第3話 私の妹は、「諦める」と言う言葉を知らないんです
私には妹がいます。私とはいろんな意味でまったく正反対な妹が……。
長いストレートな銀髪に氷のようなアイスブルーの瞳をした「氷の伯爵令嬢」と呼ばれる私とは違い、柔らかいストロベリーブロンドの髪をふわりと靡かせ朝焼けのように輝くオレンジ色の瞳をした妹は「純真無垢な天使」と呼ばれ、幼少の頃からそれはそれは周りの人間に大切に甘やかされて育てられました。
長子である私は将来伯爵家を支える為に婿養子を迎えなければならなかったしもちろん厳しい教育を受けてきましたが、妹は全てが自由だったのです。
いくら見た目が可愛いからって勉強も淑女教育も碌にせずに「だって可愛いから」だけで済ますなんてどうかしていると思うのですが。
「まったく、困ったものですわ」
両親は元より、親戚一同も妹を甘やかし放題なんてどうかしていますわ。どうも親戚の一部は妹はものすごく可愛いから上位貴族の妻でも狙えると思っているみたいですけれど……全員とも脳の検査でもした方がよろしいのではないでしょうか?つい1年前にその天使のような妹が起こした“実の姉の婚約者を略奪して婚約破棄させた”という大事件を忘れているようなのですもの。
……それにしても。と、今回の事を思い出すとついため息が出てしまいました。
私の新たな婚約者様へ届いた妹からのあの手紙ですが……。嫌悪感しかありません。ほんの1年前にあんなことをしでかしてもおいて、よくも再びあのような手紙を書けたものですわ。
「……私のことを馬鹿にしすぎですわね」
妹は元より、それを許す両親も妹を溺愛して私を蔑む親戚一同も。まぁ、妹は両親や親戚が許すから調子に乗っているのでしょうけれど。
見た目が可愛いからなんなんでしょう?確かに貴族の娘は見た目も大事でしょうがそれは中身も伴ってこその評価点です。見た目だけでどうにかなるなら苦労なんかしませんわ。そんなの若い時だけの瞬間だけで一定の年齢を重ねれば意味の無いことだと、なぜ誰も気づかないのでしょうか?
でもそれを訴えても「妹が可愛いから嫉妬している醜い姉」と馬鹿にされるだけの人生でした。
確かに私は「可愛い」とは程遠いでしょう。だって、そうゆう教育をされてきたのですもの。
性格も見た目も“純真無垢な天真爛漫”差で、妹と比べられたら太刀打ち出来ません。それは認めますが……それでも妹が正しいとはとてもではないですが思えないのです。
これは私個人の意見ですが……。
婚約者がいるとわかっている男性(しかも実の姉の婚約者)にちょっかいをかけるとか、頭がヤバいのでは?と、思うのです。これは、貴族だろうが平民だろうが関係ありませんよね。
“真実の愛”だから許されるとか“禁断の愛”は燃え上がるとか……そんなものは物語の世界だからこそ許されるのであって、現実の世界でまかり通るわけがないではないですか。そうでなければ幼い頃からの政略結婚などなんの意味もありません。成長につれ“真実の愛”を見つけられ婚約破棄されて無駄に傷がつくだけですもの。
実際、あれだけ燃え上がった“真実の愛”の元婚約者と妹の“愛”はあっさりと終わりを告げました。元婚約者が下の爵位だったから妹はそれほどお咎めを受けずに済んでいますが(あの男が婚約者の妹に手を出したという事実もあり)大事になっていた可能性もあるというのに、妹はそんなこともすでに忘れているようなのですわ。
再び大きなため息が口から漏れました。
“妹が私の新しい婚約者様を狙っている”
その事実を両親に訴えても、きっとはぐらかされるか「あの子は純粋だから」と言われ「姉なのだから、妹の気持ちを大切にしてあげなさい」と説得されるに決まっています。もしもまた今回も妹に略奪され私が婚約破棄などされたら相手が相手なだけに、それでなくても下降している伯爵家の名誉は終わりですのに。あぁ……そうですね。もしそうなれば全ては私のせいだとみんなで私を攻めて今度は勘当でもされることでしょう。
それくらい、私は一族から蔑ろにされているのですわ。それならば最初から妹に跡を継がせればいいのに、妹に厳しい教育をするのは可哀想だとか私が先に産まれたせいだとか……。
あの婚約破棄事件で私がどれだけ傷つき中傷されたか知っているくせに、親戚の大人も一緒になって「妹を哀しませるな」と私に訴えるのですから。そして妹も周りの大人の反応をわかっているから決して自分の意見を曲げないのです。だって、自分のワガママが必ず叶えられるって知っているのですから諦める道理があるはずありませんもの。あの子は1度欲した物は必ず手に入れていましたから。
でも。と、私は目を細めます。
私にだって譲れないことがあります。それは伯爵家の名誉でも、跡取り教育の恨みでもありません。あの妹が私の婚約者様を「真実の愛の相手」だとのたまうなら、私だって……。
「いくら可愛い妹だって、あまりにワガママが過ぎるならお仕置きしなくてはいけませんわ」
私がどんなに聞き分けがよくても、さすがに2度も同じ事をされたら我慢だって限界なのだと教えてあげなくてはね?
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