第13話 ここから始める冒険譚!
「――ん」
ここは街の病院。白いベッドの上でヘキオンの目が覚めた。個室でヘキオンのベッド以外には小さい机と椅子しか見当たらない。
「あ……れ?」
ノソッと起き上がる。下半身はまだ動いていない。
「――おぉ。起きたの」
初老のおばあさんが扉を開けて入ってきた。真っ白のナース服を着ている。
「私はここのナースよ。あなたは2日間眠っていたの」
「え、えっと……」
「――うん。傷は治りかけてるわね。
ナースのおばさんは優しい口調でヘキオン話す。
「あ、あの」
「ん?どうかしたの?」
「私って……どうやってここに……」
おばさんが少しニヤニヤしながら答えた。
「カエデ君よ。あなたを抱えて来た時はびっくりしたわ。――あなた、カエデ君の彼女だったりするの?」
「な!?ななな!?そ、そんなことないですよ!!」
顔を真っ赤にして食い気味に応える。その応え方もおばさんのニヤニヤを強めることになった。
「ふふふ。恥ずかしがらなくてもいいのよ」
「だから違いますってーー!」
――2日後。
「――ヘキオン!!」
退院したヘキオンはギルドに顔を出していた。傷もすっかり治り、前のような元気も戻っている。
ギルドに入った瞬間、お姉さんがヘキオンに飛びついてきた。お姉さんの胸に顔が埋まっている。息はできてるのだろうか。
「ヘキオンじゃねぇか!!」
「元気になったのか!?」
中にいた冒険者たちがヘキオンの方に駆け寄ってくる。
「ごめんなさい!!ごめんなさい!!危険な目に2回も合わせちゃって……ごめんなさい!!」
大粒の涙をポロポロ流しながらひたすら謝り続ける。ヘキオンはやっぱり苦しいのか、手足をジタバタとさせている。
「私は……私は本当にダメ……あなたを危険な目に合わせてばっかり……」
「――ぶはっ」
ようやく息が吸えたようで、過呼吸になりながらも肩を動かしている。
「はぁはぁ……でも……私は生きてるよ。危険な目に2回も合ったのに生きてる。ここにいるよ」
「うう……うぅ……」
「――ただいま」
「――うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
お姉さんの泣き声と冒険者たちの騒ぎ声がギルド内にこだまするのだった。
机に袋が置かれた。ドシャッという金属が擦れあう音がヘキオンの耳に入っていく。
「はい。今回の報酬よ」
「――こ、これって幾らあるんですか?」
「ふふ……聞いて驚かないでね――なんと5万円よ!!」
「――えぇえええ!?!?」
ヘキオンが眼を丸くして驚いた。ウルフィーロードに会った時よりもビクビクと震えている。
「な、なんかの間違いじゃ……」
「極秘でやってくれたし、殺さないでいてくれた。ちゃんと条件通りにしてくれたからこれくらいはあってもおかしくないよ」
ゆっくりとお金の入った袋を持ってみる。なんか麻薬中毒者の腕くらいに震えている。どんだけ信じられないんだろう。
コソッと袋の中を覗く。
「コヒュ」
変な声を出して椅子にふわっと落ちた。携帯のマナーモードみたいに椅子の上で震えている。
「どれだけ驚いてるのよ……」
驚きすぎてお姉さんもさすがに引いていた。
ヘキオンがキョロキョロと周りを見渡している。
「――そういえばカエデさんは?」
「えっ!?あ、あーーー。な、なんか依頼あるってどっか行ってたっけなぁ……」
明らかに怪しい。目線があっちらこっちらに行ってるし、落ち着きがなくなっている。誰が見ても怪しいだろう。
「――えーー。そうなのーー。お礼言いたかったのになぁ……」
ヘキオンは思ったよりも鈍感だった。見たら分かるくらいに怪しいのにスルーした。もはやわざとだろうか。
「とりあえず荷造りしてくる!」
「え?もう出ていくの?」
「だって先延ばししたらここから離れたくなくなりそうだし……」
ちょっと悲しそうな顔をしながらそう話した。
「……出て行く時はここに来てね。みんなで『いってらっしゃい』って言ってあげるから」
「――うん!!」
ヘキオンは慌ただしくギルドから走り去っていった。そんなヘキオンの姿を冒険者たちは少し寂しそうな顔で見ていた。
「――それで?どうするのカエデ」
カウンターの下。ちょうどお客さん側から見えない所。そこからソロッとカエデは出てきた。
「どうするって……」
「ヘキオンちゃん助けたのカエデでしょ?なんで助けたの?」
「そりゃあ心配で着いて行ったらたまたま――」
「本当に?」
カエデがたじろぐ。あんなに強かったカエデが追い詰められている。
「本当に心配だっただけなの?」
「そ、それは……」
「好きなんだよね?」
顔を真っ赤にする。頭から湯気のようなものが放出された。
「そ、それは………………そぅだけどぉ……」
「はっきり言って!」
