第100話 オレは初代で行く!
「ここ、だ!」
テツが一つの雑居ビルの前で足を止め見上げながら告げた。
夕闇の中に、ドォン、と佇む雑居ビルは鉄筋コンクリートの三階建て。年期が入って外壁はかなり色落ちしているが、まだまだ現役な感じだ。エレベーターはなく、上階へは階段で上がるしかない様子。
「まさか……こんな所に」
近くにはクレープ屋さん。オレはリンカ達を見失った時の状況を思い返す。確かにこの建物に入ったのなら辻褄は合うな。
「会社が入ってるのは三階だけか」
「上かなぁ?」
オレとヒカリちゃんは一階を調べ、各階に入っているテナントのラベルを見る。
「格納庫?」
なんか、一般的な建物には不要な単語があるぞ。やっぱりまともじゃねぇなこの商店街。
「ちょっ、ちょっ、ちょっ! お二方! こっち!」
と、上に行こうとしたオレらはテツに呼ばれた。見ると一階の外に面した扉から、こっちに来い! と全力で手招きしている。
「なんだ? どうした」
「上はダメ、だ!」
テツの必死な様子にオレとヒカリちゃんは誘導のままに一階の『格納庫』に入る。テツはオレらが入るとピシャッ、と扉を閉めた。
「ふーい」
額の汗を拭うテツ。格納庫内は入り口付近だけ電気がつけられ、奥の方は暗闇でよく見えない。
「理由を説明してくれ」
「上は反社会者たちの組織が入ってい、る! 関わるのはNG、だ!」
「あのヒューマンウォールって会社か?」
「うむ。度々墨の入った者たちが出入りしている。明らかにヤーさんだ、ぞ」
「やっぱり……」
オレは飛び出そうとするヒカリちゃんの手を掴む。
「ちょっと待った、ヒカリちゃん。一回落ち着こう」
「やっぱり……大宮司先輩は危ない人だった。ケン兄……リンを助けないと」
「テツ、ここに入ったのは間違い無いんだな?」
「さよう。小生の同志たちが突き止めたの、だ!」
大宮司君の様子からヤクザと仲間のような感じはなかったが……所詮は関わりの薄いオレの分析だ。
「オレが行くからヒカリちゃんはここで待ってて。30分経っても戻らなかったら、哲章さんに連絡して」
「待たれよ」
扉を開けて出て行こうとするオレをテツが呼び止める。
「貴公も社会的な立場があるハズ。ヤーさんに目をつけられるのは危険極まりない」
「悪いなテツ。身内が危険な目に合うと知ったら相手が誰でも関係ない」
その場に居れば……と言う後悔だけは絶対にしたくないのだ。まぁ、イザとなったら4課の人に相談しよう。社会人は予防線も十分なのである!
「なんと……小生は恥ずかしい! 気高き志を持つ
なんかテツが勝手に感激している。
「ならば……小生もその意思に応えようぞ!」
と、テツは部屋の電気を全て着けた。そこには――
「……なんじゃこりゃ」
壁に吊るされているユニコ君たちが光の下に晒された。
それはユニコ君限定の着ぐるみ博物館である。アイア○マンスーツみたいに管理されちゃってらぁ。
「一日署長とかあるし」
「車掌とかもあるな」
様々なバリエーションのユニコ君をオレとヒカリちゃんは見て歩く。50年の歴史は半端じゃないな。それだけ愛されてるってことか。
「フッ、小生はユニコ君の管理を任されている! 好きな機体を選ぶが良い!」
ユニコ君を兵器みたいに言いやがって。しかし……動きづらさを考えると顔を隠す事と釣り合いが取れるかどうか……
「――うお。すっげこれ」
と、オレは一番古いユニコ君に目を止めた。所々に赤い点と刀傷や弾痕? のおかげで他とは一線を格するオーラがある。
最新のゆるキャラに寄せたずんぐりしたデザインよりも、可愛らしさを残しつつ少しだけ動きやすそうな形だ。
「それは初代、だ。ユニコ君の祖。英雄の魂が刻まれてい、る! 修復して保存してるので、現役で使える、ぞ!」
「血痕と弾痕と刀傷も綺麗にしろよ……」
むしろそれがいいのか?
オレはユニコ君ヘッドの中を見ると内側にはいくつのかの名前が残っていた。おそらく、この初代で出撃した
「――は?」
オレは知っている名前に思わずそんな声が出た。
「何ぃ!」
すると、テツが声を上げる。彼は常にイヤホンマイクを耳につけて同志の方々と通信を繋いだままだったらしい。
「お二方、大変だ! 今、この建物に敵の増援が向かっている! 急ぎ、JKを救出し脱出せねば!」
「――ケン兄!」
ロボアニメのヒロインのような眼でオレを見るヒカリちゃん。多分、無意識なんだろうけど。
「テツ、オレは初代で行く! 着るの手伝って」
「お任せあれ」
アイアン○ンのトニーもペッパーを助けに行くときはこんな気持ちだったんだろうなぁ。アークリ○クターはないが、ひと暴れしてやるか。
雑居ビルの屋上ではリンカと大宮司は仮屋と対面していた。
「キスの一つでもしてみてくれや」
仮屋の言葉にリンカは思わず変な声を上げる。
彼女と名乗った手前、やっぱりしなくちゃダメだろうか。いやいや、役を演じてるだけでそこまで行くのは――
責任感と羞恥心で揺れ動くリンカの前に大宮司は出る。
「仮屋さん、勘弁してください。俺たちは付き合って二週間も経ってないんです。手を繋ぐのもまだなんですよ」
大宮司も流石にそこまでは求めていない。リンカの意思を強く尊重していた。
「ほーん。そうかそうか。まぁ、大宮司君にとっては始めての女だろうからな。ソレは大目に見てやるよ」
仮屋は小さな椅子から立ち上がると二人の前に歩いてくる。
「それじゃあよ。お前の彼女、一日貸してくれや」
「!? それは――」
「そしたら、ちっこい方は見逃してやるよ」
即座に否定しようとする大宮司だが、ある事が楔のように行動を押さえつける。
「……」
「商談成立♪ 彼女さん。俺らと来てもらえるかな?」
仮屋はリンカの手を取る。抵抗など無意味と感じる程に暴力を蓄えた力を握られだけで感じ取った。
「先輩……?」
リンカは大宮司を見るが、彼は拳を握り込んだまま振り向こうとはしなかった。
「家族と仲良くなぁ、大宮司君」
その時、大宮司のスマホが鳴る――
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