第86話 あたおか
「久しぶりだな。我が弟よ。痩せたと聞いていたが、見違えたぞ」
ガイオスがやって来た。
呼んでもないのに、ムカつくニキビ面を引っ提げて。
「お久しぶりで御座います。ガイオス王子」
やたら親し気に声をかけてきたが、こっちは礼儀正しく返す。
罠の可能性があるからな。
やあ兄さんとかフレンドリーに声をかけた途端、『この無礼者が!』とか言って因縁を付けられないとも限らないのだ。
「久しぶりに会った兄に、そんな他人行儀はないだろう」
久しぶりに会う前から他人行儀だったったろうが。
何言ってんだコイツは。
とは思っても、もちろん口にはしない。
俺はとにかく愛想笑いを浮かべて対応する。
これぞ、俺が日本での生活で学んだ処世術である。
「まあ立ち話もなんだ。座って話そうか」
「はい」
ガイオスに言われ、俺はソファに腰を下ろす。
ここ、俺の屋敷なんだがな。
当たり前の様に座れとか言ってくるコイツの気がしれん。
「こちらはスパム領で採れた、希少な茶葉の物になております。ガイオス王子様の御口に合うかはわかりませんが」
座ったところで、素早くジャガリックが俺と兄に飲み物を差し出す。
一応相手は貴賓なので、出したのはこの領でだけとれる特殊なお茶だ――ジャガリックに、相手に舐められないためにもこれを出そうと言われた。
名付けて精霊茶。
名前からも分かるように、精霊草で作ったお茶である。
俺も一日一杯だけ飲んでるが、これがまた糞上手い。
出来れば飲み物全部これにしたいぐらいだが、いかんせん気軽に飲める額ではない超高級茶なので、一日一杯で我慢している。
「ほう……これは驚いたな」
お茶を口にしたガイオスが目を丸める。
「お代わりを貰えるか?」
「かしこまりました」
かなり気に入った様だ。
希少だって前置きしてるのに、遠慮なく二杯、三杯とがぶがぶ飲みやがる。
厚かましい奴だ。
「それで……ガイオス王子。此度はどういったご用件でお越しになられたのですか?」
「兄上と呼んでくれていいのだぞ」
「滅相もない」
「やれやれ、硬い奴だ。まあいい。今日俺がここへやって来たのは、お前の所から販売されているスパムポーションの事についてだ」
やっぱりか。
まあ予想の範疇だな。
というか、それ以外の理由なんて思いつかないし。
「あれは凄いな。どの程度か実際に確認するために兵士の腕を切り落として確認したんだが、ポーションを飲んだ瞬間一瞬でくっついたぞ。あれほどの回復アイテムは、エリクサーを除けば古今類を見ない物だ」
いやお前の方こそ凄いよ。
効果を確認するためだけに兵士の腕を飛ばすとか、完全に頭がおかしいとしか言いようがない。
ドン引きだ。
「という訳で、ポーションは全て王家預かりにしたい」
いや何がという訳だよ。
王家預かりってお前、全部寄付しろって事か?
舐めんなよ、このぼけ。
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