第21話 神の宣告

「君が疑問に思うのもわかる。実際これは僕の中で予想外ではあったからね。軽く説明するなら、ここまでチュートリアルレベルを脱する人間が遅いとは思ってなかったんだ」

「?」


 チュートリアルレベルを脱する人間が遅い?

 それと俺に対するお詫びがどのように関係するというのだ?


「予想ではもっと早く規定値に到達するだろうと考えていたんだが、あまりにも遅かったせいで移行が遅れたんだ。そのせいで君に迷惑をかけた。それに対してのお詫びだよ」

「??」


 待ってくれ!

 言ってることは理解できる。

 つまりはチュートリアルレベルを超える人間が一定数を越えると何かが変わる。


 ただそれが予想より遅く変わるのが遅れたという事だろう。

 けれどそれが俺に対する詫びとどう関係があるんだ!

 それにもしそれが本当だとしたらまた何かが変わるという事だろう!!


「うん。理解が早い者は好きだ。だから特別に君のその疑問に答えてあげよう。まず第一に規定値に達した事で起こる事、それはダンジョンのレベルアップ」

「は?」

「あぁ、勿論君達に与えたようなレベルアップという意味ではなく、難易度が上がるという意味だよ」

「!!」


 は!

 あれよりも難しくなるってのか!!


「一応言っておくと君が攻略したあのダンジョン。チュートリアル用として準備したダンジョンの中では最上位の難易度の一つだったから」

「! ……つまりは今世界にあるダンジョンはチュートリアル用だと?」

「お! 察しが良くて助かるな! そう、その通りだよ。今君達の世界にあるダンジョンは所謂チュートリアルダンジョンで、難易度自体もそれほど高いわけじゃない。ダンジョンに対しての理解と経験の為に僕が作り出した疑似空間とでも言うべきものだ」


 ……サラッと言っているが言ってることが無茶苦茶だ。

 あのダンジョンが全てこの少年によって作り出された空間だと?

 仮に本当だとしたら、あまりにも常識から逸脱している。


「そんなに褒めても何も出ないよ? ただもうそのダンジョン達はお役御免になった。何せついさっき僕の想定してた規定値に到達したからね。よってこれから君達が攻略するダンジョンは自然発生したモノという事になる! 難易度に関しても僕の統制を離れるから、仮に理不尽な難易度だったとしても文句は受け付けないよ」

「つまりは攻略自体が不可能なものもあると?」

「それは無いと断言できる。ただ今までとは桁違いに強い魔物が出て来る可能性があるって話だよ。その代わり恩恵もある。君がダンジョンを攻略して手に入れた魔法武器があるだろう?」

「[猛火の剣]の事ですか?」

「そう! それ! そんな感じの武器や道具をダンジョン内で発見することが出来るようになるよ。これはソロで動こうとしてる君にとっても朗報なんじゃない?」


 は?

 あれだけ苦労して手に入れたアイテムが、普通にダンジョン内で手に入れられるようになるだって?


 それはそれでおかしいだろう!

 と、言いたくはなるが決して言わない。

 彼が言ったことが事実であるならば、つまりはあのダンジョンで倒したボスみたいなのが普通にダンジョン内を徘徊している可能性があるって事だろう?


 そんなのに遭遇する可能性があるなら、正直それでは物足りないと感じてしまいそうだからな。


「思考が読めるとわかってて態々そんな事を考えるなんて正直者だね。けどだからと言ってダンジョン内で入手できる物を更に良くなるようにしたりは決してしないよ?」

「……そうですか」

「アハハ! 本当に正直者だ! けど君にとってダンジョンが変わるのは良いことでしかないよ? 何せ経験値の取得制限が解除されるからね」

「はい!?」


 経験値の取得制限ってなんだよ!!

 そんなのがあったのか!?

 仮にそうだとしたら俺のレベルが中々上がらなかったのにも説明はつく。


「当たり前だよ。君達がダンジョンに慣れるために態々作ったんだよ? そこで制限なくレベルアップ出来るわけないじゃないか。それは余りにも欲張りすぎだ。そしてそれこそが君に特別な報酬を上げる理由でもある」

「つまりは経験値の取得制限に引っかかっていた人間に対しての報酬という事ですね?」

「そういう事。因みに君以外にもこの報酬を受け取る人間は何人か居るよ」


 ……俺以外にも取得制限に引っかかった人間が居ると。

 これはかなり有益な情報だ。

 世界には俺と同じレベルの人間が存在しているという事。

 それは同時に、警戒すべき人間という意味でもある。


「いいね! いいね!! 考えられる、想像できる生き物は僕は大好きだ! ただ残念なことにこの特別な報酬ってのは全員共通の物を渡すことを決めていた。そして既に報酬を決めた人物が現れたから、君の報酬も自然とそれに決まってしまった」


 は!

 ふざけるなよ!

 何勝手に決めてくれてんだ!!


「わかる。自分で決めたかったって気持ちはね。ただ仕方ない。こればっかりは決めてたことだから。あと少し早ければ違ったんだけどね。けど中々に悪くない内容だと思うよ?」

「因みに内容は?」

「アイテムの売買システムの導入とダンジョン攻略を配信する機能の追加」


 ?

 システム自体の追加?

 しかも売買システムと配信機能ってなんだよ?

 一体どんな奴がそんな事システムの追加を願ったんだよ。


「頼んだのはお金に困ってる人間だったね。全世界の人に対して手に入れた物を売れるようにして欲しいってのと、ダンジョン内を外から見れるようにダンジョン内に電波を通るようにしてほしいって事だったから、僕が良いようにアレンジしてあげた」


 おどけるようにそういう少年。

 ……ちょっと待て。

 確かに前者は本人の希望通りの内容と言えるだろう。


 ただ後者、これに関しては明らかに意図的に改変されている。

 希望としてはダンジョン内を外から見れるように電波を通るようにしてほしいとのことだったが、配信という現代的な事でダンジョン内を見れるようにした。


 一応はダンジョン内を外から見れるようになったことから希望は通ったかのように見えるが、実際は違うだろう。

 これを願った人物は恐らくダンジョン内を外から見るという部分ではなく、ダンジョン内に電波が通るようにしてほしいという部分を強く願っていたんじゃないだろうか?


 態々付け加えるかのように限定した電波にこそ真の価値を見出していたのだろう。

 例えばダンジョン内で使えない電子機器の運用……

 けれどこの二つが同じ人物から出た要求だとは到底思えない。


 前者は言った通りの人物だろうが、後者はまるで……


「おっと。少し喋り過ぎたみたいだね。これ以上は流石に君を優遇し過ぎになってしまう。僕はこれでも立場上公平に行動しなければならないからね。最後に追加された機能の使い方を教えておこう。これに関しては全世界の者に通達するつもりだからねまずステータス画面を開いて、取引所と言ってごらん?」


 俺は少年の有無を言わせぬ雰囲気に思考を辞め、言う通りにステータスを開き「取引所」と呟く。

 そうして操作説明を淡々と聞いたのだが、結果としてほとんど直感的に操作すれば何とかなるような内容だった。


「それじゃぁ話は以上だよ。ダンジョン攻略引き続き頑張ってね! 因みに言っとくと君達が入ったダンジョン、手加減してたら簡単に死んじゃうから気をつけてね」

「ちょ!」


 少年は最後にそんな捨て台詞を言いながら、俺の体は何かに引っ張られるかのようにして物凄い勢いで下へと落ちていった。

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