49. ドドンゴと妖精光

 ドドンゴが来た。

 いつも巡回しているので、たまに来るんだけど、今回はちょっと早い。


 ドドンゴをアンダーソンに紹介する。


「こっちがドドンゴ、こっちがアンダーソン騎士で隊長さん」

「お噂はかねがね、アンダーソン・リバリエ騎士だ。ドドンゴさんよろしく」

「行商人のドドンゴです。前来た時にはヘルベルグ騎士でしたな」

「知ってるかもしれませんが、二週間ごとに交代ですね」

「では早く来ていなければ、またヘルベルグ騎士だった可能性も高いですな」

「そうですね」


 村人との木板物語。各種遊び道具のアンダーソンとの取引とかを説明した。


「木板物語は早計だったかもしれませんね。ブランダン様」

「まあ、あのときはそれがベストだと思ったもので」

「時の運みたいなのはあります。しかたがありません」

「そういってもらえると助かるよ」

「その木板物語の件の話は聞いていますから、こちらがお代です」


 そういって、銅貨の詰まった革袋をくれた。


「袋ごともらったので、袋もどうぞ」

「ああ、ありがとう」


 あれから何日経ったかな。もう利益を出してきたらしい。


「木琴とかの利益、一枚ませてもらえるとうれしいですけど、無理でしょうな。まあいいです。裏からサポートはしますので、何かあったら言ってください」


 ドドンゴの助太刀は助かる。

 自分に直接利益がないと知っていても、手は貸してくれるらしい。


「蜂蜜の件もありまして、俺はブランダン様を高く買ってるので、できることはします」


 目先の利益だけでなく、後で利益になりそうなことには口を挟んでおくとお得だと知っているんだ。

 これだからドドンゴは信用できる。


「せっかくなので我が美少女天使合唱団を見ていきますか?」

「なんですかそれ」

「ドロシーたちなんだけど、まあいいから見てよ」

「わかりました」


 こうしてドロシーたちを呼びに行って、みんなで家で歌ってもらった。


「ららららら~♪」


「なんとも、可愛らしいじゃないですか。いいですね。貴族様も気に入ると思いますよ」

「でしょうでしょう。兵士たちにも人気でね。もっと大々的に売り出してもいいくらいですけど、ドロシー嬢をあまり人目にさらすわけにもいかなくて」

「ああ、ドロシーちゃんは純血のエルフだったよね」

「うん、そうなんだよね。それで」

「はい、みなまで言わなくても大丈夫ですよ」


 ドドンゴも紳士なのでちゃんと知っていたらしい。

 もちろんドドンゴは妖精剣は知らないんだけど、純血ってだけでも十分危険だ。


「あとさ、ほこらを設置したんだけど」

「祠ですか、それが?」

「いやあ、ちょっと問題があって」

「まだなんかあるんですね。はあ」


 ドドンゴにため息つかれてしまった。


 みんなで夜のお祈りをする。


『女神様、妖精様、今日も一日、ありがとうございました』


 いつものように、あれ、ちょっと違う。

 今日は黄色と緑の妖精光が飛びかっていた。


「なるほど。これは問題ですね。妖精光ですか、実物を見るのは初めてです」

「へえ、ドドンゴは知ってるんだ。でも初めてなんだね」

「はい。諸国をけっこう回ったことがありますが、噂しかなかったですね」


 ドドンゴでも初めてなんだな。ふうん。


「これってどれくらい問題になるのかな?」

「噂とかで、変な人が来る可能性はあります。ただここに来る人は少ないので」

「そうなんだよね。今はいいけど」

「将来的にはどう転ぶか分かりませんね」


 できればスローライフに不要なトラブルは回避したい。

 そのうえで美味しいものは食べたいし、不労所得は多いほうがいい。

 なんとも贅沢な話だな。


「まあ大丈夫でしょう。どうせ噂を信じる人なんてほとんどいません。まだホタルを見間違えたっていう笑い話のほうが信憑性しんぴょうせいが高いです」

「そうですね。ドドンゴ殿の言う通り、ホタルならその辺にいますし、特に噂になることもないですね」


 ああ日本では都市部ではホタルはめっきり見ないけど、そうかこの世界ではホタルはけっこうポピュラーなんだな。

 自然豊かで結構なことだ。


 ちなみに俺たちの家の裏にはホタルはいないけど、夏の終わりごろの夜に沢まで行けば普通に見られる。

 ここまでホタルが飛んできたんだ、でも別段おかしい状況ではない。

 実際に目にしたら、ホタルじゃないってわかっちゃいそうだけどね。


「では、噂があったら、ホタルということで」

「ああ私たちが見たものはホタルだったと」

「おう、ホタルな」


 満場一致でホタルということになった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る