第八話 そう簡単に終わったら、お話にならないですからね

 私と小津おづさんは、遠巻きに、倒れた寄見よりみさんと辺見へんみの様子を窺っていました。

 私たちは少しずつ二人ににじり寄っていきます。そんな時でした。


 急に辺見瑠璃へんみるりが立ち上がりました。そして、寄見さんの足を鷲掴みにし、軽々と持ち上げると、その足をむしゃむしゃと食べ始めたのです。

 見る見るうちに下がり切っていた辺見のHPゲージが回復します。これは、一部のモンスター専用のはずの技術スキル共食いドレインイートでした。


 その様子を見て、私も小津さんも嫌な予感がしました。

 現実リアルにいるスタッフたちからメッセージが届きます。


「大変です。寄見さんの足が食いちぎられています。先ほどと同じです」


 そういえば、おじいさんが寄見さんの話をした時、辺見に足を食べられていたと言っていましたね。何の偶然でしょうか、私も寄見さんが辺見に足を食べられるところを見ていたんです。

 あの時、おじいさんは話を濁していましたが、寄見さんは両足とも失ってしまったんです。


 私はその様子にただただ怖気づき、恐れおののいていました。でも、隣にいた小津さんは違ったようです。いえ、もしかしたら、私以上に怯えていて、恐慌を起こしたのかもしれません。

「う、う、う……」と嗚咽のような声を漏らしたかと思うと、頭を上げ、目を見開きました。そんなモーションは用意していませんでしたので、私にはそう見えた、というだけかもしれないですね。


「うわああああああ」


 急に大きな怒鳴り声を上げると、剣を構え、辺見に向かって突っ込んでいきます。

 それに対し、辺見の全身が紫色の膜で覆われました。強酸肉厚アシッドプレスです。

 その瞬間、小津さんの持っている武器が書き変わりました。小津さんは瞬時にプログラムを書き換えたようです。それは、アルカリ金属でできたカリウムブレードに変化していました。カリウムブレードは強酸を中和し、辺見の顔面深くに切り込みます。


 オホホホホホホホホ


 突如、辺見は笑いだしました。ブレードは深く入り込んでおり、彼女の右目をちょうど分断していました。

 だというのに、笑うのです。生きているだけでも不気味ですが、それでなお笑っていたのです。


 小津さんもこれにはビビったのでしょう。辺見に背中を見せ、必死で駆け出しました。しかし、そんなことは無駄なことでした。小津さんが走り始めた時、辺見は彼の背中に無理やりおぶさり、小津さんの身体をギュッと抱きしめていた。


「うおああああああ」


 小津さんは悲痛な声を上げます。恐怖にひきつった、異様に甲高い声でした。

 辺見は大きく口を開けると、おぶさったまま、小津さんの頭に齧りつきました。ガリっという鈍い音ともに、小津さんの頭が四分の一ほどなくなり、砕けた頭蓋骨の隙間から脳味噌がだらりと垂れ始めます。


「小津さんが亡くなりました。頭が」


 スタッフから書きかけのようなメッセージが届きました。予感はしていましたが、同時に恐れていた事態が起こったのです。

 私は恐怖に駆られて、弾丸を手当たり次第にぶっ放しました。使える技術スキルは手当たり次第に打ち込み続けます。

 そして、麻痺弾バインドショットを撃った時、辺見の動きが止まりました。


「状態異常は効くのか」


 そのことに気づくのと同時に走り始めます。周布野すふのさんと瀬味せみさんのいる場所に向かって、全力でダッシュしました。

 背中を見せている間に、辺見が再び動きださないことを祈りつつ。

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