第10話

「シバさん! あなたは手加減という言葉を知らないんですかっ……いてぇ」


 湊音が右手首を押さえる。剣道室の道場で全部員がぐったりしている。


 それらを一人一人手当てをしているのは何故か駆けつけたジュリであった。


「この子たちは高校生なのよ。確かにあなたは強いかもしれないけどレベルに合わせるとかそういうことをしないの?」


 ジュリがそう言ってもシバは竹刀を握ると手加減しない人間だった。だが本人も少し大人気ないとは思ったがあまりの部員のやる気がなさすぎて手加減はしてはいけないとさらに思ったまでであるらしい。


「怪我をして筆記用具が握れなくて授業に支障きたしたらどうするの」

「……剣道部員がそんなこと考えてやってるようじゃぬるいな。俺も手首怪我したら仕事支障きたすとかなんだよ。そんなぬるい気持ちでやってたらいつまで経っても全国大会行けんぞー」


 ジュリはため息をついた。湊音はすごく睨んでいる。


「それにそのチビ、湊音先生だっけ。こんな奴に指導されてたらそりゃ県大会止まりなの明白だ……こりゃぁ育て甲斐があるな」


 だがその場の雰囲気は最悪である。


「……こんな人が兄の上司だったなんて。最低だ」


 宮野は立ち上がった。そしてシバの喉元に竹刀を突きつける。喉元に届く直前でシバにはたかれた。竹刀を持っていた手を宮野は抑える。

「すまん、その手は攻撃したくなかったが……」

 ジュリがすかさず近寄って宮野の手当てをする。


「試合以外で急所狙うとはな、無礼だ」


 シバはそう言って顧問室に入り防具、胴着を脱ぎすぐシャワーを浴び、着替えて道場に戻る。


「シバ先生……」

 ジュリに呼び止められるもののシバは振り返らなかった。


「理事長、すいませんね。ご期待に添えず。それでは」


「冬月さん!!!」

 湊音も呼び止めるもののシバは振り替えず走っていく。



「なんなんだあいつは。もうあいつはクビですよね?! 理事長」

「はぁ、とんでもないやつ来ちゃったわね。それよりも湊音先生、手首捻っちゃったみたいね」

「ええ。でもあいつは俺の利き手じゃない方を……」

「それよりもシバ先生もやめたらどうするの? この剣道部、廃部よ」

「そんなっ」

 湊音は狼狽える。

「かなり猶予見てたけど残念ね。全国大会ともなるとあれくらいのモンスターがいてもおかしくない。いや、最近県大会でさえも……。まぁあの狂犬は乱暴かもしれないけど教え方がわかれば少しはこの剣道部にも刺激になるかと思ったけどね」

 湊音は右手を撫で、落ち込む。部員たちもそれを聞いて項垂れる。


「……廃部……それがわかってるなら頑張れないっす」

 と部員らも更衣室に去っていった。


「待って! まだまだいける。君たちは!」

 湊音がそういうが彼らもまた振り返らなかった。


「……部員たちの士気を上げることもできないのもダメね。もう廃部よ。早めに結果を出したほうがいいかしら」

「理事長っ、待ってください! せめて今度の大会で結果を出します!」


 湊音は左手でジュリの腕を掴む。涙目である。


「結果、出せるのかしらねぇ」

「出します……」

「もう何度聞いているのやら」

 ジュリは湊音の手を振り払った。


「あああっ……」

 湊音はうずくまる。目線の先には恩師の防具。


「すいません……大島先生。やっぱり僕には……剣道部の顧問なんて務まらなかったですよ。あなたがいきなり死んでしまうから……ああああっ」

 湊音は泣きながら床を叩いた。


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