⑳ 昔の男と呼ばないでくれ

(1)

気安く肩においた手を

冷たくはらって すまし顔

「いい男ならごまんといるわ」

真っ赤なルージュがささやいた


白い素肌によく似合う

妖しく光るキャッツアイ

クルクル変る蒼いシルエット

まるでおまえの心のようさ


昔の男と呼ばないでくれ

今でもおまえを愛してる

洒落にならないこんな夜

本音を言うのも 悪くない


こんな小さな スナックで

まさかおまえに逢うなんて

「あなたは少しも変らないのね」

なじったような薄い声


「危なげな恋が好きなの」と

うわ言みたいに言っていた

曖昧すぎる 左手の先

気まぐれなまま堕ちてゆくだけ


昔の男と呼ばないでくれ

今でもおまえを愛してる

じれったいよなこんな夜

雨の音さえ 悪くない


洒落にならないこんな夜

おまえの涙も悪くない

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