26. マロングラッセ

 俺と愉快な仲間たち一行に新しくメアリアが加わってから少し経った。

 季節はそろそろ秋になろうとしている。

 この世界では、この時期にクリが実る。


「というわけで」

「でたぁ。ブランの『というわけで』シリーズだわ」


 ずばりドロシーが言ってくる。

 別に唐突ではない。一応、年間スケジュールみたいなものは頭の中にはある。抜けとか突然思いつくこともあることはあるけど、それでも日々の生活で覚えていることはあるんだ。


「ごほん。それで今回は、クリを取りに行きます」

「「はーい」」


「あ、はーい」


 後ろにいる控えめなメアリアも、遅れて返事をしてくれる。ちょっとそういうところも可愛い。

 今までの二人はどちらかというと、ぐいぐいくる系に近かったので、こういう子もいいなとは思う。


 本日もカエラばあちゃんも一緒だ。山に行くときはだいたい一緒だ。

 籠を背負ってえっちらおっちら、山を登る。

 山になんでもあるような気がして来るけど、色々なものがあるわけではない。たまたまいくつかの種類はあるってだけですな。


 ちょっと登ったやや平らな感じのところにクリの木が群生しているゾーンがあった。

 群生している理由は他の木がクリに押されて、自然淘汰とうたされた感じではあるけど、よくはわからない。

 まあ、何にせよ、一か所に生えているのは好都合だ。


 あまりたくさん登らなかったから今回は良かった。もしかしたらメアリアの体力的には俺たちについてこれないかもしれない。山の上のほうでなくて本当に良かったと思う。

 メアリアは俺たちより一つ下らしい。

 妹的ポジションについて、リズもドロシーも山を登るときに気にかけてくれていた。

 なんだかそれとなく協力してくれている感じが微笑ましい。


 みんな手袋をしっかりして、そして手で拾うと思いきや、足で踏んでイガグリを開く感じにしてホールドして、それから手なりヒバサミで拾うんだって。

 クリ拾いに一緒に来たのは初めてだったから、知らなかった。

 もちろん他の子も初めてだ。


「こうして拾うんですね。なるほど、です」


 メアリアもうんうんうなずいて、楽しそうに笑った。


 虫も少ないから、穴が空いていて食われているクリもまず無いみたい。助かる。

 こうして、中身のクリだけを拾って歩いた。




 かなりたくさん拾えたと思う。

 夕方には集落に戻ってきて、クリをでる。

 火魔法を使えば楽なんだけど、そんなことしたら両親もびっくりしちゃうので、普通に薪を使った。

 クリはもちろん四軒の家で、ある程度を分けた。


 そして残りの一部を日本語ではなんていうか知らないけど、マロングラッセにする。

 えっとクリの砂糖漬けとでもいうのだろうか。

 砂糖が無いので、蜂蜜漬けだけど、似たものだと思うことにしよう。

 厳密にはコーヒー用の砂糖があるけど、あれは隠し玉みたいなものなので、今回は使用しない。


 とりあえず、茹でたクリを食べる。


「クリ単体でも甘いですわね」

「はい、おいしいです」

「にゃはは、おいしいにゃ」


 三人娘も茹でクリの美味しさを堪能してる。

 しかし、これをさらに甘くしてやろうというのが俺たちの作業だ。

 世の中には甘すぎるという人もいるけど、やんごとなき偉い人はこういうの好きそうだし。

 一応、今回は量少なめで、クリそのものも出荷用を分けておこう。


 まずはかなきゃいけないのだけど、最初からクリが剥けている植物であってほしかった。

 俺たち四人で包丁を持ち寄って、一生懸命剥いた。正直、とても面倒くさい。

 でもマロングラッセにすると言ってあるので、甘みの誘惑はすごい。やる気を何倍にもしてくれた。

 全量、マロングラッセにするとかしなくてよかった。クリ剥きだけで死ねる。


 少量だったのでなんとか剥き終わり、蜂蜜で煮ることにした。


「わっ、わ、蜂蜜ですか、ですよね? すごい、ですね」

「あはは、ブランが飼ってるのよ。やっぱりすごいんだよね」

「そうですね。町では見たことないですね。存在は知ってましたけど、甘いんですよね?」

「すごく甘いわ」

「すごく甘い……」


 ドロシーがメアリアにうれしそうに報告していた。

 想像中のメアリアもなんだかすでに、顔がとろけるような感じになっている。


「山の中だなんていうから、どんな酷いところかと思って、覚悟して来ましたけど、ここは楽園もかくやという」

「そこまでではないと思うよ、うん」


 さすがにちょっと盛りすぎだと思う。


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