禁書【御使いの青い妖精】  4月23日より。

【御使いの青い妖精】


 昔々、青く輝く羽根を持つ妖精が居りました。

 その隣には、黒い髪に青い瞳の女性が居りました。


 2人は共に家へ帰る方法を探していました。

 妖精は妖精の国アヴァロンを、女性は寒い場所にある自分の国を。


 最初に2人が出会ったのは、深い深い穴の奥底でした。


 死者の国の様に明かりは無く、ゴツゴツと湿った岩のある場所。

 妖精が明かりを灯しフラフラと彷徨っていると、その光りにつられて女性がやって来ました。


《離してよ、苦しい》

「ごめんなさい、てっきり蛍だとばかり」


 そうして出会った2人は、色々と話しながら水場を探して彷徨い歩きます。


 水の音に耳を澄ませ、水の匂いを探ります。


 そうして何とか水場を見付けると、そこは緑色に光り輝く苔に守られた湧き水でした。

 その怪しい苔を触ると、皮膚はピリピリし、触られた苔も溶けてしまいます。


 妖精は飛んでいるので水を飲めますが、女性は水が飲めません。

 そこで女性は自分の髪の毛と交換に水を飲ませてくれないかと、妖精に尋ねます。


 快く引き受けてくれた妖精は小さな掌に水を掬い、彼女の唇へと落としてあげました。

 それからやっと妖精も飲みます、そうして交互に水を飲んでいると、1匹の鳥がやって来ました。


 光る苔を食べる鳥は、鳩とカラスを混ぜた様な姿で光る苔をついばんでいます。


 そうして頬袋を緑色に光らせると、何処かへと飛んで行こうとします。

 妖精が慌てて追い駆け、女性もその後を追い駆けて行きます。


 ですが妖精は追い付けても、女性は直ぐに置いてけぼりになってしまいました。


 そうして女性がトボトボと下を見ながら歩いていると、鳥が落とした光るフンを発見します。


 そのまま出来るだけ真っ直ぐに走って行くと、またしてもフンを見付けます。

 そうやって真っ直ぐに走っていると、妖精の光りが見えました。


 妖精は出口を見付けたからと、細い糸を持ちながら引き返して来てくれたのです。


 そうして銀色にキラキラ光る糸を2人で手繰り寄せながら歩き、ようやく出口を出ることが出来ました。


 久し振りに眩しい太陽を浴びながら、目を閉じ周りの音を聞きます。


 そこには葉が擦り合う音、風が吹き抜ける音、鳥達の声が聞こえて来ます。


 ゆっくり目を開けると、見た事も無い植物やキノコ、色とりどりの花が咲いています。


 そうして周りに見とれていると、銀色の糸芯を持った妖精が鳥に咥えられてしまいました。

 光るモノが大好きな鳥が妖精を咥え、またしても遠くへと飛び去ってしまいました。


 ですが女性の手にはしっかりと銀の糸が握り締められています、今度は自分が妖精を助ける番だと思い、糸を手繰りながら妖精を探しに行きました。


 朝も昼も夜も、森のベリーや木の実を食べながら糸を手繰り、歩きます。

 時には川の水を飲み、茸を食べながら、何日も何日も歩きました。


 そうして辿り着いたのは、古くて今にも壊れそうな家。

 そのボロボロになった家の煙突からは紫色の煙が立ち上り、糸は窓へと繋がっていました。


 怖くなった女性は少しの間、家を観察する事にしました。


 その怪しい家の煙突からは、黄色い煙が出たかと思うと、緑色や赤い色の煙が出てきます。


 洞窟の中で妖精に聞いた話しの悪い魔女が、ココに住んでいるのかも知れない。

 そう思った女性は持っていた小さなナイフを隠し持ち、家を訪ねる事にしました。


「すみません、誰か居ませんか?」


『一体、何だい、誰なんだい』


 杖を持った1人の老女が出て来ました。

 その部屋の奥には、銀色の糸芯を抱えた妖精が檻に閉じ込められて居ました。


「妖精を出してあげて」

『ダメだ、コイツは悪い妖精なんだ』


 そう言って魔女が扉を閉めようとしたので、魔女へと切りかかると。

 よろけた魔女は転げて、鍋の中へと溶けてしまいました。


《ありがとう、悪い魔女から助けてくれて》


 そうして自由になった妖精と、魔女の家のお風呂に入り、体を綺麗にしてからご飯を食べて、何日も眠りました。


 そうして朝になり、この銀色の糸芯を持ち主に返す為に家を出ました。

 先ずは近くの村へと向かい、古道具屋へと入りました。


「この糸芯の持ち主を知りませんか?」


『コレはワシのだ!盗まれたんだ!』

《嘘だ!悪い奴だよ!やっつけて!》


 そうして彼女は、ナイフで古道具屋の主人をやっつけました。


 お店の物は全て詐欺や窃盗で手に入れた物、だから持ち主に返しに行こう。

 妖精の言葉に頷くと、服を着替え装備を整え、彼女は村を出ました。


 そうして次の村に着くと、子供が兵士に襲われていました。


 《悪い奴らだ、一緒に倒そう》


 今度は妖精と共に兵士と戦います。


 妖精が目くらましの粉を撒き、その隙に古道具屋で手に入れた剣で兵士を一突き。

 哀れ兵士は命を落としてしまいます。


『ありがとう、お姉さん』


 そうして村から村へ悪者退治をしながら、妖精が教えてくれる元の持ち主へと品々を渡し、自分や妖精の国を訪ねて周りました。


 そして最後、この剣の持ち主だと言われる城の王様へと会う事が出来ました。

 ですが彼女はどこかで病気に掛かってしまったのか、お腹は丸く、すっかりやせ細っています。


「王様、剣を返しに参りました」

『あぁ、ご苦労』


 そうして華やかな晩餐会が開かれ、美味しい物を沢山食べた彼女は眠くなってしまったので、王様が用意してくれたベッドで眠りました。


 次に目を覚ました時には、眠った場所とは違う部屋で目覚めました。

 そして何だかお腹も痛みます。

 シクシクとジンジンと、お腹を抱え唸りながら、気を失ってしまいました。


 また次に目覚めた時には、すっかりお腹は凹み、目の前には妖精に良く似た男性が王冠を付けて立って居ました。

 その腕には妖精に似た金色の髪に、彼女にそっくりな青い目の色をした赤子を抱え、にっこりと微笑みます。


《ありがとう、また来るよ》


 そう言って彼は部屋を後にしました。


 その言葉を信じて、彼女は部屋でずっと待ちました。

 召使に言われた通りに髪や体の手入れをし、素敵な王様が来るのをいつも楽しみにしていました。


 そうして何度か病気になり、お腹が大きくなっては凹んで、凹んでは大きくなって。


 そして何回目かの冬、部屋のある塔から大勢の客が来るのが見えました。

 急いで身支度をし、お化粧をして出迎えます。


『盗賊め!』

《魔女め!》


 そうして彼女は火あぶりにされ、王様は幸せに暮らしましたとさ。

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