第92話 先攻後攻
「フェンリルの事、よろしくお願いしますね」
「ああ、安心しろ」
「いいですか。ご飯に散歩、歯磨きにブラッシング。甘えてきたら頭をよしよしですよ」
「分かってるって」
「後、寝るときはちゃんと布団に入れてあげてください。部屋から絶対追い出しちゃダメですからね」
「わかったわかった」
精霊のランクアップは、二人づつに分けて順次行う。
一度に全員をランクアップさせると、領の運営にかなり弊害が出てしまうからだ。
だから二回に分けて行う訳だが、最初にランクアップさせる組は、カッパーとジャガリックとなっていた。
え?
死ぬほど嫌がってたカッパーが、よく先陣を切ったな?
彼女が先発を買って出たのは、他の二人が苦しむ姿を見てからだとゲンナリするからだそうだ。
避けられない運命なら、カウントダウンを待つよりさっさと済ませた方が楽である。
と言った感じ。
「ほんとにほんとに、ちゃんとやって下さいよ」
「安心しろって。他人に苦しい真似させるのに、その程度の事もまともにやらないほど俺も薄情じゃない」
適当にやったら、目覚めた時にまたドロップキックかまされてしまうからな。
それもメガ精霊に進化したカッパーに。
「フェンリル。フォカパッチョがちゃんと仕事しなかったら、ガブリと行くんですよ」
「ぷぎゃ!」
カッパーの言葉に、腕の中に抱かれたフェンリルが嬉しそうに答える。
他の人間の言葉は薄っすらとしか伝わってないコイツだが、カッパーとは100%完璧に意思疎通ができていた。
なので手を抜いたら本気で噛まれるかもしれないので、気を付けないと。
「じゃあ、そろそろランクアップさせるぞ」
「うぅぅ……嫌で嫌で仕方ありません」
「覚悟はできております。マイロード」
「二人共、頑張ってくれ」
俺は二人をランクアップさせる。
因みに、事前にCランクのプラスにまでは上げているので、一回上げるだけでいい。
「あ……」
「く……」
「——っ!?」
ランクアップさせた瞬間カッパーが白目を剥き、そして水になって崩れた。
ジャガリックの方も、体が崩れてただの土になってしまう
「おいおいおいおい!これ大丈夫か!?」
慌ててタニヤンの方を見る。
「ふぉっふぉっふぉ、そう慌てなさるな。二人は別に死んだりはしておらん」
「そ、そうなのか?」
いきなり水や土になってびっくりしたけど、タニヤンが落ち着いている所を見ると、命に別状などはなさそうだ。
「構成体が元素の状態に戻っただけですので、ご安心くださいマスター」
「元素の状態……それって、体の形が維持できないぐらい苦しいって事か?」
「まあそうですな。ですが、これは幸運でもあります」
「幸運?くっそ苦しいのに?」
体が崩れるぐらいの苦痛を受けているのに、いったい何が幸運と言うのだろうか?
「肉体が崩れたお陰で、魂が半分自然と同化した状態になっております。ですので、今のカッパーとジャガリックはほとんど苦痛を感じておらんでしょう」
「そうなのか」
きつすぎて体を維持できななったお陰で、痛みを感じれなくなったって事か。
なるほど、確かについてるな。
「こういうのを怪我の功名と言うのでしょうな。これなら、わしらは気楽にランクアップに挑めるという物です」
カッパーは楽だからと先を選んだが、結果的に後の方が気楽に挑める事が判明した訳だ。
貧乏くじって程じゃないが、まあ裏目に出た事には違いない。
……ま、どうでもいいか。
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