取材一日目

初めまして、愛しき幽体

次の日、宮部さんはやってきた。


「宜しくお願いします。」


「はい、宜しくお願いします」


「では、お願いします。」


ボイスレコーダーを置かれた。


「では、私が初めてお会いした幽体のお話を始めましょう」


私は、あの日を思い出しながら宮部さんに話しだした。


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私が、初めてビジョンを見たのは、11歳の夏休みだった。


「宝珠、また寝てるのですか?」


「えー。夏休みだし。いいじゃん。糸埜いとの


「ちゃんと修行しないと、悪霊に体を乗っ取られるぞ!」


「二条さん、やめてよ。怖い」


「二条、宝珠をいじめないで下さい。」


「はい、はい」


私は、いつも6歳上の二条さんと5歳上の糸埜に守られてばかりだった。


二人のお陰で、私はキラキラした小学生生活を送れていた。


「なんや、連れへんで。かったるいわぁー。」


関西の田舎町からやってきた。


満月豊澄まんげつとよすは、夏休みになるとこちらに遊びにきていた。


三日月家のものの一人であった。三日月三珠みかづきさんじゅが、婿として嫁ぎ跡を継いだのが、満月家だった。


言わば、分家のような存在だった。


「また、幽体をナンパしよってこの馬鹿たれが!!」


「痛いから、やめーや。くそジジイが」


「なんやと、豊澄」


まだ、15歳の豊澄は幽体との肉体関係を覚えてまもなかった為か、幽体をナンパして愛していた。


それをいつもいつも、三日月作珠みかづきさくじゅに、怒られていた。


「もう、わかった。わかった。離せや」


豊澄は、私の良き理解者だった。


「宝珠、あんな冷たい人間なったアカンで。皆、幽体に冷たいからな」


「うん」


「ほんなら、昼寝しよーかー」


「うん」


私は、豊澄といつも夏休みは一緒に眠っていた。


それは、ある晩の出来事だった。


私の幼い頃に、接触してきた魂で、唯一覚えている初めての幽体だった。


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『宝珠』


『宝珠』


『宝珠』

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何度か呼ばれて目が覚めた。


いや、実際には、まだ眠っていたかもしれない。


白いワンピースに、胸までの髪をなびかせて、一重だけれど大きな目をくるくる動かした。小さな鼻とは対照的な大きな唇で私に優しく微笑んだ。


「はい」


『私の痛みを受け取っておくれ』


「はい」


『宝珠、綺麗な子。優しい子。いつか、誰かを救える子。私達、幽体を愛せる子』


褒め称えられたのに、嫌な気分などしなかった。


私は、ドクンとビジョンを受け取った。


でも、今のような鮮明さも感情も流れない。


ただの、写真が見えるだけ。


「井戸?」


『宝珠いつか私を思い出して。ありがとうー』


黄金色のベールに包まれながら


とても、綺麗だった。


目が覚めた私は、泣いていた。


井戸の写真って、何時代だろうか?


気にはなっていたけれど、霊力がほとんど鍛えられていなかった私は、すぐにそんな事を忘れてしまった。


夏休みも中盤に差し掛かったある日の出来事だった。


[つづいてのNEWSです。本日、○○市の自宅敷地で……殺害後、妻を井戸に突き落とした夫が逮捕されました。]


そのニュースに身体が引き寄せられた。


「宝珠、何をしてる?」


「どいて」


二条さんや糸埜に怒られても、私はTVにしがみついた。


「宝珠」


彼女の写真が映し出されて、私はボタボタと涙を流した。


「宝珠、どないしたん?」


TVを抱き締めて、こう叫んだ。


「辛かったねーーー。よく、頑張ったねーー。」


ワンワンと泣き叫ぶ私を、豊澄と糸埜と二条さんが、宥め続けた。


私は、この日初めて幽体を愛した。


その日の夜、沢山の新聞を広げた、豊澄からこの人の事件の話を私は詳しく聞いた。


西峰美空にしみねみそら37歳。子を授かれなかったけれど、夫を愛し別れたくなかったのだけれど…。妊娠した不倫相手に、口論の上、刺され死亡。その後、自宅の井戸に夫に遺棄された。】


「なんちゅう酷い事件や!俺なら、愛してあげるのにな」


そう言って、豊澄はボロボロ泣いた。


「ええか、宝珠。幽体は愛しいんやで!男も女も関係あらへん。俺らみたいなれられるもんが愛してあげるんやで!わかったな?」


「はい」


私は、満面の笑みで豊澄に笑いかけた。

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