雨で流れる


目を覚ました。

腕の感覚が

腕に力が入らなくて。


「アリス」

「!ローズ!起きた!よかった……!」


目に入るアリス。

頬がこけてる。

「やせたな」と言おうとした。

頬を引っ張ってやろうかと手を伸ばそうとして。

腕が一ミリくらいしか動かない。


「腕、あんま動かないんだけど」

「お医者さんがしばらくは安静にしておいた方がいいって…」

アリスの冷たい手で髪を撫でられる。


「腕、いつ動くようになる」

「……」


そう尋ねると目を逸らし、下唇を噛み締めるアリス。


「答えて」

「……こ、固定、しなきゃ…いけなくて」

「答えろよ」

「…リハビリが、必要で」


リハビリ。


「どこ怪我してる」

「二の腕のあたり」

「……刺されたのか」

「…うん、縫って…動かさないように、安静に」

「どっちの、腕」

「……」

「答えろよ、死活問題なんだよこっちからすりゃあ」

「ローズ、ローズ大好きだよ」

「黙れ」

「何があってもローズの側にいるから」

「いいから答えろって!!!」

「両腕」












大好きと言われた意味が分かった


昔、アリスにこう言ったからだ


「私はギターを弾かないと生きていけない」と

「私にはギターしかない」と


生きる価値を、失った。


歌えなくなったアリスは、こういう気持ちだったのかと。


私はアリスが歌えなくなった時何を言っただろう。


アリス


「ローズ…ローズ…ごめん……私が、もっと……早く見つけてれば……!!」


何故か謝るアリス


「……リハビリ、すれば…弾けるんだよな」

「…うん」

「じゃあ、私、リハビリ頑張る」


鼻がツンと痛くなった。

アリスは微笑んで、優しく、抱き締めてくれた。


口に運ばれる食事

アリスはずっと側にいた

マーガロもカルマも隠れ家のみんな来てくれた


「私が辛い時支えてくれたから」

そう言うアリスが、大好きだった

本人には絶対に言ってやらないけど

大事な親友だよ


「アリス」

「うん?」

「マーガロは?」

「マーガロも今日はリハビリだから後で来ると思うよ」

「そっか」

「もうそろそろ自分で食べれる?」

「食べれるけど食べさせて欲しい」

「なにそれ…」



アリス。



お箸で魚の身をほぐすアリス。

慣れた手付きで私の口へ運ぶアリス。


「ローズ」

「うん」

「私の考えてることって、分かる?」

「まあ長い付き合いだからさ…ちょっとだけなら」

「…もしさ、私が、ローズを襲った白い男を…とっちめたら、うれしい?」

「……嬉しいけど、危険な目には遭って欲しくない」

「ありがとう」



今は、言葉の意味が

アリスのやろうとしていたことが分かる気がする


マーガロが襲われた時、花屋が襲われた時、私はアリスのようにとっちめてやろうかと思っていた。


白い男をぶちのめしてやろうかと、思った。

だけどそれ以上に、気付けず、マーガロを守れなかった自分を憎んだ。

ギターが、トラウマになった。


私がギターを弾かなければ、あいつらがギターへ触れなければ、こんな目には遭わなかったのかもしれないと。

トラウマになった。





雨で流れる血の跡

アリスが襲われた場所を囲む私達

アリスが、通報しようとしたのか、逃げようとしたのかは分からないけれど、隠れ家から、中庭まで引き摺ったように続く血の跡を囲むように並ぶ私達

雨で濡れた皆が同じ場所をじっと見つめている




崩れ落ちる者、ただ涙を流す者、放心状態の者。

怒りに満ちた目の者。




「う"あ"あ"あ"あ"ッッ!!!!!!!」

花束を抱え、声をあげて大泣きしている花屋。

こいつの背を撫でる。


「ごめんなさい……ごめんなさい…ッ」

遠くで泣きじゃくっている宿屋。

そいつを見つめてみる。


宿屋の隣にいる野良

の後ろにいる傷の男





















……あれ

こいつら……こんな似てたっけ?

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