第370話 おやすみなさい
「ダイヤ、今、資料を送ったんだが中身の方を確認してくれないか?」
『イイヨー』
夜の23時。オレは資料を一通り完成させると、誰も居ない3課オフィスの自分の席に座りスカイプで海外支部と連絡を取っていた。
そして、作った資料の細部をダイヤに確認してもらう事にしたのである。
アメリカと日本の時差は約13時間。こちらでは夜の23時でも、あちらは朝の業務開始の時間なので問題なく通話できる。
『ページはそんなに多くナイネ』
「海外支部が一番変化してるからなぁ。細かく作り過ぎても後に変えるのが大変だからさ」
『OKヨ』
「終わったらLIKEに連絡してくれ」
30分くらいで連絡するネー。と言って、ダイヤは通信を切った。
やはり、仕事モードのダイヤは頼りになるな。OFFの時は興味本位であちこち走り回る猫の様に手がつけられないが、仕事のスピードや正確性は鬼灯先輩に劣らない。
海外支部の初期メンバーは社長が自ら選定したと言っていたが、その慧眼には感服する。
「コーヒーでも買ってくるかね」
待っている間も有効に使おう。
自販機を目指して、2課の前を通るが、既に電灯は消えていた。
海外支部の項目を一から作るオレとは違い、姫さん達は既存の資料を最新型に更新するだけである。
無論、簡単にはいかないものの、ある程度の残業で引き上げた効率性は流石だ。
姫さん達はこちらを手伝う旨を言われたが、海外支部の項目でお願い出来る事は無かったので、気持ちだけ受け取って帰ってもらったのである。
「ま、しゃーなしだな。100万円もらったし」
今思い返しても、あの時、1000万って言ったら本当に1000万くれたのたかなぁ。
いや……社長なら、ぽんっ、と口座に振込みそうだ。
明日は今日出来た資料を使ってプレゼンの予行をするので、今日で印刷まで済ませておきたい。
「ん? あれ?」
すると、自販機の前に人影が。あれは――
「おや……? 鳳君かい?」
テンションが4割程の社長が疲れた様子でオレに視線を送る。
オレは社長の姿に立ち止まって一礼。
「お疲れ様です」
「お疲れ様。君も残業かね?」
「はい。会社説明の海外支部の項目を」
「ああ……急に決まった事柄で負担をかけてしまったか。すまないね」
「いえ……いつかはきちんと仕上げないといけなかった事ですから」
気を使ったのでなく、今回の件は前々から思っていた事に手をつける事が出来た良い機会だったと思っている。
「そう言ってもらえると嬉しいよ……」
ガコン。と自販機から落ちる缶コーヒーよりも社長は弱々しい。テンションが低い時って、こんな感じか……
「まだまだ作業が残ってる身だ。失礼するよ」
「はい。お話、ありがとうございました」
オレは社長がエレベーターに乗って消えるまで礼をし続ける。
まぁ、社長の側には残業のプロである轟先輩も居るし、大丈夫だろう。先輩が社長を一人残して帰るとは考えてづらいし。
オレは自販機で社長と同じコーヒーを買うと少し眠気を感じつつも3課のオフィスへ戻る。すると、スマホが鳴った。
相手は……カレンさんである。
『ケンゴ』
「どうも。リンカちゃんはどうです?」
『順調に回復中だよ。セナも帰って来たし、私も帰るとこ』
「良かったです。でもカレンさん。今から帰るって、足はあるんですか?」
カレンさんの住む街はここから三駅ほど下った所にある。歩いて帰れない程ではないが、夜道を女性一人は危険だ。
『まだ、電車あるからね。ギリ1本。乗れなかったらタクシーでも捕まえる』
「ご苦労様です」
『アンタ達の世話に苦労も何もないよ』
そう言うカレンさんの口調はとても嬉しそうだった。まぁ、オレもその中の“子供”枠なのは仕方ないとしよう。
『それとケンゴさ。一つ聞いていい?』
「なんですか?」
『アンタ、超絶美人の許嫁とか居る?』
????? オレは頭の中がクエスチョンマークで埋めつくされる。
「居ませんけど……」
『本当に?』
「想像も出来ないくらいです。だって、今まで関わっててそんな様子がオレにありました?」
『んー、無いな』
バッサリ言われると若干、グサリとくるなぁ……
『いやさ、昼間にアンタを尋ねて来た女の子が居たんだけどね。和服美人の』
「えぇ……」
なんだ? 心当たりは全然ないぞ……
『まさかアンタ、美人局とか手を出した?』
「それは一番無いです……」
『そっか。まぁ、あの娘も嘘をついてる感じも無かったけど……』
一体、カレンさんは何と遭遇したのだろうか。
「ちなみに名前とか聞いてます?」
『まぁね。一応、LIKE交換もしたよ』
カレンさん。結構コミュ力高いんだよなぁ。
『名前は――
その名前にオレの脳裏に映ったのは――
“ケンゴ君。君も譲治さんから『古式』を習うのかい?”
『ケンゴ? 聞いてる?』
「あ、はい。聞いてます」
『やっぱり知り合い?』
「身内の親族かもしれません」
『おやおや。確認を取った方が良いよ。そう言うのって勝手に裏で進んでたりするからさ』
「はい」
『おやすみ』
「おやすみなさい」
オレは通話を切る。
「……女の子が産まれたってのは聞いてたけど」
白鷺は当時『国選処刑人』の後継者としてジジィが多くを伝えた。しかし、圭介おじさんは、ある日突然姿を消し、日本には帰らなかった。
それが戻ったと言うことは――
「ジジィ。『国選処刑人』は引き継がないんじゃなかったのかよ」
色々と情報が交錯してる。とにかく今は席に座ってスカイプを着けて――
『ケンゴ! 返すノ遅イヨー!』
「悪い悪い」
仕事を終わらせないとね。
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