イゴーロナクの影。TRPG用的なヤツ
何かショックな事が有った事はボンヤリと覚えているけれど、自分はどうしてこんな田舎の道路を歩いているのか。
しかも夜、土砂降り。
でも意外と寒くは無い。
そうだ、傘は差してるんだった。
車は偶に通るけれど、ココを歩いている人間が居る事には疑問が湧かない程度の田舎らしい。
それにしても、ココは。
《君、近くまで送ろうか?》
傘を差しながら車から出て来た女性に、見覚えが有るような、無い様な。
「あの、最寄りの駅って」
《きさら…駅だけど》
「あぁ、そうなんですね。じゃあ、お願いします」
途中で車が通って聞き取れなかったけれど、その駅名なら何とか知ってる場所だ。
けど。
《どうしてココへ?》
「何か、気が付いたらココに居て」
良く良く思い出すと、誰かと喧嘩をした気がする。
そしてもっと言うと、電車に乗っていた気もする。
《そうでしたか、大変でしたね》
自分の様な人間に慣れているのか、それ以降は深く聞かれる事も無く、駅まで送って貰ったのだが。
「人身事故で再開未定」
《良く有るんですよ、何せ
そうだ現金。
財布は持ってた、中には大きい金額のお札が1枚だけ。
スマホは、落として電源が入らない状態なのを思い出した。
「すみません、お世話になります」
《良いんですよ、じゃあもうお客さんですね、どうぞ》
そうして山奥へ車で向かう途中、時折すれ違う車のライトが異様に眩しく感じた事は覚えている。
また、どうしてココに居るのか。
あぁ、昨日は電車が動かなくて、旅館へ泊まるって話で。
「あ、おはようございます」
《着いた頃には熱を出してたんですよ、もう大丈夫ですかね》
首を触られた手が凄く冷たい。
まだ熱が有るんだろうか。
「すみません、ありがとうございます」
そうして顔を手で触ると、包帯が。
《あ、触らない方が。実はアナタ顔に火傷を負ってたんですよ、それなのに痛がる事もしないで、でも車の中でグッタリして。病院へ運ぼうと思ってたんですけど、財布を見ても保険証も何も無かったので、ウチがお世話になってるお医者さんに往診して貰ったんです》
言われれば確かに、熱くて痛い思いをした気がする。
そう思った途端に顔に激痛が走った、熱くて痛い、何も考えられない。
「痛い、熱い」
《あ、お薬を貰ってますから、どうぞ》
痛くて何も考えられない。
どうして、どうしてこうなったのか。
あぁ、そうだ、誰かに恨みを買ったんだ。
顔を焼かれたショックからか、名前も何も思い出せなくなってしまった。
なのに旅館の女将は僕の世話をしてくれて、探偵さんまで雇ってくれる事になった。
『どうも』
「あ、はい、宜しくお願いします」
『先ず、今の感想は?』
「どうして警察を呼ばないんだろう、と」
『そりゃココは後ろ暗いのばっかりだし、半分だけ見えてる顔は良い男だからね。慣れてるんだよココのは、そう言うのが多く居る場所だからさ』
後ろ暗い事は無いと反論しようと思ったけれど、自分の映った写真が破れる映像が頭を過ぎった。
もし自分がそんな事をしたのなら、誰かにそんな事をさせてしまっているのなら、きっと身分証は自分で捨てているのかも知れない。
「もしかしたら、死ぬ為に、海へ行ったのかも知れないです」
『ほー、そんな繊細さを持っているかも知れない。って事だね』
「そうだと、良いなとは思います」
『そっかそっか。よし、思い出せる所から思い出してみようか』
家族構成、何処に住んでいたのか。
友人は居たか。
恋人は。
「恋人が、居たかどうか」
『少なくとも未成年には見えないし、君は良い顔の男だし。きっと恋人が居たと思うんだけどなぁ』
恋人。
「あの、そもそも、恋人って」
『そこからかぁ』
