第29話 快適
「楽しみだなぁ。私、よその町に行くのって始めてなんです」
アリンが嬉しそうにそう言う。
現在、俺達は馬車に乗って移動中だ。
隣領の町へ買い出しに行くために。
移動に使っている馬車は、俺が屋敷へ送られた時の二台と、屋敷の倉庫にあった半分廃棄品状態だった物をランクアップで補修した物の、計三台だ。
そしてそれを引いているのは、ジャガリックが生み出した岩でできた馬型のゴーレムである――ジャガリックは土の精霊だけあって、ゴーレムの精製などが出来る便利能力を持っていた。
通常の馬を使っていないのは、馬は騎士どもに持って帰られてしまったからである。
「エドワード様。本当にありがとうございます」
村の人間はこれまで領から出る事が許されていかった。
なので村で生まれ育ったアリンからすれば、これは生まれて初めての旅行という事になる。
そのため彼女のテンションは上がり気味だ。
「まあ用事のためだからな。別にお礼はいいさ」
「それでもありがとうございます」
機嫌のよさそうなアリンに反比例して、タゴルが不機嫌そうな顔をしているがスルーしておく。
買い出しのメンツは俺と、その護衛であるタゴル兄妹。
それにこの馬車の御者を務めてくれているジャガリックに、暇だからとついて来たカッパー。
あとは荷物運び役として村の男連中5人の、総勢10名だ。
「それにしても、この馬車本当に早いですね」
車窓から見える景色は、風の様に流れていく。
隣領の大きめの街に行くには本来片道で二日程かかる距離だ。
だがジャガリックの生み出したゴーレムは疲れる事なく馬よりもずっと速く走れる――体感、馬車は時速50キロぐらい出てる――ので、朝に出れば昼過ぎには到着出来る見込みとなっていた。
土の精霊まじ便利。
え?
そんなスピードで走っていたら、揺れが酷くて大変なじゃないか?
大丈夫だ。
馬車の車輪にはカッパーの能力で、クッションの役割を果たす水のタイヤがあるから。
お陰でまともに舗装もされていない様な砂利道を高速で移動しても、馬車内にはほとんど振動が伝わってこない。
まあなんだかんだ言って、水の精霊も超便利なんだよな。
「スパム男爵。どうぞお通り下さい」
町の門には検問があったが、荷物などをチャチャッと軽く確認されただけで通る事が出来た。
当然、他はこうはいかない。
軽い検査で済んだのは、俺が曲がりなりにも貴族だからだ。
まあいわゆる、貴族特典ってやつだな。
「立派だなぁ。人もいっぱいいるし」
「ふん、軟弱そうな奴らばかりだ」
そりゃ筋力Aのタゴルから見たら、大半の人間は軟弱だろうな。
まあそれを抜きにしても、厳しい環境で生き抜く村の人間に比べると確かに町の人間は軟弱に見えても仕方なくはある。
「もう、お兄ちゃんったら」
『油断するな。見た目に惑わされ、足を掬われる程無様な事はない。気合を入れて我らが神をお守りするのだ』
「ふん……」
ナタンがタゴルを諫めるが、まあこの町で何か起こる様な事はまずないだろう。
治安が物凄く良いって訳ではないが、流石に、買い出しをするだけだけならそういう事態に陥る可能性の方が遥かに低いはず。
「マイロード。武器を扱う店に到着いたしました」
大きな店の前で馬車が停止する。
どうやら町の門兵に聞いた、武器を取り扱う店についた様だ。
「さて……それじゃあ武器を売って、そのお金で買い出しをするとしようか」
俺は馬車から降り、馬車に積んできた黒鋼の武器を売るために店へと入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます