第17話 魔女のグリンダと猫の目
僕らは拘束したディランを連れて城へ戻った。
「そうか……ディランが……」
国王は自分の側近がデーモンの手先、それもカノン様を監視するために入り込んだと知ってひどく落ち込んだ。
「情けないよ。国を守るための国王がデーモンの仲間を……」
「国王! それはカノン様の呪いを解くためにと思ってのことです。ご自分を責めないでください! 悪いのはそのディランです」
オリビアさんが叫ぶ。
「……ディラン。お前にはがっかりだ……お前ならカノンの呪いを解いてくれと信じていたのに」
「……」
拘束されたディランは一言も喋らない。
「ディランを地下牢に幽閉しておけ。落ち着いたらデーモンの情報を聞き出せ」
◇
「今回もありがとう。ディランの正体に気づけなければカノンの命が危なかった」
「いえ、オリビアさんの力がなかったら危なかったです」
「……いや、私は力不足だった。情けない……」
オリビアさんも落ち込んでいる。ボスに剣を折られ倒せなかったことを引きずっているようだ。
国王の部屋に誰か慌てて入ってくる。
「国王! ディランがデーモンの仲間だったと聞きました」
「おお、グリンダ。そうだ……私の見る目がなかったようだ」
綺麗な金髪の美人な魔法使いだ。
(グリンダ……? 見たことあるぞ? 思い出した。図書館で1人速読していた魔法使いだ)
「ディランが……! 怪しいと思ったら!」
怒るグリンダさん。同じ王宮の魔法使いとして思うところがあるのだろう。
「オリビア、ありがとう。あなたがディランを倒してくれたのね?」
オリビアさんに駆け寄るグリンダさん。
「……いや、私じゃないよ。そこのペルーサだ」
「ペルーサ……?」
グリンダさんが僕を見る。
「あの子供が? どこかで会ったような……あっ! 図書館で本を読んでいた子だわ」
「あ、そうです……」(そういえば図書館ではナゼか怒られたっけ……)
「ありがとう!」
グリンダさんは僕に抱き着く。
「えっ?」
「カノン様が危ないところだった……ダメね。また私の前でカノン様を危険な目に会わせてしまうところだった」
(また?)
「グリンダ。デーモンの呪いはお前の責任ではない! お前のおかげでカノンは命を救われた。我々は感謝しているよ」
国王が言う。
「いえ、カノン様の護衛なのに呪いをかけられてしまった。私はもう側近の資格はありません……」
そうか。カノン様がデーモンに襲われときの警護の魔法使いがこの人か。責任感の強い人だ。
「それにしてもディランを倒すなんてあなたすごいわね。ディランは相当なレベルよ」
「い、いえ。オリビアさんもいましたから」
「なにいってるの! オリビアなんて全然たいしたことないわよ」
「え?」
「グリンダ!! お前好き勝手言いやがって!」
「あら、いやね。野蛮な娘ですこと!」
「貴様!!」
「きゃあ! 怖いわ! ペルーサ君! 守ってーー!」
「えぇー?」
僕の背中にへばりつくグリンダさん
「どけ! ペルーサ!」
「いやいや、やめましょうよオリビアさん……」
「ペルーサ……お前、私よりグリンダを選ぶのか……?」
なぜか落ち込むオリビアさん。
「いや! そうじゃなくて!」
「ふふ、そりゃあんな野蛮な小娘より私がいいわよ?」
グリンダは背中から僕の首に手を回し抱き着く。
「おいババア! なにをしている!!」
「バ、ババアですって!? 失礼ね! まだ22よ!!」
「……最近おとなしくなって心配していたが。やはりババアは変わらないな!」
「キイィィ!!」
オリビアさんとグリンダさんは喧嘩を始めた。
仲は悪そうだが実はそうでもないかな……?
