32. 通行止め

 この前大雨が降った。

 そりゃあざんざん雨が降って、風もすごくて、家はガタガタするし、もう大変な感じだった。


 それから少しして、俺たちのスモーレル地区に、いっぺんに三人も早移動の商人がやってきた。

 うちに泊める。宿屋ではないけど、もちろん多少のお金はもらう。まあお金より小麦のほうがうれしいかもしれないけど。


「どうかしたんですか?」

「実はな、表ルートががけ崩れで、馬車が通れないんだ。今は危険な迂回うかいルートを徒歩で通ってるんだが、それだったらこっちの近道を通ったほうがいい」

「なるほど」


 そうして、こうして、それから数日間、何人もの商人が俺たちの家と裏街道を通っていった。

 普段は来ない、山側から来る人までいた。


 そんな中の一人がいい商品を扱っていた。


「俺が運んでるのは胡椒こしょうだよ」

「おお、胡椒、胡椒なんですね!!!」


 俺は前屈みぎみに、反復した。


「お、胡椒知ってる口だね」

「もちろん。胡椒求めてたんです。もちろん町に行けば買えるけど、前回行ったときはお金もろくに無かったんだ」

「そういう今はお金あるってこと?」

「はい、多少は。ちょっと金貨で、できればマケてくださいよ」

「あははは。ちょっとだけだよ。では格安サービスでちょっと売ろう」


 こうして俺は胡椒を手に入れた。いやあ、素晴らしい。行商人万歳。


 翌朝、商人の人には、塩胡椒のオムレツ風味の卵焼きを出した。


「う、うん。塩胡椒も効いてて、うまいなこの卵焼き」

「でしょでしょ。これを求めてたんです」

「やっぱり胡椒があるのと、無いのでは全然違う」

「はい。そう思うよ」

「卵も貴重だろうに。すまんね」

「いいえ」


 そう、町でもそうだけど、卵はわりと貴重なのだ。

 卵が貴重でないのは、養鶏場の人くらいなもんだ。


 うちの最初のヒヨコちゃんたちもだいぶ大きくなった。来年ぐらいには卵を産むようになると思う。

 卵を産むニワトリは四羽だけど、一羽はいま卵を温め中だ。他の卵は食用にしている。

 集落で自分たちだけ食べるのも悪いので、各家でローテーションして配布している。


 ニワトリ小屋の前はそれなりの広さの空き地なので、朝ニワトリを広場に出して、夕方小屋に戻すようにしている。

 夜の間に食べられちゃわないように注意はしているつもりだ。

 まあ何が襲ってくるかはわからないので、怖いといえば怖い。


 こうしてお泊りの人が来るときは、その人たちに卵をあげるようにしている。


 こうやって来る行商人は、金の卵というか生活改善の鍵でもあるので、ぜひ贔屓ひいきにしたい。

 少しでも美味しいものを与えて、餌付けもとい、心象をよくしないとという下心もちょっとある。

 何にせよ、親切にすることは、この集落の利益になると思う。

 旅の人には親切にするものという、常識みたいなものもあるし。


 これで当面欲しかった、砂糖、コーヒー、胡椒は揃った。カードを揃えると次はコンボガチャのコンボ効果で、SSレアが当たるという風に相場が決まっている。

 ワクワクしながら、次の人たちが来るのを楽しみにした。


 またすぐに次の商売の人がやって来た。


「俺が商売してるのは、シルクだよ。ほら」


 そういうと商品を下ろして見せてくれた。白くて光沢のあるツヤツヤの布シルクだ。

 シルクかぁ。遊びに来てたリズは興味津々、ドロシーなんかはうっとりしちゃってる。

 でもシルクは食えないからな。俺はパスだ。

 これで下着でも作ってやろうとは、さすがに思わない。

 金貨の数には限りがございます。生活改善に関わりない贅沢品はご遠慮願います。

 まあ言わないけど、これは要らないということで一つ。


 シルクは買わないけど、ちゃんと胡椒の効いた美味しい卵焼きは出したよ。

 めっちゃ喜んでくれた。

 それでシルクの布きれで、ハンカチサイズのものをくれた。

 母ちゃんの宝物になったもよう。


「シルク、大切にするわね」

「美味しいごはんを食べさせてくれた、お礼です。また機会があったらご贔屓ひいきに」

「はい。そのときはよろしくおねがいしますね」


 こんな感じに、通行止めの期間は忙しく商人の相手をした。

 もちろん朝の剣の稽古や魔法の練習、ニワトリの世話とかちゃんとやっている。


 時間が余れば、竹のコップ作りとかもしている。

 いくつあっても、買ってもらえるらしいからね。コマは面倒だから作っていない。

 竹林は一定量は間引かないと、ボウボウになってしまってよくないらしい。今まで放っておいたため、かなり広い範囲にまで拡大していて、見通しもよくなかったので、最近伐採してようやく管理される感じになってきたところだ。

 どうせ来年にはたくさんタケノコも生えるし、今までタケノコなんてろくに取らなかったから、今度から食料の足しにしようと思う。


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