挑戦状に応えてみますかな。

@rpcrtremote

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エイルの挑戦状10

"冷やしすぎた"ファンヒーター

私、門脇誠之かどわきまさゆきはサラリーマンだ。

とある設備会社に勤め、製品の強度や性能をテストする仕事をしている。

#製品、と言っても発売前の新製品しか受け付けてないが...

ここ最近はもうすぐ冬のシーズンになることもあってか、国内だけでなく外国の企業からも暖房器具性能テストの依頼が多く入っている。

そんな中、一つの製品が目に留まった。

「どんな寒さにも負けないで使える暖かさ」というキャッチコピーの製品だ。

この製品は他の耐久テスト、性能テストとは違い『どんなに寒くても、製品が作動して使えることを証明してほしい』という依頼だ。

将来は海外進出も考えているということを開発者直々に語っていたので、他国でも使えるかの検証らしい。

そして試験の日、郵送でその品物は届いた。

真っ白なプラスチックを多用しているその製品は見るからに貧弱そうだ。

灯油の漏れを防ぐ溝が彫られた底面のパネルや吹き出し口さえもプラスチックでできている。

操作パネルには透明の保護シートが申し訳程度に貼られていた。

「こんなもの、すぐくたばるだろ。そんな低い温度で使って大丈夫か?」

私の同僚はそういった。

ならばと、さっそく試験に取り掛かる。


15℃、全く問題なし。

10℃、これも問題なし。

0℃、これも問題なし。

-20℃、問題なし。

-30℃、問題なし。

冷凍機の限界の-55℃、問題なし。


私たちは目を疑った。

想定される最強寒波くらいならファンヒーターは余裕で耐えて作動することが分かったからだ。

今まで試験してきた中で、灯油が凍り始める-20℃からの点火で成功した例は一度もない。

悔しい、なぜだ。

「うちの冷凍機は漁業関連の設備から転用した、トップクラスの機器なのになぁ...」

誰かがそう呟いた。

その時、私は閃いた。

「うちの冷凍機じゃなければいいんだ。他国にもっていって試験すれば...どうだ!」


メーカーも賛成の下、私たちは南極へ向かった。

-80℃の寒風の中、静かに電源を入れる。

...。





......。





いくら待っても「ジー」という音さえしない。

確認のために一度クルーズ船内に戻り、温かい中で電源を入れる。

それでも火はつかない。


完全にのだ。


メーカーには壊れたことを報告し、南極から日本に帰り着いた。

これで一件落着だ。
























が、帰宅した次の日に上司から電話がかかってきた。

「今すぐ職場に来い」、その一言だった。




「さっきメーカーさんの開発者の方から電話があって、絶対に壊れないのに何で壊れたのかって。さすがに南極で使う人はいないだろって。あんた、ばかなの?ねぇ、ばかなの?ばかだったな。約一か月戻って来ずに、おまけにものすごいお金を使って、結果が『南極で壊れました』かよ。お前のような奴は全員クビだクビ。」


矢継ぎ早に言われたその言葉は、明日から私たちのチームを解散させ、全員が職を失うという結末を物語っていた。

私はすぐに答えた。


「では本当に南極で使う人がいないという確信はあるのでしょうか?」

とっさに上司は答える。

『そ、そりゃ、そうだろ。論理的、社会的にみて南極にもっていく人はいないだろ。』

「わかりました。開発者の方からは"将来、海外進出も考えている"と伺ったのですが、南極に一番近い国、アルゼンチンなどで使用された際にはどうしますか?」

『それは屋内においておけばいいだけの話。無駄な抵抗をせずさっさと荷物まとめたらどうだ?』

「では最後に言わせていただきたいことがあります。」

『なんだ?』

「屋内において使用するという人以外を見捨てるのですか?シベリアの-62℃の環境を考慮しないのですか?」

『うぅ...』

「どうでしょう、一度考えてみてはどうですか?」

『...わかった。俺の負けだ。この件をメーカーに相談してみる。それとお前たちの退職の件だが...クビは取り消し。明日からもこの仕事に励めよ。』



何とか上司を打ち負かし、クビを防ぐことができた。

その帰り道、私は一人電車に揺られながら考えていた。

「本当は南極で試すのではなく、ロシアにもってけば少し楽になったのでは?」

...と。

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