第96話 却下

ついに戦争が始まったと、一報が入った。


「あっさり終わってくれるとありがたいんだがな」


それもうちが勝つ形で。

まあそんな上手く行く訳はないだろうが。


そもそも軍事力や国力にそんなに差があるなら、グラント帝国も攻め込んできたりはしないだろう。

いくら何でも、事前リサーチはしてるだろうからな。

直ぐに決着とはいかないはず。


「ま、とりあえず負けさえしなければそれでいいか」


余程劣勢にでもならない限り、辺境の男爵家に大した影響はないからな。


「こう言うと不謹慎かもしれませんが、この戦争はスパム領にとって追い風になるやもしれません」


「ん?戦争が追い風?どういう事だ?」


ジャガリックの言葉に俺は首を捻る。

戦争なんて百害あって一利なしの物だ。

それがなぜうちの追い風になるのか?


「マイロード。戦争になれば、まず物価が上がります」


「まあ、そうだな」


小競り合いなんかと違て、本格的な戦争では大量の物資が必要となる。

そうなれば必然的に物価は上がるだろう。

ご家庭の財布に大打撃だ。


「更に、税率を上げる領地も出て来るでしょう。特別措置としての増税です」


「あー、まあ確かに……」


戦争に直接参加している様な領地は、出費も相当な物になるだろう。

それを補うため、税率を上げると言うのは確かにあり得た。

まあデタラメに上げると領民全員が逃げ出しかね何から、そこまでドッカンと上げる馬鹿な貴族はいないだろうが。


「なるほど。うちに人が流れ込んでくるって訳か」


「はい」


物価が上がって生活が厳しくなるうえに、税率まで上がったら生活が成り立たない層だっている。

そういう人間は、税率の安い所に移り住もうとするはずだ。


そこで選択肢に上がるのがスパム領である。


なにせ今は無税だし。

しかも戦争に巻き込まれる可能性の極めて低い安全な領地と来ている。

今まで以上に人が流れこんでくる可能性は高い。


「そう考えると、第二第三の街の建設を急いだほうがいいんだろうけど……金銭的になぁ……」


問題は金銭だ。

街を一つ作ろうとしたら、とんでもない額がかかる物だ。

それも物価の上がる戦時中に急造となれば、その額は跳ね上がってしまう。


いくらデカいとはいえ、流石にオルブス商会に――


『超お高くなるけど、これからも全額負担お願いね。てへぺろ』


――って感じで頼むのはあれだしな。


あんま厚かましい事を頼み過ぎると、カンカンという人質がいたとしても、商会に逃げられてしまいかねない。


「それなら問題ないかと」


「問題ない?スパムポーションの売り上げを当てにしてるんだったら、あれは大半が国に持っていかれる事になってるから……」


国からは7割を収める様、勅令が来ていた。


月3,000本生産するとして、そのうち2、100本は納めなければならない。

なので販売できるのは900本だけだ。

そのうち二割は領地で格安販売するので、実際出荷数は720本ほど。


販売額は一本90万だが、そのうち4割は商会の利益なので、一本当たりの利益は人件費とか諸経費をガン無視して64万。

それに720かけてでる5億弱が、うちの利益となる。


年収だと60億近く。

一般人的な感覚で言うなら確実に大富豪だが、ぶっちゃけ、領地経営のお金と考えるとかなり少ない。

その程度の稼ぎで、戦時中に街をポコポコ作るのなど夢のまた夢である。


「ご安心ください。タニヤンとポッポゥが目覚め、メガ精霊が揃えば資材の大半は私達の力で賄えますので」


「え?そうなのか?」


「はい。大半は進化した我々の力で生み出す事が可能です。また、人件費の方もゴーレムなどを大量に投入する事でカットできるかと」


「おお、そうなのか」


「ですので、街の建設についてはご安心ください」


頼りになるわ。

メガ精霊。

進化させたのは大正解だったな。


「働きたくないで御座る!」


突然執務室の花瓶から水が出て来て、それがカッパーの顔になる。


「何やってんだお前?」


「このカッパー。嫌な予感がしたので自己主張のため参上しました!なのでハッキリ言っておきます!働きたくないで御座る!!」


勘だけでその主張をしに来たカッパーの、働きたくないと言う熱い思いがひしひしと伝わって来る。


なので俺は笑顔で――


「黙って働け」


――却下した。

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