第430話 面の皮が凄まじく厚いわ、アンタ

「それじゃチケットを欲しいヤツいるかー?」


 箕輪先生の言葉にクラスは誰も手を上げない。

 身内を呼んでもなぁ。

 コスプレ見られるの恥ずかしいし……。

 なんて声が聞こえてくる。あたしは、ここしか主張する機会は無いと思い手を上げ――


「はーい! 私居まーす!」

「うっ……」


 ようとしたら前の席のヒカリが手を上げた。


「お、谷高か。じゃあ、第一候補に誰を呼ぶ?」

「母を呼んでもいいですかー?」


 その言葉にピリッとクラスに衝撃が走る。

 ヒカリのお母さん――エイさんは『谷高スタジオ』の社長。加えて警察官でもある哲章さんの妻と言う事もあり、安全性は保証されているだろう。

 エイさんの事を何も知らなければ……だが。


「谷高のご両親は――」

「父は警察官です。母は会社を経営してますけど、いつもインスピレーションを探しているんです。他に身内を呼びたい人が居ないなら呼んであげたいと思いまして」


 あの有名な『谷高スタジオ』の社長が来る。その情報だけで女子の雰囲気がピリッついた。目に止めれば、私もスカウトされるかも、と言う野心が感じられる。ちょっとコワイ。


「それならいいぞ。ただし、身内の方にはしっかりと説明しておくように」

「わかりましたー」

「じゃあ、他二枚は――」


 ここだ! ここで行く――


「はーい! 先生! 私に後二枚は預けてくれませんか?」


 手を上げたままヒカリが告げる。少しあたしはコケた。ヒカリには呼びたい人がそれなりに居るらしい。


「それは構わないが……他の人は誰も居ないのか?」


 場は沈黙。あたしも、後でヒカリを説得すれば良いか、と少し目立つのを嫌って皆と沈黙する。


「じゃあ残りは谷高に預ける。谷高、お前は一人確約してるから、他に欲しい人が居たら譲ってあげなさい」

「はーい」

「それじゃ、各々の文化祭の準備と段取りを始めるように」






「うーむ」


 昼休み。オレはキョロキョロしながら食堂の席を探していた。

 相変わらず良い盛況だ。坂東さんの料理が一流ってのもあるが、ここまで人気なのは彼のレパートリーの広さだろう。


 食券の販売を見る限り、定食から麺類、丼物は確実に作れる。クリスマスには三日間限定でケーキなんかも出るほど(独身貴族ケーキとも言われている)で、料理人人生を何回か転生しているかの様な多芸ぶりだ。

 しかも、ここに来る前は一流ホテルのオーナーシェフやってたらしい。社長はどうやって引き抜いてきたんだろうか?


「お、良かった。陸君、相席良い?」

「もふ? どうぞ」


 親子丼を丁度口に運んだ陸君は少し変な返事で応える。彼もついさっき四人席に座った様だ。他3席は空いていた。


「いただきます」


 オレは両手を合わせて食事を開始。今日は竜田揚げ定食だ。んっまい。


「鳳さん」

「ん?」

「名倉課長の娘さんの件は少しこじれそうですよ」

「え? ホント?」

「はい。今回の主犯の出頭を黒金陣営に要請したんですが、向こうは中々に首を縦に振らなくて」

「それ、鷹さんとか真鍋課長はなんて?」

「まぁ、ある種の体裁があるから簡単には首を触れないそうです。それは解るんですけど……娘さんも不安だと思いますし、一度その旨を話そうかと」


 不安……じゃないよなぁ間違いなく。

 IQ200越えのリーダーを筆頭に、元レスキューのテツ、Go○gleプログラマーのレツ、ショウコさんLOVEちゅっちゅな岩を蹴り砕くカポエイリスタのビクトリアさん。

 そして、フルアーマーユニコ君3機に、今なら『Mk-VII』も控えてる。

 そんな、007も真っ青な集団に保護されているショウコさんだ。例え、女郎花がもう一度拐いに来ても返り討ちだろう。

 けどそんな事を……事情を知らない陸君に言えるワケもない。


「うん。いいんじゃない?」

「よかった。そこでお願いなんですが。娘さんに連絡を取って待ち合わせの都合をつけてもらえませんか?」

「いいけど、ヨシ君も連絡は取れるよ?」

「ヨシさんは今、国尾さんと姉さんズの交渉に行ってまして。前科はつかない感じ納めてくれるそうです」

「……え? その三人何やらかしたの?」

「あ、これ個人情報なんで、これ以上は……」


 4課でも元からヤベー思考の三人だ。国尾さんに至っては、姉君の方も異次元の思考が脳内に存在してるからなぁ。


「ショウコさんの件はオレが段取りをするよ。明日とかでも良い?」

「はい。こちらの情報は早めに伝えたいので」

「あら、鳳君に陸君」


 すると、鬼灯先輩が讃岐うどんを持って現れた。


「席、ご一緒しても良い?」

「大丈夫です」

「どうぞどうぞ!」


 オレと陸君は快く鬼灯先輩を受け入れた。元より鬼灯先輩との相席を拒否する人類は

居ないだろう。


「良かった。泉さん、こっちの席が空いてるわ」

「あぁ! 詩織先輩っ! 手間を掛けさせてスミマセンっ!」

「ふふ。気にしてないわよ」


 へっ、ちょこちょこした小動物の泉がカツ丼を持って走ってきやがるぜ。

 鬼灯先輩は七海課長が不在の1課で作業しているので、その流れで昼食の約束を取り付けたって所か。


「やっほー陸。隣の席、貰うわね」

「あ、う、うん……」


 ん? 陸君の反応が何かおかしいな。

 ちなみに泉の身長は陸君よりも拳一つ低い。並んで座ると良く解る。


「と、何だ鳳か。あんた、まだ誰にも刺されて無いのね」


 泉は相変わらずの平常運転っと。バシャッと毒をかけて来やがって。


「言ってくれるじゃねぇか。オレが誰に刺されるんだよ」

「リンカさん」

「ンフっ!?」

「後、ダイヤさんに名倉課長の娘さんもあり得るわね。違う女の人と二度も寝泊まりしたのに済ました顔で生活してるなんて、面の皮が凄まじく厚いわ、アンタ」

「あごご……」


 的確にウィークポイントへ言葉を刺して来やがる。コイツの場合、マジでそう思ってるから手に終えない。


「泉さん。食事の相席は楽しくしましょう」

「はーい♡ 詩織先輩♡」


 オレの隣に座る鬼灯先輩には猫なで声。ホント、お前はブレねぇよな。ある意味尊敬するわ。

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