【オウル村と御使い】 2月16日より。
【オウル村と御使い】
昔々、若い漁師が漁から帰ってくると、海辺に見慣れぬ服を着た黒髪の人が倒れていました。
昔から言い伝えられているアザラシの妖精だと思った若い漁師は、その人間を家に連れて帰ると大切に看病しました。
部屋を良く温め1日中看病していると、その者が目を覚まします。
「ココは何処?貴方は?」
髪が長かったので女性だと思っていましたが、どうやら男の人だったのです。
「ココはフィンランドのオウル村、私は漁師をしているリキ。海辺で倒れていた貴方を家まで連れて来て、介抱させて貰っています」
慌てた様子で外へ出た彼は、へたり込みます。
「僕が居たのはもっと遠くなんだ、どうしてこんな場所に」
そう言って涙を流す彼を、暖かい部屋へ戻し、食事を与えました。
それから何日経っても口をきいてくれません、ただ彼を置いて漁に出掛けるのも心配なので、少しばかり役割を与えました。
「私は漁に行きますから、火の番と木工を頼みます」
黙って頷く彼を心配しつつも、漁へ出掛けました。
ですが最近は不漁続き、今日の成果も2人で食べるには少ない量でした。
天候も思わしくなく、肩を落として帰りました。
家に帰るも相変わらず黙っている彼でしたが、床には見た事もない程に精巧な木工細工が並んでいました。
「今日はどうせ時化だったろうから作っておいた、コレも、売ってきたら良い」
家にあるだけのお金で食料を買い込み、彼に与えてから木工細工を抱え、街まで走りました。
中央広場で行商を始めると、瞬く間に売れ、2日で帰る事が出来ました。
彼に御馳走を買い、村に戻ると再び沢山の木工細工が出来ていました。
彼の作る木工細工の虜になった漁師は、その青年を鎖で繋ぎ、完全に閉じ込めました。
それからは漁師が行商の帰りに食糧を買い与え、木工を手にとんぼ返り。
黒髪の青年は何も言わず、ひたすら木工を作る生活。
それが数ヶ月続き、オウル村までもが栄える様になります。
漁師は船で遠くまで商売をしに、時には飲んで遊び、楽しく過ごし。
黒髪の青年は木工を作るだけ。
とうとうその漁師にも嫁が出来ると、商売が益々上手くいきました。
「その職人の方にお会いしたいわ」
青年を自慢したかった彼は、嫁を連れ村の小屋へと案内します。
ですがあまりに粗末な小屋だと思った嫁は、彼の居ぬ間に青年の世話をし始めます。
それからも自分と同等に青年を大事にする嫁に嫉妬した彼は、嫁をも閉じ込めました。
閉じ込められたお嫁さんは、もう笑わなくなり、毎日泣いて暮らしました。
そして嫉妬心に駆られ、青年の首を撥ねようと小屋へ行くと、白い羽が部屋いっぱいに散らばるばかりで誰も居ません。
嫁が逃がしたと思った彼は、嫁を懲らしめようと家に戻ると、産まれたばかりの子供を残し、嫁も消えていました。
テーブルに残ったのは、手紙と髪の束が1つ。
「彼は貴方に拾われた御恩を返す為だけに木工を作っていました、そんな彼を貴方は鎖に繋ぎ、閉じ込めた。そんな狭量の貴方とは一緒に居られません、子供には私の髪だけを残します、さようなら」
嫁の美しい髪を抱え、散々泣きわめいていると、子供が起きてしまいました。
抱き抱え様と子供を良く見ると、髪も瞳の色も漁師にそっくり、浮気などしていなかったのです。
「疑ってしまった、閉じ込めてしまった、そして失ってしまった」
商売は嫁と共に引き上げられ、彼は再び漁師に戻ります。
そうして村人と共に子供を育てつつ、青年の作っていた木工を模倣し、仕事と家庭、村を大切にしていると。
評判を聞いた嫁が戻り、ついにはオウルも大きく栄えました。
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