第21話 ダークエルフとの確執!

「近くに古き者の柱と呼ばれるものがある。そこにある白銀の宝玉を取ってきてほしい」

「白銀の……宝玉?」


ヘキオンが頭を傾げる。


「なんでそんなものを?」

「それはこのエルフの村に代々受け継がれてきた御守りなのだ。その宝玉のおかげでこの村は生き残ってきた」

「そんなご大層なものがなんでその……古き者の柱?ってところにあるんだ?」

「……ダークエルフのせいだ」


クエッテがそっぽを向いた。村長は下を向き、涙を抑えながら話し始める。


「ついこの前のことだ。私たちは普通に暮らしていた。だが突然、ダークエルフどもがこの村を襲ってきたのだ。……何人か村人は死に、その宝玉も盗られてしまった」

「ふーん。ついこの前……ね」


軽く嘲笑うかのように喋るカエデ。


「柱には醜いダークエルフも定住している。ついでと言ってはなんだが、そいつらを……皆殺しにしてきてくれ」

「願いは1つだけだろ?」

「お前なら楽勝だろう。……頼む」

「カエデさん……」


不安そうにカエデを見つめるヘキオン。そんなヘキオンにカエデはニコッと微笑んだ。


「……まぁ居たら殺ってやるよ。そうしたらお宝を寄越せよ」

「嘘はつかん。……態度はでかいが、感謝する」


感謝を一切感じさせないような表情でカエデに頭を下げた。











「――ど、どういうつもりなんですか!?」


ヘキオンの声が静かな山道に響いた。


「あんなに挑発して脅して……そんなにする必要あったんですか!?」

「あんなんに下手に出てたらいつまでたっても教えてくれないだろ。脅すほうが早い」



村のはずれ。ヘキオンがカエデに詰め寄っていた。その様子を横でクエッテが見ている。


「……村長があれだけ怒ってるのを見るの初めて」

「そうか?意外とカルシウムは取っていたんだな」


挑発するような口調だ。クエッテを煽っているのだろうか。


「そもそもヤツらは俺らを殺そうとしてたんだ。俺だけなら全然いいが、ヘキオンは襲われたら死ぬだろ。だから脅しておいたんだ」

「そ、それは……そう……そうですけど……」


ヘキオンがモゴモゴと口を動かす。


「とにかくさっさと目的のものを取ってこようか」

「……あの……やっぱりダークエルフを……殺すんですか?」

「言っただろ。君の前で無意味に乱暴なことはしないって。適当にやったって嘘ついてもバレないさ」

「……それなら良かったです……」



「怒らないんだな」

「……」


クエッテに問いかける。


「目の前で約束を破るって言ってるのに、抗議のひとつもしてこない」

「……」

「宝玉の件。嘘なんだろ」



「へ?」


ヘキオンが目を丸くする。クエッテは俯いたままだ。


「う、嘘って……」

「考えてもみろ。襲撃が起きたってのに、村は綺麗そのものだったじゃん。村人も普通に多いし」

「……」

「まぁさしずめ……『ちょうど強いヤツが来たからめんどくさいダークエルフを殺させてやろう』って魂胆だろ」


かなりふざけた演技をしながら話すカエデ。しかし図星のようでクエッテは声どもっていた。


「お前の反応を見るにだ。……お前だってあの村長に全肯定ってわけじゃないだろ。外のエルフ達馬鹿どもとは違ってな」

「……」

「まぁ約束は約束だ。宝玉は取ってきてやる。でも俺はダークエルフを見たことないからなぁ。もしかしたら居たとしても、って思ってしまうかもなぁ。……それで問題は無い……よな?」


じっとクエッテを見つめる。



「……ちょっとだけ……違う」

「……言ってみろ」

「ダークエルフに襲撃されたのは本当の話。ただこの前ではなくて数年前の話――」

「簡潔に話せ」

「……その時に村長の娘と妻が殺された。ダークエルフによって。……どちらも惨たらしく殺されて見せしめにされた」

「なるほど。それでダークエルフをね……」


ダークエルフへの復讐。それが村長の目的。そのためにカエデをダークエルフのもとへ行かせたのだ。


「――クエッテさんは恨んでいないんですか?」


ヘキオンがクエッテに問いかける。


「……私も最初は恨んでた。といっても両親からダークエルフのしたことを聞かされてただけどね」

「刷り込みって怖いからな」

「だけどある日……ザッシュと出会ったの」

「ザッシュ?」


頭を傾げる2人。


「私の夫よ。うちの人たちは誰も認めてないけどね」

「そんなんでよく結婚できたな」

「正確には結婚してないよ。私とザッシュだけが結婚してるって言ってるだけ……あんたを殺そうとしたエルフがいるでしょ?」

「おお。あの喧嘩っぱやいやつだよな」

「みんなはアイツと私を結婚させようとしている。あいつは気持ち悪いから嫌い」


「うへぇ」と声が漏れ出る2人。さっきからよくシンクロしてる。



「……私はダークエルフのことをそこまで酷いヤツらには思えない。殺し合いなんてしたくない。できることなら共存して生きていきたい……でも村長に反論なんてしたら『反逆した』って言って処刑される」

「ダークエルフ側は何か言ってるんですか?」

「怖くて聞けてない……ザッシュとの仲が壊れてしまう気がして……」


肩を抑えて震える。その姿は先程までの大人びた様子が隠れ、子供が怖がってるかのような震え方だ。




「……なぁクエッテ。もうひとつ取り引きをしよう」

「……?」


震えながらカエデを見上げる。


「その前に1つ聞くぞ。お前は本当にと思ってるんだな?」


まっすぐクエッテの瞳を見つめている。強く。力強く見つめていた。


「……はい」


その目に負けないくらいに強くカエデを見つめるクエッテ。











カエデはニヤッと笑った。


「いいだろう。お前の望みを叶えてやる。俺がウッドエルフとダークエルフが共存できるような世界にしてやるよ」












続く

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