シェアハウス、はじめてみた。

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　昨夜（さくや）、公園（こうえん）にいたら謎（なぞ）の男（おとこ）がやって来（き）た。この謎（なぞ）の男（おとこ）を仮（かり）にXと名付（なづ）けよう。

　このXは急（きゅう）に俺（おれ）のところによって来（き）たと思（おも）ったら、いきなり『シェアハウスしてみない？』と言（い）った。俺（おれ）が戸惑（とまど）ってるうちにXは住所（じゅうしょ）を書（か）いた紙（かみ）を俺（おれ）に握（にぎ）らせて帰（かえ）っていった。

　普通（ふつう）なら、登場（とうじょう）から退場（たいじょう）まで謎（なぞ）でしかない存在（そんざい）だったはずだ。いつもの俺（おれ）ならこんな紙切（かみきれ）れそこら辺（へん）に捨（す）てているはずだ。

　でもなぜか、この紙（かみ）は捨（す）てられない。捨（す）てちゃいけない物（もの）のように思（おも）えた。

　ここに行（い）かなければと、本能（ほんのう）が言（い）っているようで、無意識（むいしき）に俺（おれ）は歩（ある）き出（だ）した。

　シェアハウスなら、仲間（なかま）がいるんだろう。そいつらなら、俺（おれ）の事（こと）も分（わ）かってくれるかもしれない。

　そんな小（ちい）さな望（のぞ）みにかけて、俺（おれ）は行（い）ってみることにした。

　これで無理（むり）だったら諦（あきら）めよう。全（すべ）て終（お）わりにしてしまおう。これで最後（さいご）だ。

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　ここがシェアハウスをする場所（ばしょ）か。

　結構（けっこう）大（おお）きな家（いえ）だ。となると、それなりに多（おお）い人（ひと）が参加（さんか）するってことだよな。

　まぁいいや。これが最後（さいご）なんだし、無理（むり）ならすぐやめればいい。

　ところでこれって中（なか）に勝手（かって）に入（はい）っていいのかな？不法侵入（ふほうしんにゅう）とか言（い）われない？ここまで来（きて）て警察（けいさつ）行（い）きとか嫌（いや）なんだけど。

　でも、チャイム見（み）つからないし。なんやかんやしてる間（あいだ）にこの家（いえ）の周（まわ）り３週（しゅう）ぐらいしてるんですけど。

　もういいや、不法侵入（ふほうしんにゅう）だろうがなんと言（い）おうがチャイムが着（つ）いていないのが悪（わる）い。俺（おれ）は入（はい）るからな。

　この際（さい）警察（けいさつ）でもなんでもいいさ、かかってこい。

「よし。」

　ガチャ

「こ、こんにちは～？」

　あれ？なにも反応（はんのう）がないな。家（いえ）のなか真（ま）っ暗（くら）だし、人（ひと）がいないのか？

　人（ひと）がいないなら、今日（きょう）はやめようかな。

　俺（おれ）だって人（ひと）がいない家（いえ）にズカズカ入（はい）り込（こ）むほどの常識知（じょうしきし）らずではない。

　うん、今日（きょう）は帰（かえ）ろう。明日（あした）だ明日（あした）。

「君（きみ）、シェアハウスしに来（き）た感（かん）じ？」

　なんだこいつ。

　でも、シェアハウスしに来（き）たのか聞（き）いてきたから、この人（ひと）もシェアハウスしてる人（ひと）なのか。

「で、どうなのさ。シェアハウスするの？しないの？」

「あー、します。ところで、誰（だれ）すかあんた。」

「あんたとはひどいな。お姉（ねえ）さん向（む）けて言（い）うことか？まぁいいか。」

　この人（ひと）のこういうしゃべり方（かた）をマシンガントークと言（い）うんだよな。このいう人（ひと）は苦手（にがて）だ。

　なんか、どうしたらいいか分（わ）からないっていうか、振（ふ）り回（まわ）されて疲（つか）れるんだよな。

「君（きみ）、何歳（なんさい）？ちなみに私（わたし）20歳（さい）。」

「お、俺（おれ）は18ですけど…」

　この突拍子（とっぴょうし）もない会話（かいわ）に、俺（おれ）は着（つ）いていくので精一杯（せいいっぱい）だから、余計（よけい）に振（ふ）り回（まわ）された感（かん）じになるのかもな。

　普通（ふつう）はこんなのが当（あ）たり前（まえ）なのか？

　俺（おれ）には、よく分（わ）からない。

「っていうか君（きみ）、荷物（にもつ）少（すく）なくない？ほぼ手（て）ぶらじゃん。」

「あ、あぁ。今日（きょう）は来（き）てみただけなので。」

　ほら、また。

「君（きみ）もあの変（へん）なおっさんに誘（さそ）われてきたんだろ。」

　ほら、また。この、コロコロ話題（わだい）が変（か）わっていく感（かん）じ。疲（つか）れる。

　君（きみ）、君（きみ）って呼（よ）ばれるのも上（うえ）から見下（みくだ）されているようで腹（はら）が立（た）つ。俗（ぞく）に言（い）う上（うえ）から目線（めせん）ってやつ。

「あ、はい。あの、俺（おれ）、和田（わだ） 真虎斗（まこと）って言（い）います。」

「あー、マコト。オーケー、オボエタヨ。」

　この反応（はんのう）、絶対（ぜったい）次（つぎ）来（き）たときにはまた君（きみ）に戻（もど）ってるんだろうな。

「そう言（い）う割（わり）にはカタコトですね。」

　そう言（い）った後（あと）、「俺（おれ）、今日（きょう）はもう帰（かえ）ります。さようなら。」と、一方的（いっぽうてき）に別（わか）れを告（つ）げ、帰（かえ）ろうとしたら。

「君（きみ）、1回（かい）ここに来（き）たからには絶対（ぜったい）に戻（もど）ってこいよ。1回（かい）ここに来（き）たやつは強制（きょうせい）参加（さんか）って言（い）うルールだからな。」

　なんてことを言（い）われる。この人（ひと）はなぜ、俺（おれ）を引（ひ）き留（と）めるんだろう。

「はぁ。」

　俺（おれ）なんかを引（ひ）き留（と）めたって何（なに）にもならないのに。

「絶対（ぜったい）だぞ～。」

　しつこい。

「分（わ）かりました。さようなら。」

「おー、気（き）をつけて帰（かえ）れよ－。」

　この人（ひと）としゃべってると俺（おれ）がマシンガントークが嫌（きら）いな理由（りゆう）が分（わ）かった気（き）がする。主導権（しゅどうけん）が握（にぎ）れなくて、うまくしゃべれているのか不安（ふあん）になるからだ。

　別（べつ）に主導権（しゅどうけん）を握（にぎ）りたいわけではない。でも、次（つぎ）、どんな話題（わだい）が来（く）るのかが予想（よそう）できない。これにうまく受（う）け答（こた）えできる自信（じしん）がない。

　これが俺（おれ）の不安（ふあん）の種（たね）になっているんだ。

　それが分（わか）かると、馬鹿（ばか）みたいに思（おも）えてきた。

　今（いま）さら不安（ふあん）がってどうする。

　関係（かんけい）を無理（むり）に保（たも）とうとしなくたって、不安（ふあん）に思（おも）わなくったって、どんなこれが最後（さいご）なんだから、最後（さいご）ぐらい自由（じゆう）にしてみたっていいじゃないか。

　馬鹿（ばか）だな俺（おれ）。