43. 吟遊詩人

 ドドンゴが来るまでもう少し期間がある。

 メアリアもかなりの数、木板物語を作成したらしい。

 それで木琴も作ってみんな何曲か歌えるようになったので、トハムン村へ遊びに行こうと思う。


 ついでに木琴を五セットぐらい作ってみた。木を同じ大きさに切って並べるだけだから、それほど難しくなかった。

 他のみんなには木板物語の追加生産をしてもらった。


「じゃあ準備はいいかな」

「いいわ」

「いいですにゃん」

「いい、です」


 みんな手を上げて了解の合図を送ってくれた。


「では出発。いってきます」

「「「いってきます」」」


 子供たちだけで初めて村から出る。

 一応、今日行って、向こうで一泊して戻ってくる予定。


 道中、楽器の伴奏はないけど歌を歌う。

 みんなもうすっかり覚えたようだ。


 徒歩でも半日ぐらいでつく距離だった。


 昼過ぎぐらいにトハムン村に到着した。

 道からそのまま村だ。門とか門番とかもいない。そのぶん魔物への防御力とかは皆無だけど、まあ村ぐらいだとこんなもんだ。

 この辺では、人里近くにはあまり魔物は出てこないという。


 村の広場へいくと、露店も何件か出ている。村の規模は人口でいうと二百人ぐらいだろうか。小さな村だ。

 一応、中央付近にまとまって住んでいるので、真ん中の広場周りはけっこう人がいる。

 ただ朝市が多いので、昼過ぎの今はあまり露店の数はない。


 村の食堂へ行って、昼食を食べる。

 これといって特筆すべき点はない、野菜と干肉を入れたスープだ。

 この辺の村ではこれくらいしか出せない。

 ただし村では俺たちの地区と違って、固焼きパンぐらいはある。村唯一のパン屋があるからだ。

 だから村の中では同じパン屋のパンしか基本はなかった。

 もちろん自作すれば別だけど、パン窯とかオーブンとかないので難しい。


「くったくった。んじゃやろうか」

「「「はーい」」」


 みんなを並べて、俺は木琴をセットする。


「「「ららららら~♪」」」


 みんなのまだ幼さが残る高い声と木琴の音で曲を披露した。

 すぐに村の子供たちが呼びかけ合って、集まってきた。

 遠巻きに大人たちも、なんだろうと見てくる。


 こちらは裏街道なので、旅芸人とかもまず来ないのだ。だから非常に珍しいはずだ。

 木板物語も横に並べてある。

 人集めに何曲か演奏した後、説明などをする。


「今演奏に使った木琴、一組銀貨一枚でどうでしょう。あと木板物語もあるよ。あとで朗読するね」


 木板物語は商品だけど見ればすぐに読めるので、隠すほどのものではない。


「「「わああ」」」


 子供たちは集まってくるけど、当然銀貨なんて持ってる子はいなくて、どうしようという顔をしている。

 でも木琴は客集めで万が一売れたらいいなという程度で持ってきていた。

 本命は木板物語のほうだった。


「文字読める子はいる、手を上げて」


 パラパラと手が上がる。こんな田舎でも文字が読めるんだな。けっこう、けっこう。


「木板物語は、こっちはオリジナル、こっちは見聞きしたことのあるやつ、どれも銅貨十枚だよ」


 銅貨十枚ぐらいなら、買えるかなって子はけっこういると思う。

 千円ぐらいかな。俺ならちょっと高いなと思うけど、この世界ではそうでもないはずだ。


「じゃあこの『勇者の冒険』から読み聞かせするね。話がいいと思って欲しかったら木板で買うと、自分で読めるよ」


 こうして俺の勇者が魔王を倒して姫様と結婚するベタな話を読んでみせる。


 ふう、読み終わった。


「はい、この話は終わりです。文字の読み書きの練習にもなるよ」


「じゃあ勉強になるってんなら、勇者の冒険、く、ください」

「はいまいど、ありがとう」


 こうして対面で販売するのは初めての経験だ。

 他の人も何人か買ってくれた。


「つ、次の話は、私が読みます」


 メアリアも自作の物語を朗読してくれる。

 こちらは女の子が二人ばかし買ってくれた。


 木板物語は完全に一発で覚えるにはちょっと長い。半分くらいは覚えられるとは思う。

 やはり手元に本のような何かがあるのは、とてもいいのだ。


「おい、木板物語、全種類一個ずつ、売ってくれるか? 村には買えない子もいるんだ。うちで買う。見たくなったらうちで読んでいけばいい」


 そう言ったのは少し身なりがいい子供だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る