探偵さんの話から恋人の概念を教わり、それらしき人物はボンヤリと思い出せたのだが。
「燃える様な、何かが、邪魔で」
『情熱の炎かな、色は何色だろう』
「紫と、黄色」
『炎は1つ?』
目を閉じると。
1つ、3つ、5つと増えて、最後は2つに。
「1つは黄色い炎、もう1つは、毒々しい紫色」
『紫がどうして毒々しいのかな?』
「臭くて、ベトベトしてキモチ悪くなる」
『なるほどねー。他のはどうやって消えたの?』
「放っといたら、勝手に消えてました」
『なるほどね。相手の特徴は思い出せる?』
紫の炎に包まれているのは、自分よりは年上の女性、香水か化粧品か何かの匂いがキツくて良く姉に注意されていた、けど適当に流す様な女。
姉と同族の女。
けれど黄色い炎に包まれてる男は良く見えない。
辛うじて感覚だけで男と分かる程度で、年も何も。
「分からない」
『じゃあ、そろそろ鏡でも見てみる?』
彼が指差した先を見ると、閉じられた鏡台が窓際に有る事を認識した。
そうだ、顔を見れば名前位は。
けれど古い鏡台が開く事はなかった。
「あっ」
『壊れちゃったね、古いからかな』
そう古い物には見えなかった筈が、良く見るとアチコチに傷や古びた部分が目に入った。
「あの」
『ココは部屋にしか鏡が無いんだ、俺の部屋のを使ってみよう』
そう言われ案内されたのは洋室だった。
閉じられた化粧台を開けようとすると、薬が切れたのか突然激痛がぶり返して。
「うっ」
『無理をさせたみたいだね、もう今日は休もう』
彼から薬を受け取り、何処からか出て来たコップを飲み干し、支えられながら部屋に戻った事は覚えている。
痛みに目を覚ますとスッカリ真っ暗で、起き上がると紫色に光る蝶が舞っていた。
真っ暗な部屋に居たものだから、つい追い掛けていると、少しだけ空いてたドアの隙間から蝶が。
更に追い掛け真っ暗な廊下を進むと、いつの間にか映画館内部のドアの前に。
開演ブザーと人並みに押されながら椅子へ座ると、読めない漢字ばかりのタイトルが表示された。
そうして赤子と家族の映像と共に、雑音がアチコチから聞こえてきた。
瞬きをする度に子供は成長し、見慣れた顔になっていく。
見たく無い。
そう思い目を背けたのに、椅子がぐるりと回転し、僕の真正面へと現れた。
今度は手で目を塞ごうにも何人もの女の手で座席へと縛り付けられ、細く長い冷たい手で、目を閉じる事も出来無い状態にさせられた。
キモチ悪い、臭い、女の臭い。
痛みと吐き気に飛び上がろうとすると、目の前には青く光る蝶が。
触れられたら助かるかも知れない、何故かそう思い必死に手を伸ばした。
そうして何とか触れられたかと思うと、今度は画面へと吸い込まれてしまった。
紫色の炎に包まれながら、僕を睨む目から視線が外せないままでいると、彼女が真っ赤な口を動かしている事に気付いた。
「ずっとまってる」
痛みと吐き気に飛び起きると、どうやら自分はベッドではなく布団で寝ていたらしい。
『お、起きたね』
この探偵さん。
「あ、の、何処かで」
何処かで会った事が有る様な、無い様な。
『もうナンパかぁ、色々と早過ぎじゃないかな?』
「そんなつもりじゃなくて」
『はいはい、取り敢えずは薬をどうぞ』
「ありがとう、ございます」
薬を吐き出さない様に、吐き気を誤魔化しながら息をする。
口だけで息をして、臭い臭いを体に入れない様に。
『で、ずっとまってる。って、誰?』
そう、確かに夢の中の人には見覚えが有る。
「多分、知り合いです」
『そう。じゃあ、その火傷したって部分との因果関係は?』
そう言われれば確かに、勝手に焼かれたと勘違いしていたかも知れない。
