第24話 毒の水溜まりは危険!

「――」


暗く長い穴。冷たい空気が肌を侵食している。



「――よっと」


地面に軽く降り立った。地上から10mほどの高さだったが、カエデからしたら全然高くないようだ。


洞窟の中には等間隔で松明が置かれており意外と明るい。しかしそれでも不気味な雰囲気は拭えることはなかった。


「余裕そうだな。結構な高さから落ちたはずだが」

「お前が言えることじゃないだろ」


カエデと同じく、ごく普通そうに立っているザッシュが話す。ザッシュもなかなかの強者らしい。


「じゃあ早速行くか」


ザッシュが歩き始める。カエデもザッシュに着いていくように歩き出した。







「……大丈夫かな……」


クエッテが心配そうに穴を覗き込む。


「カエデさんがいるから大丈夫ですよ」

「そうか……な」


それでも心配そうなクエッテ。


「――あのクエッテさん!」

「ん?え?な、なに?」

「2人が戻ってくるまで暇なんで、ちょっとだけ修行の相手をしてくれませんか?」


明るい声でクエッテに話しかけた。心配そうなクエッテをちょっとでも安心させるためだろう。


「……別にいいけど……私はあなたに負けてるのよ?」

「過去の勝敗は関係ないです。それにあれは対面してからの戦いでした。もしカエデさんが居なければ最初の狙撃で殺られてましたよ」

「そうかな……」

「雷属性対策ももっと考えたいし、クエッテさんの技ももっと見てみたいです!」

「そ、そう……//」


恥ずかしそうにクネクネしている。ヘキオンはキラキラした目でクエッテを見ていた。


「じゃあちょっと見てみる?あと何個か技あるんだけど――」

「見たいです見たいです!ここじゃ危ないんでそこの森に――」


2人は2人で仲が良さそうに歩いていた。傍から見たらちょっとした親子のようである。








「ここはダークエルフの処刑の儀式に使われてる洞窟なんだ」


ザッシュが頭に貼った蜘蛛の巣を振り払いながら話す。


「処刑の儀式?」

「村の住民を殺す者、村人の食料を盗む者がここに入れられる。死ぬまでな」

「……でもお前ここ案内できるんだよな?案内役できるくらいなんだし」

「おお、そうだぞ」


ちょっと歩くスピードを遅めるカエデ。明らかに引いている。


「勘違いするなよ。子供の時にたまたま落ちてしまっただけだ」

「ならいいんだけど」


普通のスピードに戻した。


「ここには蛇の姫ヒステリアっていう魔物がいるんだ。ここに落とされたヤツらは全員そいつに殺される」

「……そいつが……この先に?」

「ああ。ちょうどすぐそこだ」


ザッシュが指を指した方向。そこに広い大きな空間があった。現在の通路よりも明るいところだ。


「今は無いが、蛇の姫はフェロモンを出す。ここに落とされたヤツらはフェロモンに誘われてここに来るんだ。だからここに入った時には死体がなかった」





とんでもなく大きい所に出た。奥から見るよりも遥かに大きかった。


なんにもない半径20mくらいのドーム状の場所。上の方に松明がかなりの量が置かれてある。上に向かって声を出すとかなり反響していた。


そして地面。現在地より5mほど下にそのじめんがある。ザッシュの言うこととは違って、何もいない。蛇の姫と呼ばれるような者どころか動物の1つもいない。草木の1本も生えていない。ただの岩と砂の混じった地面があった。


