36. ドドンゴとコーヒー

 いつものようにドドンゴがやってきた。

 相変わらず暇人である騎士様も興味深そうに見てきた。


「この人はドドンゴ。うちの集落まで行商してくれる唯一の人だよ」


 ヘルベルグ騎士に説明する俺。


 俺たちの生活は、ドドンゴありきだ。彼がいないと生活必需品がやってこない。

 どうしても欲しければ、むろん一日かけて村まで、もしくは三日かけて町まで買いに行く必要があるが、そんなことしている暇な人はこの村にはいないのだ。俺たち子供除く。

 もちろん子供だけで町まで行かせてくれるはずもなし。


「こんにちは。私は行商人のドドンゴと申します。以後、お見知りおきを」


 そういうと貴族に対する礼をするドドンゴ。いつも貴族相手もしているから慣れている。

 俺はもうこの騎士様は怖くないので、平気だ。コーヒー仲間だし。

 コーヒーは毎日飲むのと無くなってしまうので、たまにしか飲んでない。騎士様も俺が飲むとき以外はそれでも遠慮しているらしく自分から飲みたいとは言ってこない。


 ドドンゴを連れて家に戻った。騎士様もついてくる。あーやっぱりついてくるんだね。できれば商談は見せたくなかった。


「ドドンゴようこそ」

「はい、こんにちはですよ。ブランダン様」

「早速で悪いんだけど、クリがたくさん収穫できたから、生グリを籠で一つ。あと貴族様用にマロングラッセっていうクリの蜂蜜漬けをひと壺作ったよ」

「マロングラッセですか」

「うん。そのまま食べてもいいけど、ケーキの上に載せたりするんだ」

「ケーキですか」

「そうだね。まあ俺たちはケーキ食べたことないけど、名前は知ってる」


 こうしてマロングラッセとクリが出荷された。


「そういえば竹のコップ、お皿、串のセット、売れた?」

「はい。全部、買取していただきました。安いコップは庶民にも人気なんだそうで、一人当たり数は出ませんが、大勢いますからね。普段使いで買っていく人もいるそうです」

「そういえば、そうかもね」

「はい」


 町の人口は多い。特にスラムとかはないらしいけど、それでも貧困層はいる。貧困層だってコップくらい欲しいだろう。

 安い竹のコップは喜ばれるだろうな。


「じゃあ今月はちょっと数少ないけど、竹のコップあるよ」

「助かります。全量買うよ」

「こっちこそ、助かるよ」

「まあ、お互いさまということで。あとはなんですか」

「そうだな。あ、そうだ。うちじゃないんだけど、四軒目のメアリアが物語を書いた木の板を売ると思うから、そっちも相手してあげて」

「わかりました。物語ですか。面白いですね。商人の血が騒ぐような気がします」

「ほほう」


「今までは単なるモノに価値がありました。でも物語は木の板ではなく、書いてある文章に価値があるんでしょう?」

「さっすが、ドドンゴ。目の付け所がいいね」

「まあね」


 こうしてドドンゴとの商取引を終えた。

 グラッセとクリの代金で金貨を受け取ると、ヘルベルグ騎士が「き、金貨」とつぶやいていた。

 まあ、彼だって金貨くらい見たことあるだろうに、でもこんな田舎の小僧が扱うのは、分不相応というやつだろうな。


 三人でコーヒーを飲む。もちろんヘルベルグは自腹だ。


「コーヒー、美味しいですね」


 とドドンゴがしんみりいう。


「ああ、まったりできる」

「不肖、ヘルベルグ。コーヒーの魅力に取りつかれまして、銀貨を巻き上げられてます」

「あははは。ブランダン様も容赦ないね」

「いやだって、コーヒーは安くないんだよ」

「ですよね、値段ぐらいはだいたい予想できます。商人なので」

「だよね」


 こうしてみんなでコーヒーを飲んでゆっくりした。

 子供たちは、一回コーヒーを飲ませたことがあるんだけど「苦い不味い」って言って以来、一緒に飲んだことはない。


「にしても、コーヒーに、蜂蜜漬けで、金貨が飛び交う子供とは、怖ろしいですな」


 とこのように、ヘルベルグ騎士。


「いやあ、まったく、まったく、その通りです。はい」


 と同調するドドンゴ。

 ドドンゴは俺の味方だと思ってたのに、違うのか、この裏切り者め。


 あ、でもドドンゴは俺に対して、わりあい敬語率高めだし、様呼びしてるくらいだから、商売相手として正式に認めてる感じなのか。

 いやはや子供相手にこういう態度取れるのは、優れた商人だよな、本当に。


 ドドンゴも一泊していくので、二人の仲がよさそうなのはいいことだと思う。

 この家は狭くて、部屋がちゃんと分かれていたりしないので。

 屋根がないよりましってだけだよな。

 中世の田舎レベルで、プライバシーとか主張しても、いたしかたないわな。


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