カウンターをバン!!と叩いた。騒いでいた冒険者たちが一瞬で静かになる。
「――好きだよ!!一目惚れです!!初めて見た時から好きでした!!今回も心配2割、好き8割くらいで追いかけてました!!」
「「「ぉぉおおおお!!!」」」
周りが大きくはやし立てた。カエデは顔を真っ赤にして下を向いている。
「好きなんだよね!?いいの!!ヘキオンちゃん行っちゃうよ!?もしかしたらもう二度と会えないかもしれないんだよ!?それでいいの!?」
「――嫌だ!!」
「ならとっとと支度してきなさい!!」
「は、はい!!」
肩を強く叩いた。その叩く強さはクレインやウルフィーロードに比べれば弱いのだろう。だがカエデにとってはその2匹よりも圧倒的に痛そうだ。
「とりあえず髭を沿って、身だしなみを整えてきなさい!マッハで!」
「え?髭を生やしてる方がかっこいいって――」
「そんなのおじさんだけでしょ!あなた17歳なんだから清潔にしてた方が好かれるわ!!」
「なっっ――お前ら騙したなぁァァ!!」
冒険者たちは腹を抱えて笑っている。顔を真っ赤にしながら冒険者たちを睨むカエデ。それを叩くお姉さん。
「早く整えてきなさい!時間はないんだよ!」
お姉さんには頭が上がらないようで、カエデは冒険者たちを睨みながらギルドを出ていったのだった。
「――今までありがとうございました」
ヘキオンが深々と頭を下げる。冒険者たちとお姉さんは恥ずかしそうにしていた。
「よ、よせやい。恥ずかしいだろ」
「そうだよ。仲間なら当然だぜ」
「また来たら出迎えてやるよ!」
その励ましにヘキオンは泣きそうな顔になっていた。
お姉さんがヘキオンの頭をサラッと撫でた。顔をほのかに紅くする。
「――また戻ってきてね。その時は一緒に甘いものでも食べに行こ」
「……うん……うん……」
耐えられなくなり、目に溜まっていた涙がポロポロと頬を伝っていった。まるでダムが決壊したかのように。まるで雪崩が起きたかのように。
声を上げて泣いた。冒険者たちの中にも涙ぐんでいる人もいる。お姉さんも涙をポロッと流していた。
「――最後に……カエデさんに……会いたかったな」
ヘキオンがポロッと言葉を出した。冒険者たちは悲しみムードが消え、焦りのムードが漂い始めた。
カエデが来ている様子はない。お姉さんも涙よりも冷や汗が出てきていた。
「――じゃあ。もう行きます」
「え!?あ、う、うん。げ、元気でね」
焦りが全面的に出てきてしまっている。ヘキオンは鈍感なので気がついていないが、冒険者たちも「まずいぞ、まずいぞ」と口に出していた。
「――みんな、ありがとう」
ヘキオンがギルドの扉に手をかけた。
「――――」
そこには汗だくで息を大きく切らしているカエデが立っていた。立っているというよりかはダウンしているのだが。
ヘキオンはそんなカエデを不思議そうに見ていた。驚きの表情も混ざっている。
「え?え?か、カエデさん?な、なんでいるんですか?」
カエデの髭は完全になくなり、髪もちょっと整えてある。服も綺麗で肌もなんか綺麗に見える。
ヘキオンは特にそこには触れてなかった。
「――い、いやぁぁぁね。ぼ、僕も今日旅立とうっかなぁぁぁっっってね?」
ヘキオンの後ろで全員が頭を抱えていた。恐らくヘキオンがいなかったら全員に言葉でボコボコにされていただろう。
「そうなんですか?奇遇ですね。私もです!」
「……え、えーーっと……」
下を向きながらチラチラとヘキオンを見る。
後ろでは「いけ!!」って言ってるかのようなジェスチャーを全員が同時にしている。一体感がすごい。
「あ、あの!俺と……一緒に旅をしてくれませんか!!」
言った。言えた。さっきまで躊躇っていた男がちゃんと好きな人を目の前にして言った。
後ろでは「好きっていえよぉ!」と言っているジェスチャーをしていた。
「――え?いいですよ。むしろ頼もしいです!」
「――あ、え、た、な、た、ま、さ、か、ま、や、わ、な?」
声が出てない。それになんか震えてる。声が繋がってもない。
「?どうしたんですか?」
ポケーっとしているカエデに頭を傾げていた。
後ろでは宝くじが当たったかと思われるくらいに喜んでいた。フィーバーしている。なんだかんだ言ってやはりカエデとヘキオンのことを大事に思っていたようだ。
「――えっと、えっと、こ、これからもよろしくお願いします……」
「よろしくお願いします!」
真っ赤な顔のカエデと、紅い顔のヘキオン。なんかたどたどしいカエデ。特に何も知らないヘキオン。最強の無職と魔法使い。この2人が出会ったのは
この2人が後に伝説となることを、この時はまだ誰も知らない。
続く
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