もし海で死を願う様な人間なら、自分で自分の顔を焼くかも知れないし、写真だって破るかも知れない。
けど。
「分からないです」
『吐き気はどうかな?』
「あ、はい、痛みも吐き気も、もう大丈夫です」
頭がボーっとする。
どうでも良い気もするし、もっと知りたいとも思うし。
『だけどね、そうして他の事で気を紛らわせても、いつか向き合わないと、永遠に痛くて気持ち悪いままだよ』
呆れと怒りと悲しみと、様々な感情を含んだ目で見つめられると、目の奥に刺す様な痛みが。
顔に触れると、まだ傷口は生々しく膿んでいる様な感触。
思わず心配になり顔を触ったせいで、手にドロリとした感触が伝わった。
少し黄ばんだ白い膿が包帯から滲み出て、異臭を放っている。
顔は、僕の顔はどうなっているのか。
顔を抑えながら化粧台に向かい、膿で滑る手で鏡台を抉じ開けた。
ズレた包帯から見えるのは、赤く爛れて醜く歪んだ僕の顔。
この顔は確かに、僕の顔だ。
けど。
「前は、こんなんじゃ」
『そうだね、前は火傷も無い綺麗な顔をしてた』
その声に再び顔を上げると、確かに傷1つ無い自分の顔が。
けれど今度は瞬きをすると爛れた顔に、そしまた瞬きすると元の顔に。
「コレ」
『あぁ、コレは心も写す鏡なんだ』
まだ僕は悪夢から抜け出せていないのか、薬を飲んだのに顔が痛い。
「また、薬を」
『それよりもっと良いモノをあげようね』
彼に塞がれた視界が暗くなり、明るさを取り戻すと和室へと戻っていた。
そうしてそこには艶かしい姿の女将が、布団の上で僕を手招きしていた。
《痛みを紛らわせてあげる》
その言葉に藁にも縋る思いで、彼女の胸へと飛び込んだ。
そうして起き上がると、青空の見える朝になっていた。
臭くは無いけれど、女の臭いが充満する部屋を換気する為、窓を開けると手摺りに探偵さんが座っていた。
『逃げたいなら、もうココから出た方が良いよ』
「逃げるって、何から」
『全部。逃げる為に逃げる、向き合いたいなら鏡か映画館』
そう言うと探偵さんが地面へと着地した。
ココは凄く高いのに、花びらが舞い落ちる様にそっと着地し、ある方向を指差した。
霧で良く見えないが、その方向には吊り橋が見えた。
そして暫くすると雪が降り始め、探偵さんは吊り橋の方向へ。
逃げるか、知るか。
このまま迷い続けるか。
迷う事を選択した僕は、また布団へと戻った。
何日が過ぎたんだろうか。
薬と酒と女で痛みを紛らわせても、結局はふとした瞬間に痛みが吐き気と共に蘇り、酷くなっていく。
もう耐えられない。
意を決し、着替えて部屋を出ると、そこは廊下では無く洋室だった。
『お、すっかり元気そうだね。よし、紅茶を淹れてあげよう』
「それよりあの橋へ」
『あぁ、花街には映画館や出口が有るけど、もう大丈夫なのかな、顔の痛みは』
そう言われ認識してしまうと、再び激痛が走り、思わず両手で顔を覆った。
ヌルッとした感触に驚くと同時に手を見ると、僅かに黄ばんだ白濁液がこびり付いて。
自分の顔から垂れている。
青臭い汚い膿が、止めどなく溢れてくる。
「ぁあ」
『大丈夫、気にしない気にしない、良くある事だろう……男には』
不意に背中を押されて入ったバスルームは鏡張りで、自分のありとあらゆる痴態を映し出し、激痛を呼んだ。
そして香水と青臭さの混じった臭いも合わさって、黄ばんで白濁した膿を吐き出しながら、意識を失った。
真夜中、ふと目を覚ますとベッドの上だった。
探偵さんが足元で本を読んでいる。
『ペンギンのぬいぐるみはどうしたの?』
そう言われてみれば確かに持っていたのに、何処へやったんだろう。
大きいサイズと小さいサイズ、全く同じでは無いけれど、良く似た色柄のペンギンのぬいぐるみ。
大きいサイズはソファーに、小さいサイズは自分の。
