第12話
シバは寮にもどると、女の子を連れ込んだ男性教員の弥富が部屋に入ってくるところだった。自分よりも年上かと思ったら見た感じそうでもないようだとシバはじろっと見る。
「お疲れ様です……たしか用務員の」
「はい、冬月と申します。上の階に越してきました。まぁもうここにはいられなくなるかもしれませんが」
「あら、早いですね……」
ニタニタ笑う弥富。
「あ、どこの誰か知らんけど女の子連れ込むのは良くないと思いますよ……あんなヒールで歩かせて。まぁどこのお店の子か知らんけどね」
「……え、な、な、なんのことでしょう」
シバは閃いた。
「そのことは黙ってますから、もし何かあった時はよろしくお願いしますね」
「は、はい……」
弥富はたじろいで部屋にあわてて入っていった。
「なんの担保になるかわからんけどな……弱みは握ったもん勝ちだ!」
シバはまた剣道場に向かった。ジュリたちに途中で会うかもしれないがその時はその時だと。
あっという間に外は薄暗くなって不気味だ。
「こんな不気味なとこじゃ夜遅くまで練習できんぞ……剣道室も古かったし」
自分が用務員であったことをすっかり忘れていたシバ。初日からなんたることをと頭を抱えるが剣道場にとりあえず向かう。
剣道場は明かりがついていた。明かりは薄暗いが。
「まだついている」
明かりがつく先に向かうと……
「ううううっ」
「うわっ!!!!」
「うわぁああ!!」
シバはうずくまる黒い物体に驚く。その物体……泣き顔でぐちゃぐちゃな湊音であった。彼もシバの登場に驚いて手のひらで泣き顔を隠すが遅かった。
「な、なにやってんだよ……てか部員や理事長は」
「君こそ帰ったかと思ったら! 他のみんなはもう帰ったよ」
「じゃあお前はずっとそこで泣き喚いてたのか」
「……るさいっ!!! るさいっ!!!」
と湊音は叫びながら顧問室に入ってしまった。
そしてシャワーの音。
「ずっと泣いてたのか、ガキか? ……てか雑巾ないのか」
湊音がうずくまっていた畳の上は涙の跡のシミが。シバは顧問室の雑巾を持ってきて拭く。
「……すまん、そこまでしなくても」
シャワーから出てきた湊音は上半身裸であった。
「畳がダメになるだろ。てか他のところも悪くなってる。畳をメンテナンスしてるか?」
「……してません。予算がありませんからね」
シバは立って雑巾を叩きつけた。
「たわけか! 稽古場のメンテナンスもしっかりしろ。足元とか今日沈むところが何箇所あったぞ」
「……すいません」
湊音に詰め寄るシバ。壁に追い詰める。
「前の顧問の時もこんなんだったのか? 掃除もしっかりされてない」
「……大島先生の時はしっかりしてました」
「じゃあなんでやらないんだ! お前がしっかりしないから部員たちは弱くなっていくんだよ!」
バン!
シバは壁に手を当てた。湊音はまた涙目になる。またか、とシバは呆れ顔である。
「……俺がその根性叩き込んでやる! そして今度の大会で優勝して全国大会に行けるようにするぞ!」
「冬月さん……」
湊音は力が抜けて尻もちをつく。と同時に
♪ピンポンパンポーン
とチャイムが剣道室に響いた。
『シバ先生、よく戻ってきたわね』
「こ、この声はジュリ……理事長! まさか今」
シバはスピーカーの方を見る。
『管理室よ。あなたったら用務員の仕事も忘れるんだから……初日から』
「す、すいません。そっちからはここが見える……あ、監視カメラ! こういうところには金掛けてるのか!」
『ええ、見えますわ。この放送も剣道室のみに聞こえるのよ。先ほどからそちらの映像見てましたわ。音声もオンにして』
湊音はないてるところを見られたかと思い恥ずかしくなったのか手に顔を当てる。
『大丈夫よ、顧問室はプライベート空間ですからカメラはありません。あ、では畳の方のメンテナンス、業者による清掃を早急に取り掛かります。明日明後日は学校休みの日だから』
「ありがとうございます……」
「理事長も外だけでなく中の設備もしっかりしろよな」
シバはコソッと言ったつもりだったが
『それは申し訳なかったわ……』
聞こえていたようだ。
「うげっ……てか畳の業者、安いところあるからそこに頼んで欲しいんだが」
『はいはい。本日は私がクローズしておくから帰りなさい。湊音先生もね。シバ先生の今後に関してはまた後日……』
プツっ
と音が切れた。
「帰るか」
「……ですね」
ぐうううううううっ
お腹の音が二人同時に鳴る。
顔を合わせて見つめ合う。シバはジュリが作り置きしてくれていたシチューでも食べるか、と思っていたが
「……今夜は僕が奢りますよ」
と湊音がそういうものだから
「じゃあ、飲みに行きましょう。しばらく酒飲んでないから。明日も休みですしねぇ」
とシバは奢りと知った途端ルンルンに返す。
「新しい顧問の先生が来てくれるとのことで歓迎会のつもりでは今日はいましたが……まだ歓迎はしてませんから。とりあえず食欲を満たすためです」
と湊音は上の服を着た。
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