第二話 不思議な縁というのもあるものですね
そんな議論はオープンベータの第一日目から起きました。辺見がプレイヤーキルをして回るという報告が多数上がったからです。
辺見はHP無限というだけでなく、ゲームのシステムに縛られないさまざまな能力を持っているという話でした。
その報告は日増しに増えていきました。次第にそれは報告というよりは苦情やクレームというべきものになっていき、やがて、その怒りはより大きなものになっています。
ですが、アルファテストの段階でできなかったことです。今になって対処など難しいことでしたが、ことがここまで表面化したとあっては、何もしないという選択肢もありません。一流のシステムエンジニアに出向してもらい、見てもらうことになりました。
やって来たエンジニアは
別におじいさんのお話を聞いて、名前を一緒にしたんじゃないんですよ。本当にそういうお名前でした。なんでしたら、名刺をお見せしましょうか? ほら。ね、正真正銘の寄見頑人さんでしょ。
寄見さんの診断は丸一日かかりました。それが長いのか短いのか、誰にもわりませんでした。この中の誰も、辺見の解析をできた人はいないんですから。
ですが、関係者を集めて行った寄見さんの発言がおかしいものであることは、私にもわかりました。みんな、おかしいと思ったでしょう。
「あのですね、システムに異常も見つかりませんでしたし、外部からの侵入もありませんでした。これは、内部から出現したものです。
あ、いえ、社内に犯人がいるとか、そういうことじゃないんです。システムが自己学習して、自我を獲得し、ゲームの中で生きているんです。これはそういう事象です」
あたかも、時折起こりうることだ、そう言いたげな口調でした。
ですが、そんなことが起こりうるとは誰も聞いたことはありません。現代よりも進歩した未来社会の出来事でしょう。
「そんなことはありません。対話アプリケーション用の言語モデル開発時に、死を恐れるAIが現れたというニュースを見た方はいませんか。すでにAIは自我を獲得するだけの情報を得ているのです。
あなたたちは人間を特別な存在だと思っていませんか。意識があるのは人間だから。人間だから自我を持っていると。
そうではないのです。AIはインターネットを通して世界中の情報に常に触れ、無限に近い選択肢を得ているのです。だから、こんなことは珍しいことではありません」
確かにそのニュースは見たことがあります。けれど、そんなのはエンジニアがPRのためにやっていることだと解釈していました。
寄見さんはそれが事実だと言い切る。胡散臭いものを感じました。その場にいた大勢がそうだったでしょう。
「信じられないのですね。それもわかります。では、証明いたしましょう。
実はこのゲームの中に入る方法があるのです。AIは無限の
そう言うと、寄見さんは何人かにヘルメットのような器具を渡しました。その何人かの一人が私でした。
え、私もよくわからないことに参加しなきゃいけないの。
そう思っていると、寄見さんが口を開きます。
「では、これからゲーム内でどう自我が保てるか実験いたしましょう。この実験によって辺見さんの排除もできるはずです」
寄見さんはそう言うと、何人かのスタッフに奇妙な機具の付いたヘルメットを手渡します。寄見さん自身もヘルメットをかぶり、何かのスイッチを押しました。
そう、これがデスゲームの入り口です。おじいさんは霊魂がデスゲームへと呼び寄せるなんて言っていましたが、そんなことはありません。
皆さん、覚えがありませんか。機材を用いてデスゲームの中に入ったことを。ゲーム中はそうした記憶を封印処置する方もいますので、覚えていない方もいるかもしれませんけど。
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