◇
「そういえば国王。デーモンがカノン様に呪いをかけた理由が分かりました」
「なんだと?」
「デーモンは古代魔法を恐れています。それで古代文字を読めるカノン様を狙ったようです」
「なんと……古代文字……それでカノンが狙われたのか」
「だからディランはデーモンの脅威であるカノン様を監視していたようです」
「そういうことか……なんてことだ。それでカノンに呪いを……」
「あと国王。カノン様の目を治せるかもしれません」
「なに!? カノンの目を!?」
「ほんとですの?」
国王もグリンダさんも驚いている。
「あっ、正確には治せるわけじゃないんですが……」
「どういうことだ?」
◇
僕らはカノン様の部屋へ行く。どこか緊張しているグリンダさん。
白猫のミネットは前と同じように本の上で寝ている。
「お久しぶりです。ペルーサ」
「カノン様、お久しぶりです。お元気そうで」
「父から聞きました。ディランがデーモンの仲間だったと……呪いを一生懸命解いてくれてると思っていたのに……」
「カノン様……」
「でも2人が無事に帰って来てくれてよかったです。やはりはペルーサは強いんですね」
「い、いえ。そんな」
「オリビアもありがとう」
「いえ……私は何も……」
「あれ……部屋に誰かもう1人いますか?……グリンダ?」
「……カノン様、お久しぶりです。グリンダです……」
「グリンダ! 来てくれて嬉しいわ! 助けてくれてありがとう。あなたがいなかったら私はここにはいなかったわ」
「そんな……私はカノン様を守れなかった!」
「グリンダ! もうそんなことを言わないで! あなた以外に私の護衛はいません!」
「カノン様……」
泣き出す2人。自分のせいでカノン様の目が見えなくなってしまったと責任を感じ続けていたグリンダさん。カノン様がその『呪い』を解いたようだ。
◇
「カノン様、もしかしたら目を見えるように出来るかもしれません」
「え? ペルーサが呪いを解いてくださるの!?」
「いえ、呪いは解けないのですが……」
「なるほど! そういうことか!」
何かに気づくオリビアさん。
僕は黒い瞳のダンジョンでの話をした。新しく取得した【視界管理】を利用した【視界共有】の話も。
「なるほど……たしかに上手くいくかもしれないわね。それにしてもあの黒い瞳を倒したの……? 何者なのペルーサ君」
「つまり、誰かの視界をカノンの脳裏に映し出せるという事か?
「そうです、国王」
「すごい。そんなことができるなんて……しかし、誰の視界をカノンに見せるのだ? 私だってずっとカノンに付き添ってはおれんが……」
「はい。それに人の視界だとどうしても見られたくないこともあると思うので」
なぜか胸と下半身を手で隠すオリビアさん……
「それであの子はどうかと思いまして」
僕は白猫のミネットを指さす。
「なるほど……ミネットならずっとカノン様と一緒にいる! でも動物でもその【視界共有】はできるの?ペルーサ君?」
「そうなんですよね……自信はないのですが」
カノン様が僕の手を握る。
「ペルーサ。お願いします。やってみましょう」
「……でも上手くいかなかったらどうなるか」
「大丈夫です! 私はペルーサを信じてますよ」
「カノン様……」
「まあディランも信じていた私の言葉なんてあてになるか分かりませんけどね!」
無邪気に笑うカノン様。
「分かりました。やらせてください。全力を尽くします」
「頼むぞ……ペルーサ。カノンの目を……頼む!」
◇
「じゃあいきますね」
白猫のミネットを抱えるカノン様。
「はい。お願いします。ミネットもよろしくね」
「ニャーーーー」
視界管理――共有――
カノン様とミネットが光に包まれる。
どうだ……?
「あ、あぁ……」
崩れ落ち泣き出すカノン様。
「カノン!! 大丈夫か?」
駆け寄る国王。失敗か……?
「み、見えます」
「え?」
「見えますよ! ペルーサ!」
抱きかかえたミネットの視界をカノン様は見ることができているようだ。
「カノン様……よかった!」
号泣するグリンダさん。
「グリンダ……心配かけました。これからもよろしくお願いしますね」
「……はい! 必ずカノン様は私が守ります」
抱き合う2人、国王も号泣しオリビアさんも涙ぐんでいる。
「よかった」
「ペルーサ、ほんとにありがとう。感謝しきれませんよ」
しっかりと僕の顔を見て微笑むカノン様。
「うまくいってよかったです」
ミネットに向けて話すかカノン様を見て話すか、少し迷って笑顔のカノン様に向け話した。
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