第43話 分からん
オルブス夫人から持ち掛けられたのは、死の森を利用した町作り。
その全額投資だった。
しかも用意される町は一つではなく、複数と来ている。
それはかなりの大事業と言っていいだろう。
「ジャガリックはどう思う」
「大変素晴らしい申し出かと思われます」
ジャガリックの言う通り、いい事尽くめではある。
だが俺はその場では返答せず、答えは後日伝えるという形で一旦彼女には帰って貰っていた。
「まあそうなんだが……一介の商会がそんな金を出せる物なのか?」
カンカンの減刑で受け取った金額は、かなりの額だった。
並みの商会なら、顔色が青くなるレベルと言っていい。
だが、インフラを含めた街の建設にかかる費用はその比ではないはず。
「可能なのでしょう。だからこその申し出かと」
「領一の商会ってのは伊達じゃない訳か」
下手したら貴族並みに金を持ってそうだ。
「もちろん、何らかの裏はあるでしょうが」
「それなんだよなぁ」
もう少しスケールが小さければ、カンカンの為の投資と考えただろう。
だがそう考えるには、あまりにも額が大きすぎるのだ。
絶対何か裏があるに違いない。
「目的が全くわからんから、受けていいのか迷う」
「ふぉっふぉっふぉ。気にせず受ければ宜しいでしょう」
「——っ!?」
急にタニヤンが姿を現し、俺はびっくりする。
いたのかよ。
姿消されてたら全くわからん。
「思惑が何であれ、それがエドワード殿の害になる様でしたら我らで排除すればよいだけの事。わしの能力は暗殺向きですしのう。ふぉっふぉっふぉ」
タニヤンが物騒な事を口にして笑う。
この爺さん結構やばいな。
まあ冗談なのかもしれないが。
「思うのですが……オルブス商会はマイロードが王族である事に気づいたのかもしれませんな」
「あー、うん、どうなんだろう」
確かに、元王族だと知ったなら、その血筋にあやかろうと動いてもおかしくはない。
けど――
商会と接触してまだ一週間ほどしか経っていない。
夫人の行程も考えると、期間は五日ほど。
そんなに早く俺の出自に辿り着けるものだろうか?
「領一の商会ですから、けた違いの情報網を持っていると考えて宜しいかと」
ジャガリックが俺の考えを読んでか、そう告げる。
もしそうなら、ネットも何もない世界でそれだけ高速で情報を手に入れるとか、大したもんである。
「まあ王族だと気付いたとしてだ……」
自分でいうのもなんだけど、俺、相当評判が悪かったからなぁ。
ポロロン王家の出来損ない王子は貴族だけではなく、一般にも浸透していたレベルだ。
そいつが他国との外交問題を引き起こして、王家から放逐されたのである――俺は知らなかったが、王女への体当たり事件は外部には伏せられてたっぽい。
いくら血筋が貴くても、普通は利用価値を見出せはしないはず
「ふぉっふぉっふぉ。そう悩まなくても宜しいのでは?こちらにはカンカンという人質もいる訳じゃからの。オルブス商会も、そうそう無茶な真似はして来んじゃろう」
「まあそうだな」
何か目的があっても、少なくとも5年間は大人しくしているはず。
あんまり褒められた表現ではないが、タニヤンの言う通り、こっちには
まあ時間制限付きではあるが、5年もあれば相手の目的も見透かせるだろうし。
「そもそも俺を利用できる事なんて限られてるだろうし、気にし過ぎか」
どうせ他の王家の人間との仲を仲介して欲しいとか、それぐらいだろう。
領地が発展して、貴族として一人前になったらそれぐらいは……まあどの面下げてって話になるから個人的にはあんまりやりたくはないけど、我慢して頭を下げれば紹介ぐらいは出来なくないだろう。
「じゃあ、夫人に返事の使者を出さないとな」
とりあえず大して害はない。
そう判断した俺は、オルブス夫人の提案を飲む事にした。
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