「ベッドに置いて有る、筈」
『そう、バクだったら良かったのにね。きっと悪夢を食べてくれただろうに』
起き上がり探偵さんへ近付こうとした瞬間、また顔に激痛が。
そしてまた青臭い膿をダラダラと垂らし、布団へポタポタと落とし汚してしまった。
もしこのまま触れてしまったら、この膿が何か悪いモノで、誰かを汚してしまうかも知れない。
こんな顔じゃなければ、青臭い膿なんかが出なければ。
そう思うと涙が溢れた。
そして黄ばんだ白濁液だと思っていたモノは、透明な液体へと変わっていた。
「ごめんなさい」
『何で泣いてるの?』
どうして泣くのか、どうしてこうなったのか。
「分からない」
『分かりたいかどうか、知りたいかどうか。知ってしまえば傷付く事も有るからね、知らないで居る権利も有ると思う』
「その果ては、知らないフリを続けた結果は」
『それも、知りたいならコッチ』
探偵の手には鏡と映画の券。
《痛いのが嫌ならコッチ、痛みを紛らわせる事は罪じゃ無いわ》
女将の手には薬とお酒。
『一時的に、ならね』
《紛らわせる処か、もっと良くしてあげる
あぁ、このまま居たらどうなるんだろうか。
こんな夜中に吊り橋を渡ったら、どうなるんだろうか。
あぁ、どうしてこんな事になっているんだろうか。
痛みは強さを増して、立っている事も考える事も出来無いし。
また、また選択を間違えてしまうかも。
『迷ったら選択肢を増やしたら良いんだよ、鏡を見るか映画館へ行くか、全てを忘れてしまうか、他の誰かに助けを求めるか。君は大人で自由なんだ、好きにして良いんだよ』
「その、誰かって」
『あ、その本に書いて有るよ、ふふふ』
手元を見ると見慣れぬ本を持っていた、文字が掠れて良く見えないけれど、読み取れる後半部分は黙示録第12巻と書かれている。
《道は沢山有るし、その本を読めば、何者かが分かるわ》
台帳の様な本を良く見ると、汚れが。
袖口で拭うと、掠れていた部分に浮かび上がったのはグラーキと言う文字。
グラーキの黙示録第12巻。
見覚えすら無い、僕とコレに一体何の関係が。
「これは」
『コレは選択の時間』
《けど、選ばない事も可能よ》
知ろうとすればきっと痛みが伴う。
吐き気と目眩と激痛が。
こんなになってまで、知る価値が有るんだろうか。
「そこまで」
『そこまでする価値が有るのか?それを決めるのも君じゃない?』
自分の名前も知らないのに、重要そうな事を決めろだなんて。
「自分の名前も分からないのに」
『知りたいか、知りたくないか』
「知りたい」
『君の名は……』
確かに自分はそんな名前だった、そして確かに自分は大人。
そう認めた瞬間に、全身に悪寒が走った。
《それは多分、自己嫌悪ね》
そうだ、自分を好きじゃない。
そう、前は自分を好きかどうかも考えなかった。
けれど何処かに確認する切っ掛けがあって。
自分の汚さが嫌になったんだ。
そう認めた瞬間に、口から青臭い膿が出て顔面に激痛が走った。
全ては顔のせい、顔が。
『どうしてそんなに苦しくて辛いのか、どうしてそんなに汚れたと思うのか』
《良いのよ、ずっと目を逸らし続けても、だって罪じゃ無いんですもの》
『知るも誤魔化すも君次第』
例えこんな苦痛を受けたとしても、知りたい。
そう思うと同時に意識も遠ざかり。
次に目を覚ましたのは、夕焼けなのか朝焼けなのか。
和室の布団の枕元には小さなペンギンのぬいぐるみ、肌触りは柔らかくスベスベ、ふわふわ。
大事な人に貰った物。
そう、自分には大事な人が居たんだった。
けれど手が届かないかも知れないし、また同じ道を、同じ罪を犯してしまうかも知れない。
だけど会いたい。
知って欲しい。
何を?
自分の罪を?
