24. 商談

 怖い顔ではなく本当の笑顔のドドンゴを家に迎えた。


「山ブドウジャム、蜂蜜を買ってきた分だけ作ったから結構あるよ」

「それはありがたい」


「中くらいの壺に一、二、三、四つ、かな」

「そうだね」

「ふむ、これだけあると単価はちょっと安くなると思うが、全体の利益は増えるね」

「なるほど、量あたりの値段は下がるんだね」

「はい。しかし、たいして影響はないよ。それよりは利益が増える分のほうが大きいっすね」

「ふむふむ」


 こうして真剣な表情で、打ち合わせを続ける。


「竹のコップとそれからお皿、あと竹串、が結構な量あるよ」

「あるだけ買うと言われてるから、問題ないね」

「そうだったよね。覚えてるよ。でも量多いよ、大丈夫?」

「あれぐらいの量ならなんとか大丈夫。全量買い取るよ。竹が軽いほうで助かる」

「まあ木工製品だったらもっと重いよね」

「そうですね」


 調子こいて作った竹のコップ千個などが売られていった。さらば。


「それからはい、お茶」

「なんだか香ばしいいい匂いだ」

「でしょう」

「初めてだねこれは」

「商人でも知らないんだね」

「そうですね」


 ドドンゴに出したのは、この前できたばかりの猫じゃらし茶だ。


「美味しい。匂いの期待通りの味でいいっすね」

「そうだよね」

「これも売ってくれるんですか?」

「うん、そのつもりはあんまりなかったけど、多少は」

「ではぜひに」

「わかったよ」


 こうして冬用にと量産した猫じゃらし茶を半分ぐらい卸すことにした。


「でこれなんだい?」

「猫じゃらし茶だよ」

「猫じゃらしってあの猫じゃらしですか」

「うん」

「へぇ~」


 感心したようで、何やらうれしそうな顔をしていた。


 俺のターンは終了だ。

 あとは夏野菜の残りなども持っていってもらった。途中の村などで売るらしい。

 トマトやトウモロコシなどはこの辺では比較的珍しいので、たぶん売れるそうだ。


 こうしてドドンゴに売れるものが結構増えて、金貨数枚の利益になった。

 もちろん金貨だけもらっても両替が困るので、端数などは銀貨と銅貨でもらっている。


「うちに金貨ねえ」


 と母ちゃんのナターシャがしみじみと言った。

 いつもは服を買ったり鍋や何やらを買ったりして相殺することが多かったので、あまり現金は入手するほどではなかった。

 こうして自分たちの財政事情が改善されていると思うと、けっこううれしい。


 都会で贅沢ぜいたく三昧ざんまいをしたいとは思わないけど、食生活始め、田舎でもそれなりに普通の生活ぐらいはしたい。

 いつも同じ塩味の干肉とちょっとの野菜に固焼き薄パンというのは、さすがに遠慮したい。


 ドドンゴと両親やリズとドロシーの家とも商談をして、うちで一泊して帰っていった。

 今回はさすがについていかない。




 それからしばらくして、家の前で遊んでいたところ、また馬車がやってきた。

 馬車から大きな荷物を背負った人が降りてくる。

 馬車の御者は別にいるようだ。

 このパターンは知っている。裏街道を通る早移動する商人さんだ。

 いうならば異世界版エクスプレスというところ。

 自分の馬車ではなく、高速馬車などを借りて移動するのだ。所有する馬車馬を全力で走らせ続けると疲れてしまうが、順番に借りて移動する分には大丈夫という、早馬みたいな感じの人だ。

 この道を通る同業者の人の数は少ないけど、何人かはいるようだ。たまに見かけた。


「こんにちは」

「こんにちは」


 軽く挨拶をして様子を見る。宿場町ではないけど、こうして来る人はうちに泊めるのがなかばルールみたいな感じになっている。


「俺はニードルってんだ、よろしくな」


 そういうとニカッと笑って、白い歯を見せてくれる。人懐っこい人なのだろうか。


 ニードルさんはうちで世話をする。あと御者の人は近くの村の人でババロードさんだそうだ。

 こういっちゃあなんだけどババロードさんにはあまり興味がない。

 問題はニードルさんだ。


「荷物はなんですか?」

「へへへ、知ってるか。コーヒーという飲み物だよ」

「あああ、コーヒーね! 知ってるよ。よく来てくれた大歓迎」

「ほほう、コーヒーを知ってるとかずいぶんと物知りじゃないか」

「俺、探してたんだ」

「探してたって、コーヒーを?」

「うん、前領主様のところまでいったときについでに探したんだけど、見つからなかったんだよね」

「そうかそうか」


 本物のコーヒー。それはタンポポコーヒーとはまた違う、懐かしいあの味。

 ニードルさんは自分用だというコーヒーを出してくれた。コーヒーを入れる器具とかも持ち歩いている模様。


 家の中にはコーヒーのいい匂いが漂ってきた。


「ミルクはあるかな? できればウシがいいんだけど、ヤギとかでも」

「ごめん、この村には無いんだ」

「そうか、まあ、好みによるけど、砂糖だけでもいいか」

「砂糖なんて無いよ」

「大丈夫、砂糖も持ち歩いているから」

「さっすが」


 ニードルさんは抜かりない。

 そして、コーヒーを売ってもらった。少量だけど値段はけっこうした。

 なけなしの手に入れたばかりの金貨を一枚ばかし必要だった。


 こうしてたまに本物のコーヒーのある生活が手に入った。もちろん砂糖も一緒に買ってある。この砂糖はコーヒー用のぶんしか無い。


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