「……それで?蛇の姫ヒステリアはどこだ?」

「あれ?居ないのかな……もしかして誰かが倒したのか?」


キョロキョロと見廻す。しかしそれでも居ないものは居ない。


「……というよりもさ。ここから先が見えないんだが」


先の道がない……ということはここが行き止まりだ。だがさっきも言ったとおりここには何も無い。宝玉もここにはない。


「ど……どうしよう」

「俺は知らんぞ。外に出たらあの長老ぶん殴ってやる」

「ま、まぁまぁ。一旦下に降りてみようぜ」

「……ふん」


渋々カエデは下へと降りた。それに続いてザッシュも降りる。



「――っと」


地面へと降り立つ。特に何事も無く普通。違和感もない。ザッシュもそれに疑問を抱いているようだった。


「なんでだ……昔来た時は……」

「昔来た時はって……その時はどうやって抜け出したんだ?」

「ちょっと前に落とされた人に助けられた。その人は死んじゃったけど俺は助かった」

「ふーん」


興味をなさそうに返事をするヘキオン。地面をトントンと脚で叩く。特に何も起こらないが。


「……宝玉もないし、どうするかね」

「――ん?あれなんだ?」


ザッシュが指を指した。その方向にはとても小さい水溜まりのようなものがある。ちょっと遠くから見たらまったく見えないであろうほどの小ささだ。



水溜まりに近づくカエデとザッシュ。ビー玉ぐらいの大きさの穴に水が溜まっている。


「なんだこれ。なんでこんなところに水溜まりが?」

「地下水……ってわけではないよな?」


そもそも水にしては粘度がある。見るだけでトロみがかっているのも分かる。それに濁ってもいる。カエデもそれに気がついたようだ。


「……これは……この液体は……!」





――ボコッ


カエデがなにかに気がついた瞬間。水溜まりに泡が浮き出てきた。光のように速く膨らみ、破裂する。


泡。泡が出てくる。ならば下に何かはある。ほかの洞窟。ほかの穴。もしくはか。


「な、なんだ?」


ボコボコと泡が増えてゆく。まるで沸騰したお湯のように泡が止めどなく溢れてきた。


泡の破裂によう衝撃で液体が弾け飛ぶ。破裂は段々と大きくなっていき、それに比例して水滴の弾け飛び方も大きくなっていった。



地面が音を出し始める。地面が揺れ始める。まるで地震のように揺れ動く。


「うおぁ!?」


ザッシュが立てないほどの揺れが起きた。カエデは何も無いかのように立っている。


しかしこの状況は異常だというのもカエデは理解している。だがなぜ起こっているのかが分かっていない。



水溜まりの水量が爆発的に増えた。



まるで噴火した火山のように液体を吹き出す。その高さは低く見積っても10m。とろみがついてるので色が違えばマグマのようにも見える。


「なっ――」


声を出すのも遅れるほど唐突な出来事。ザッシュは反射ですら動くことはできなかった。



そんなザッシュの首根っこを掴み、先程まで歩いていた通路に投げ飛ばす。


「――え?」


反応より前にザッシュの体は地面に堕ちていた。展開が速すぎて脳みそが廻っていない様子。



上に飛ばされた液体が雨のように降ってくる。よく見ると紫色に近い色をしていた。


とろみのついた液体がカエデに降り注ぐ。特に反応はしていないが、地面に重い音を鳴らしているのを見るに相当の重さと分かる。


降ってきた液体はボコボコの地面に大きな細かい水溜まりを増やしていった。カエデの足もだんだんと水溜まりに浸かっていく。


「――大丈夫か……っっ!?」


ザッシュが声をかけようと身を乗り出そうとしたが何故か突如止まった。自分の左手を驚いた目でじっと見ている。



ザッシュの手には黒い斑点のようなものが浮き出ていた。明らかに異常。原因は明らかに降り注いでいた液体だ。


「気おつけろ!この液体に触れたら痛いぞ!」


当たり前のようなことを大声で叫ぶカエデ。ザッシュはカエデの言うことを聞いたようで、奥の方へとズリ下がった。





さっきまでは小さかった穴が大きくなっている。水が噴出した影響か、誰かが無理矢理広げたのか。



――ギャハハハハハハハハハハハハハ!!!!



甲高い笑い声。聞くだけで耳鳴りがなるほどの高さ。大きさ。その声に思わずザッシュは耳を塞いでいた。



さっきの穴から大きな白い手が飛び出てくる。1本。2本。地面にヒビを入れて穴から出てくる者がいた。



真っ白な人肌。腰まである長い黒髪。上半身は裸。顔は美女と言えるだろう。体は上半身だけで2mはある。


大きさを除けばここだけ見れば普通だ。。正確には上半身だけ見れば。


下半身はまさに蛇。真っ白な鱗をもつ蛇だ。上半身に対して下半身は長い。少なくとも10mはあるだろう。まるで太いアナコンダだ。




――キャハ♪




その女のような蛇がカエデを中心にぐるりと回る。その深淵のように黒い目でカエデを見続けていた。


「――ここに人が来るのは久しぶりだな」


女の蛇が喋りだした。甲高い声は変わらないが、大きい声じゃないだけマシなようだ。


「お前が蛇の姫ヒステリアか」

「いかにも。私こそが蛇の中の蛇!姫の中の姫!」

「はは。えらく見た目通りの名前をつけられたな」


首をコキコキと鳴らすカエデ。既に右手には木の棒が握られていた。


「ヒヒヒ。最近はエルフが全然出てこなかったからなぁ。腹が随分と減ってるんだよ」

「そうか、それは残念だな。関係ないけど白銀の宝玉ってどこにある?」

「ふん!白銀の宝玉目当てか。宝玉は私を殺せば出てくるぞ!!」


まさに蛇のように舌をチロチロと出す蛇の姫。目は相手を嘲笑うかのように細くバカにしているような目付きをしている。


「なんだよ。無駄な殺生はしたくなかったんだが……まぁヘキオンは目の前には居ないしな」


木の棒を指だけでクルクルと回す。


「来いよ。冬眠させてやる。それとも永眠が好みか?」

「……ふはは……いいイキがり方だ人間!!」


蛇の姫がカエデに突進してきた。












続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る