第8話 生徒会とは(哲学)

「ちょっと陽太ー。遅いんだけどー?」

「悪かったな、墾田永年私財法。客を連れてきたんだよ。」


そこには僕の幼馴染の墾田永年私財法が足を組み、ポテチをつまみながら座っていた。

折角顔はいいのにもったいない。


彼女は肩まである金髪をウェーブにしていた。

スカートも下着が見えるのではと心配になるほど短くしており、胸元のボタンも一つ外してある。


折角のネクタイも緩んでおりなんだかギャルっぽい。


「…!?…はじめまして。鈴木桜です…?」

鈴木さんは部室に入るや否や驚きが隠せないまま挨拶をした。


まあ、随分不自然にはなったが。驚くのも無理はないだろう。

生徒会副会長と言ったらもっと真面目そうなのをイメージするしな。


「墾田永年私財法?生徒会室以外で会うのは珍しいね!」

「ひ、日向ひなたさん!ど、ど、どうしてこんなところに!?」


墾田永年私財法が珍しく慌てふためいている。

やっぱりこいつはそういうやつだよな。折角だしからかってやろうか。


「やだなあ、墾田永年私財法。僕のこと『陽太ひなたさん』だなんて。幼馴染なのに。」

「あんたに言ったんじゃないわよ!バカ鈴木!」

「はいっ!?な、なんでしょう…?」


墾田永年私財法が言った『鈴木』にぼーっとしていた鈴木さんが思わず反応してしまったようだ。


その場に二人以上同じ名前の人がいる時は、名前と苗字でかぶらないところで呼び分けるのが無難だろう。


「…あんた、鈴木桜だっけ?あたし、あんたのことは桜って呼ぶわ…。なんかごめん。」

「わ、わかりました!同じ名前だとややこしいですよね!」


鈴木さんはうんうんとそういうと、僕の方に寄ってきた。…寄ってきた?


「鈴木君!同じ名前だとややこしいよね!鈴木さんが鈴木君を鈴木君って呼んでたらややこしいよね!?」


「ごめん鈴木さん。鈴木が渋滞していて何を言っているのかさっぱりわからない。」

自分で言っててあれだけど、鈴木が渋滞ってなんだよ。


「ご、ごめんね鈴木君…。つまり、私が言いたいのは、鈴木君は鈴木さんを名前で呼ぶべきってこと…。」

鈴木さんは俯いて、耳まで赤くなっている。


「私のこと、桜って、名前で!…呼んでほしいなって…思って…。」

「えっ…?」


鈴木さんを名前で呼ぶ…?そもそも僕は女子と関わりのない人生だったんだ。

急にそんなことを言われても困ってしまう。


「ご、ごめん…。嫌だったらいいけど…。」

しゅんと、鈴木さんは項垂れてしまう。

ラブコメ主人公なら此処で名前を呼ぶよな…。


でもそんなこと恥ずかしくて言える訳…。


(言わなかったら許さないからね…?)


なんだろう。

鈴木さんの後ろから小鳥遊がめっちゃこっち見てる。


笑顔なのに後ろに黒いオーラが見えたし、なんか幻聴まで聞こえたんだが。

怖…。


あと墾田永年私財法はにやけるな、気持ち悪い。あーもう!言えばいいんだろ?


「じゃ、じゃあこれからよろしくな。さ、さ、桜さん…。」

「…!!もう、さんはつけなくていいからー!えへへ…。」


さ、桜はそう言うとニコッと僕に笑いかけてきた。かわいい。

苗字が鈴木でよかったな…。


「と、言うことはー?桜は鈴木のことなんて呼ぶのかなあ?」

ニヤニヤとしながら、小鳥遊さんは桜の肩に手を置いた。


「え、えっと…さ、さく…」

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