Day 9.団扇

 そーたくんそーたくんみてみて見てみて! すっごいの拾っちゃった! とみさきちがキラキラぱたぱたと突進してきたのを、おれが軽くいなすとまたパタパタと突っ込んでくるので再びいなして、ってスペインのオーレみたいのを何回か繰り返した頃にはもう話題を忘れているのがおれの同級生たる千野美咲ことみさきちで「ああああっつい、なんでこんなにあっついの。全部そーたくんのせい!」とか言いながら襟ぐりをパタパタしながら妙にでっかくて派手な団扇をパタパタさせている。

 大振りな黒い面に、百均で売ってそうな画用紙? 色紙? そんなんを張って、なんか書いてある。

 その団扇どうしたの?

「あーーー、そうだそうだ、これさー、拾ったのー」

 すっごい得意げに団扇の面を見せつけてくるけど、拾って喜ぶなよ団扇なんか。扇風機持ち歩いてんじゃん。

 なにそれ、風神……さま?

「そーそー、風神サマ。すっごいんだよ。そーたくんそこ立ってて」

 照り返しのきつい通学路で、俺は風神(でか文字)さま(控え目)と書かれた団扇を見せつけられる。扇いでくれるの?

 みさきちはニタニタ笑って、スカートをぎゅっとつかみ

「ほりゃ!」

 と団扇をひっくり返した。

 裏面の文字が見えた。


 こっち

 むいて!


 ぼん

 耳元に音をのこし、おれの背中を押すように風が吹いた。

 みさきちは目を細め、気持ちよさそうに風を受けている。

 着崩したブラウスの裾がぱたぱたと音を立てた。

 え、ほんとに? 偶然じゃないの?

「じゃー貸してあげるからそーたくんもやってみなよ!」

 え、ええ、こうか。こっちの面を前にして、風神さま、

 こっち

 むいて!

 

 ぼん!


 まってまってなにこれ、めっちゃすごいというか、怖いんだけど! もっかいやってみよ。

 ぼん!

 わははは、なにこれ。

 ぼん!

 繰り返して遊んでいると、風に乗ってなんか飛んできた。みさきちがパタパタと追いかけてって、拾って走ってきた。

「そーたくんそーたくんみてみて見てみて!」

 また似たような団扇だ、とみてみる。

 雷神……?

「ほりゃ!」

 やめろーーーーー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る