第254話 ラストバスターズ
「よーし、次はウチらッスね! 箕輪さん!」
「待ちに待ったと言った所だね。岩戸さんはこう言うの平気?」
「ワクワクするッス! 箕輪さんは?」
「私は学生時代にカバディやりながら夜間警備のバイトをしててね。何度かヤバイのは見たよ」
「マジッスか!?」
「どっちかと言うと、夫の方がビビリだ。なあ?」
「止めろよ鏡子~」
毎度お馴染み。出発前のブリーフィングで、出撃者の箕輪先生と岩戸さんは他の面子に絡みつつも和気あいあい。体育会系の二人は入念に準備運動を済ませている。
「ふむ……箕輪さんも候補っと」
「社長は何してるんです?」
オレは何かリストの様なモノを作っている社長に問いかける。
「先ほど泉君が回してくれた録画を確認したのだがね! 幽霊は映って居なかったのだよ! 故に皆が終わったらセカンドトライが必要だと思ってね! 共に山へ行く者を見極めているのだ!」
「変に山を刺激するのは止めましょうよ」
山を刺激。と言うパワーワードまでオレの口から飛び出す始末。イケイケ状態の社長を止められるの轟先輩しかいない。
「社長」
轟先輩を呼びに行こうとした時、真鍋課長が声をかけてきた。
「なんだい真鍋。大丈夫だよ。君もメンバー候補に入っている! ローレライと付き合いのある君にはかなり期待してるよ!」
「詩織の件があります。これ以上、この場に留まるのは危険だと思います」
「ほう……」
少し、剣呑な雰囲気が社長と真鍋課長の間に流れる。そして、社長はリストを閉じ、
「わかったよ! そう言うことなら次の組でラストにしよう! 心霊特集への応募も諦めよう! コーヒーセットは……諦めよう!」
「ありがとうございます」
「お礼は必要ないよ! 私もいささか、興奮し過ぎたようだ。君の言葉は良いクールダウンになった」
何か丸く収まったのか? 上位陣の会話は言葉以上に、その中身で深く通じ合う様だ。
「茨木君、ヨシ君。少し提案があるのだが――」
そう言って社長は最終組の二人を呼んだ。
8組目(ラスト)、箕輪鏡子×岩戸初美×茨木和奏×吉澤善明の場合。
「四人スタートでもライトは一つなんスね」
「一つしかない光源は恐怖を演出する小道具ですからなぁ」
「真っ暗だと見える情報が減って、逆に怖くないからね」
「まぁ、何か出てきてもアタシがぶっ飛ばすからさ」
ライトを持つ箕輪を先頭に、ヨシ君、茨木、岩戸は各々続く。
「しかし、雰囲気がありますな。鳳殿の言っていた視線をひしひしと感じますぞ」
「お? なに? ヨシ、怖いの?」
「ほっほ。どちらかと言うと役得の方が多いですぞ。美女三人と夜道とは、中々にない経験ですので」
「上手いこというじゃん」
「ええ? ウチ、美女なんて言われたの初めてッス……がさつで部屋も散らかし放題なのに!」
「岩戸さん、女には誰だって美しくなる素質があるんだ。問題はそれに向かって正しい行動を起こせるか、だね」
「流石は先生。言うことが達観しておられますなぁ」
「吉澤さんは褒め上手だね。夫も見習って欲しい所だ」
「ほっほ。それでは目線をこちらへ」
と、ヨシ君はカメラを構えると三人は目線と簡単なポーズを取ったのでパシャリ。四人をバッチリ納めた。
「おやおや」
「ん?」
「うわ!?」
「近いッス!」
四人目が撮影に紛れ込んだ。髪を長く垂らした女が美女三人に混ざるように、だらん、と立っていた。
咄嗟に距離を取る三人。
「うわ……がっつり見えてるッス」
「ライトの光が貫通している。本物か」
「道を塞がれておりますな」
「やれやれ」
どうしようかと悩む面子の中、茨木は女にトコトコ近づくと、その髪を鷲掴みにする。
「脅かすだけの怪異か。しょーもな」
女はじたばたして、茨木に崩れた顔を見せるが、その顔面に拳を叩き込まれて、キィィィ!! と金切り声を上げて林の奥に逃げて行った。
「茨木さん……殴っても平気なんスか?」
「と言うか触れるんだ、アレ」
「余裕だよ。だってナイフとか銃を持ってるワケないじゃん? だったら別に警戒しても意味なくない?」
握り拳を向けて、キリッと茨木は告げる。
「……でも、明らかに人外の顔だったッスよ?」
「あんなの、道場でボコボコにされた奴らの顔からすれば可愛いモンだって。リアル、ベトベター見たことある?」
今の女怪異は茨木に取ってみれば怖がる要素など欠片もない存在だったらしい。
「しかし、怨まれる事を考えると流石に手は出ませぬな」
「別にいいじゃん。来たら来たで手間が省けるし。またボコれば良いし」
「ははは。実に頼もしいな」
「茨木さん。カッケーっス!」
「これはこれは……最後の最後はえげつない肝試しになりそうですな」
幽霊さん達、逃げて。
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