第144話 オフの国尾
ビュオッ! と屋上に風が吹く。
露骨に通路を塞ぐように立ちはだかる国尾さんは今、愛のゲージが振り切れた状態だ。
この状態の国尾さんに人気のない所で出会ってはならない。
「やべーよ。愛が振り切れてやがる。しかも、今は
「ふむ……本日は課長も鷹殿も留守ですからなぁ」
「狙いは誰だ?」
国尾さんは諭す様に眼を閉じるとゆっくりと語り出す。
「加賀」
その言葉にオレとヨシ君は加賀を見る。
「お前は誰よりも向けられる愛を恐れている。だが、そんなモノは真の愛の前では些細な問題に過ぎないんだ。わかるな?」
「いや、わかんねぇっす」
すると、国尾さんは眼を開けると、わっ! と笑う。
「えー! わかんない?! つまりね! ♀に恐怖があるなら♂だけがお前を癒せるって事なの! 理解したぁ!?」
オレらは眼を点にして、? を頭上に浮かべる。
「安心しろ加賀! 俺がお前を解放してやる! この国尾に任せておけ! 俺がお前の心を更新しにきた!」
あ……やべぞこれ……ガチのヤツだ……
「さぁ……本能をさらけ出せ!」
「鳳ィ!」
「わ!? 馬鹿野郎! こっちに隠れるな!」
ぶわっと抱きついてくる国尾さんから逃げるようにオレの背後に隠れる加賀。
アレはアイアンメイデンだ。捕まると間違いなく死ぬ。(貞操が)
「うっ……おおおお!!」
防衛本能が理性を凌駕し、オレは古式を使ってしまった。沈むように前に出ると彼の腕を取って、自分を小石に見立てて引っ掛ける様に国尾さんをくるっと回す。
「ぬご!?」
あの巨体が宙で一回転し、ビタンッ! と屋上のコンクリートに叩きつけられ、ビシッ! とヒビが入る。少し屋上が揺れた気がする。
「すっげ」
「お見事」
「馬鹿野郎! 使わせんなって言ってるだろ! ジジィに殺されるぞ!」
「今のは仕方ねぇだろ!」
「うるせぇ! 次は見捨てるからな!」
国尾さんは仰向けのまま沈黙。死んだか? と少しだけ気にかける。すると、のそりと動き出した。
「げっ、生きてる」
「国尾殿は、七海課長の蹴りにも普通に耐えるらしいですからな」
七海課長の蹴りは忍者の一件で確認済みだ。トラックがぶつかっても平気そうだな……
「今のうちですぞ」
出口側に移動できたオレらは、さっさと逃げる方へシフト。
「鳳……やるね! どうやら……今回、俺の愛を阻むのはお前と言うわけか……」
国尾さんはオレを見ると、一度舌をぺろっ。
「俺はお前でもいいよ」
「……どうぞ」
「おぁ!? 鳳テメェ!」
オレは加賀(供物)を前に出してヨシ君と屋上から駆け下りた。
「くっ……すまねえ、加賀。友情とケツは天秤にかけられねぇんだ」
助けは呼びに行ってやる。それまでケツは死守しろ。
伝わらない思いを心の中で念じていると、屋上の騒がしい様子を感じたのか、上がってくる轟先輩の姿が。
「あ、そんなに急ぐと危ないよ。二人とも――」
「おお、女神」
「轟先輩! 加賀を……加賀のケツを助けてください!」
「え? な、なに? どういうこと!? お、お尻!?」
慌てるオレらから簡単に事情を聞いた轟先輩は一緒に屋上へ戻ってくれた。
「うぉぉ!」
しかし、扉を開けようとしたら向こうから、バァン! と勢い良く開いた。
きゃっ!? と少し弾かれた轟先輩をオレは支える。
飛び出して来たのは加賀。少し衣服が乱れているが、何とか逃げ出した様だ。
「うぉぉぉぉ――」
と、オレらが眼には入らない勢いで階段をかけ降りて行った。
そんな加賀から屋上に残された国尾さんへ眼を向ける。
何故か上半身の服が弾けとんで半裸状態。怖ぇぇ……。もう欲望に身を任せてやがる。
「……国尾君」
「轟の姉御。加賀のヤツも中々ですよ。益々燃えるねぇ!!」
「え、えぇ……」
ほっほう! と一度声をあげると国尾さんはずんずんと去って行った。もうすぐ昼休みも終わりなのでオンになったのだろう。
相変わらず、背後は向けられねぇヒトだぜぇ……
オレはふとLINEに泉から“国尾さんに”と言うメッセージを確認し、遅せぇよ、と一人でツッコんだ。
テストが終わって午前授業の本日は、部活動が再始動する。
あたしは、帰り支度を整えると、運動部の声が木霊する校庭を抜けて学校を出た。日傘を差すヒカリと一緒に何気ない会話をしつつ、駅につくとおばさんが迎えに来ていた。
「リン、乗ってく?」
「考え事したいから今日はいいや」
親友の申し出を断っていつもの下校路を、母に対するプレゼントへ考えを向ける。鬼灯さんからの助言は、
“何を貰っても嬉しいと思う”
と言う返答だった。そして追記は、
“もし思いつかないなら、いつもと違う事をやってみると別のインスピレーションが湧いたりするわ”
と言うメッセージと、頑張って、と言うスタンプが返ってきていた。
「うーん。やっぱり喜ぶのは……」
いつも美味しそうに飲んでるお酒かなぁ。でも未成年は買えないので無理。
なら、社会人の身の回りの物……母はネクタイはしない。スーツも何着か一式あるし、そもそもそう言うのは喜び度が低い気がする。
「駄目だ。何にも思いつかない……」
ホームで電車を待っていると、背後に下りの電車が停車する。確か前に大宮司先輩と一緒に――
「……違った行動かぁ」
いつもより時間のあるあたしは帰りの電車ではなく、下りの電車に乗り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます