すのが不安だったのだろう。
「三葉さん、保護者の皆様、OBのみんな、先生、校長、理事長……いろんな方が今回の合宿、大会のために動いてくれた。その感謝を返すべく、僕らは今日から三日間関東へ合宿をし、まずは地区大会で優勝……と言わず、必ず全国大会優勝するということを誓います」
湊音はまた頭を下げた。シバも頭を下げ、部員たちも頭を下げた。周りから大きな拍手が。その中には弥富もいたが、彼はジーと睨んでるようであった。
彼の担当していたクイズ部の全国大会への旅費や活動費も削られ剣道部に回ってしまったのだ。まぁ元々弥富は愛人の同行分まで予算にうまく組み込んでいたため、それを見抜いたシバが揺すってカットしたというのもあるのだが。
それはさておき。シバは高校時代、部活動に入っていなかったので壮行会は経験なかった。警察の剣道部とは違った雰囲気で胸がさらに熱くなる。
「頑張ったな、湊音。でもこれからだ。俺ら……この部員たちを優勝に導こうな」
「あぁ……」
初めは瀧本にこの仕事を薦められた際には辟易してたし何から教えればいいかわからなかった。部員ともぶつかったこともあったが少しずつ分かり合えてきた。
湊音とも不仲だったがあの夜以降、わだかまりもありつつも体を重ね合わせ互いのことを話すようになってからは互いにないものを埋め合わすかのように指導できたのでは、と思い返すシバであった。
そして壮行会も終わり、部員たちを駅までのバスに入れた時に三葉が湊音とシバに近寄ってきた。
「お二人とも、体調だけには気をつけてください」
「ありがとうございます……」
2人の目線はどうしても三葉のばっくり開いた胸元に行く。さっきからずっと思ってはいたがそれだけでなくミニスカート、ヒールのある靴……湊音は目のやり場に困って目線を外したがシバは凝視していた。
「シバ先生……」
「はい?」
甘い声にシバはドキッとする。すると横にいた湊音は小突き、遠くにいたジュリはすごく睨んでいる。
「頑張ってくださいね、ふふふ」
と手に渡されたのはタオルハンカチ。何か入っている? と感触で分かった。気づくと湊音はバスに乗っており、シバが三葉の前でハンカチを開くとメモ用紙が。
三葉の名前、電話番号、メアドが。シバはさっとハンカチに隠した。三葉の顔を見ると彼女は微笑んだ。
「主人の事故も無事解決しましたしね、私も気持ち切り替えて……前に進まなきゃ。また合宿終わってからでも……」
と彼女は去っていった。シバは久しぶりの女性からのお誘いに気持ちが高まった。
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