17 教会

 テイムモンスターが欲しい。

 ということで、リズちゃんにおねだりしたところ。


「テイムシードなら教会だね」

「そうなんだ」


 よくわかんないけど、この世界ではモンスターを捕まえるアイテムは教会の役割なのだそうだ。


 いつも歩いている方向と正反対。

 北側の一角に教会はあった。


 この辺は高級住宅地の手前で、ちょっと物々しい感じがする。

 警備のアスター騎士団の人も、ちょくちょく見かける。


 ザ、教会。


 グリーンドラゴン教会アスター・ストラティエ礼拝堂。


 シンボルは太陽をかたどった、星型の八角形バージョン。


 シンボルもドラゴンじゃないんだね、あ、うん、細かいこと気にしたら負けだよね。

 そうだった。

 ここはファンタジー世界。地球の常識は通用しない。


 白亜の石造りの教会は、外を見るだけでも美しい。

 人もちょろちょろいる。


「失礼します」


 正面玄関から堂々と入った。

 小心者なので、ちょっと横の通用口とか欲しい。

 恐縮してしまう。


 通路の先は礼拝堂になっていて、左右に長椅子が並んでいる。


 一番奥には教壇とその背後に、ステンドグラス。

 翡翠ヒスイ色、グリーンに輝く、ガラスのドラゴンの意匠が見える。


 ふむ、いい雰囲気。かっこいい。


 リズちゃんは正面ではなく、入ってから左側のドアを通って、小部屋に入る。

 そこはアイテムショップになっていた。


 お守り、アミュレット、タリスマンとかロザリオが売っている。

 そしてお目当てのテイムシードという、謎めいた球体があった。


「テイムシードを3つください」

「はい。ありがとうございます」


 リズちゃんがさっそく買っていた。


「えっとね、失敗することもあるから、複数個買うといいよ」

「わかった。じゃあ僕は4つください」

「ありがとうございます」


 僕たちはお金を半分っ子したけど、かなりお金持ちなのだ。当社比。

 いや、ゲームしてる人ってすごいゲーム内マネー大量に持ってるみたいなんだけど、どれくらいから多いのか、ちょっとよくわからないんだよね。


 とにかく、テイムシードをゲットした。


「ささ、外に行きましょう」

「うん」


「ところでワイちゃん。何のモンスターテイムするの?」

「そうだなぁ。まよっちゃうなぁ」


 今できるのは、スライム、ラットくらいかな。


「ついでにお祈りしていこうか、ワイちゃん」

「うん、そうする」


 教壇には神父さんがいて、信者さんを待っていた。


「寄進でございます」


 そういって1,000G金貨を3枚、神父さんに渡すリズちゃん。

 僕もそれを真似て、同じようにする。


「き、寄進でございます」


「よきかな。よきかな。旅の冒険者様によき加護がございますように」


 神父さんは聖印を切り、お祈りしてくれる。


 視界の隅にまたアイコンが出た『神父の祈り:59分』。

 効果は『攻撃力+5 防御力+5』。


 噴水のバフに似ている。


『寄進:3,000G 合計:3,000G』


 メッセージがさっと表示された。

 なんか寄進を集めると、いいことがあるのかな、システム的な扱いを受けているっぽい。


 よくわからないけど、お金があったら、また寄ろう。


 隅のほうに、教会の女の子たちが何人かいる。

 僕より小さい。みんな可愛いな。


「あの子たちは?」

「うんとね、孤児院の子だね。ここにはさまざまな理由で、お世話になってる子たちがいるの。神父さんは男だけど、隣にあるのは女子修道院なんだって」

「ほーん」


 女の子たちのところに行く。


「みなさんは、お元気ですか?」


 こういう時、なんて声を掛ければいいか、わかんないよね。


「はい。お陰様で、いつも幸せに暮らせています」

「それはよかった」

「はい」


「何か欲しいものとか、僕たちでもできることはありますか?」

「いえ、大丈夫です」

「そうですか」

「本当は、四葉のクローバーが欲しいんです。けれど、売っているものでもないし、探すのも大変で、あはは」

「四葉のクローバー! ロマンですよね、いいですねえ」

「はいっ」


「クローバーはどの辺に生えているんでしょうか」

「そうですね。町の外、ラングデス平原とか? でしょうか」

「外ですか」

「はい」


「もし機会があったら、探してみますね」

「はい。うれしいです」


「ではそろそろ」

「では、また、お目に掛かれたら、うれしいです」


「はい。失礼します」

「じゃあね、ばいばい」


 リズちゃんも手を振って、女の子たちと別れる。


 なんというか会話が難しい。

 女の子としゃべるのは慣れていない。


 向こうはこっちを女性だと思っているから、距離感もよくわからなくなってしまう。


 とにかく、次だ。次の行動しないと。


 えっと、また外に行って、クローバーを探しながら、どのモンスターをテイムするか考えよう。




 そういえば釣りなんだけど、あれだけ100匹じゃなくて、初めて釣っただけで実績になったのは、どうも魚釣りは採取とかよりも時間効率がずっと悪い。

 確かに1時間ぐらい釣ったけど、10匹ぐらいしか釣れなかった。

 だから、広場で魚をみんなにあげたときに、代金が高かったんだって。


 要するにプレイヤーさんは単なる物価だけでなくて、時給も気にするから、お魚は高いんだそうだ。

 道理で露店ではあまり魚は売ってないし、売っていても高いと思ったよ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る