いや、もう知ってる筈。
汚れている事も知っていて、けれども手を差し伸べてくれた。
でも、それは何の為?
《悩みなんて忘れましょう、誤魔化して捨てましょう》
艷やかな声で、前が少しばかり
痛み止めとコップを持って、誘惑する為だけに生まれた様な艶かしい体で、優しく僕に寄り添った。
薬になのか彼女になのか、手を伸ばそうとした瞬間に部屋のドアがノックされた。
『邪魔するよ〜って、本当に邪魔しちゃったみたいだ。どうする?流される?真実に向き合う?』
そう言いながら探偵がぬいぐるみに触れ様とした瞬間に、猛烈な苛立ちを覚えた。
そして急いで抱え込むと、今度は女将がぬいぐるみに触れ様として、初めて彼女を敵かも知れないと認識する事が出来た。
すると自然に答えは出た。
「大事な人の事を思い出したい」
『よし、じゃあ行こうか』
探偵がドアを開けると、目の前には古びた映画館が。
そして次の瞬きでは、映画館内の椅子に座っている状態だった。
観客は探偵さんと僕だけ。
そうして手を握ったままでいると、直ぐに映画が始まった。
タイトルは。
「僕の映画」
『そうだね』
そうして僕の過去が流れ始め、悪夢へ。
最初の女は紫色の炎に包まれ、再び真っ赤な口を開いた。
そうだった、火傷はした。
他に好きな人が出来たと紫の炎の女に告げた時、薬品を掛けられたんだった。
《そろそろ決断の時ね》
『生きるべきか死ぬべきか』
《メメント・モリ、汝死を思え》
どう生きるか、どう死ぬか。
「もう少し、頑張らせて下さい」
《そう、残念。もう1度チャンスをあげるわ》
女将に顔を掴まれ画面へと向けさせられた。
新しくは始まった映画のタイトルは、グラーキの黙示録第12巻。
そして途中から開かれたページを見た瞬間に、全身に悪寒が走り鳥肌が立った。
見てはいけない。
直感的に見てはいけないと分かった、悟った。
だが抵抗も虚しくページが捲られていく。
後3枚。
後2枚。
死にたくない。
そう思い必死に抗って手を振り解き、映画館を飛び出した。
そうして後ろを振り向くと、頭も首も無い、白くブヨブヨとした水死体の様な化け物がコチラへと追い掛けて来た。
僕を掴もうと這いよる大きな手には、だらしなく開いた口が、黄ばんだ白濁液と唾液の様な液体を垂らしながら、僕へ。
逃げなないと。
けど、何処へ?
花街を走る中、ふと探偵さんが花街に出口が有ると言っていた事を思い出した。
なら。
無我夢中で、必死で走った。
そして偶に四つ辻で出会う人は、本を開いていたり、正しい方向なのか指を差していたり。
その方向へ走って、走って。
大きな門が遠くに見える大通りへ出た。
後はもう、出るだけ。
けど、もう足が。
そう少し速度を落とした瞬間に、足下から徐々に這いよる影。
決断を躊躇ったから、迷ったから。
出口へ着く直前、青臭い手に捕まり、覆われた。
その手に付いた口が開くと、そこには本が。
グラーキの黙示録第12巻、6章、6節、6行目。
《求めよ、さらば与えられん、叩けよ、さらば開かれん》
あぁ、僕は欲望に落ちても良いんだ。
『良かった、目を醒ましてくれて』
「あ、ココは」
『病院よ、大丈夫?』
「少し、記憶が混濁してて」
『アナタはストーカーに薬品を掛けられて大火傷をしたの、だから顔は触らない方が良いわ』
あぁ、全て思い出した。
恨まれて、薬品を掛けられて。
そうして初めてこの人への愛を自覚して、そうして自分の罪を自覚して。
欲望を自覚した。
イゴーロナクを崇め、欲望に忠実になると決めたんだ。
そう、汚したい、穢したい。
あぁ、彼女をどう殺そう。
[先日、薬品による大火傷を負い、昏睡状態から回復した患者が婚約者を監禁、惨殺した事件の続報です。心神喪失が確定し、刑期が……]
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます